メキシコは、中南米でブラジルに次ぐ経済規模を持つ戦略的成長市場であり、自動車・電機・医療機器などの製造業を中心に、輸出志向の経済構造を強めてきました。近年はニアショアリング需要の高まりを背景に、北部州を中心に外国直接投資(FDI)が過去最高水準に達しており、北米サプライチェーンの再編における中核拠点としての存在感がさらに増しています。
一方で、2025年は経済全体の減速やメキシコペソ高、輸入規制の強化、米国による追加関税リスクなど、貿易環境が複雑化しています。USMCAや日墨EPAによる関税優遇は引き続き大きなメリットですが、通関制度(VUCEM 2.0)や各種登録、IMMEX・PROSECといった優遇制度に対するコンプライアンス要件が大幅に引き上げられており、実務面での慎重な対応が不可欠です。
本記事では、こうした2025年時点のメキシコの貿易環境と最新の留意点を整理し、進出・取引を検討する企業が押さえるべき基礎知識をわかりやすく解説します。
メキシコの基本的な情報

メキシコは北中米に位置し、人口は1億人超、製造業を核にブラジルに次ぐ中南米第2位の経済規模を持つ国です。近年はニアショアリングの追い風を受け、北米向けの生産・物流拠点として存在感がさらに強まっています。一方で、為替・景気循環・エネルギー政策など、外部環境の影響も大きく、事業展開には基本情報の整理が不可欠です。
人口・言語・経済規模とマクロ動向
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 人口 | 約1億3,194万人(2025年推計) |
| 首都 | メキシコシティ |
| 公用語 | スペイン語(先住民族言語も国語として認定) |
| 通貨 | メキシコペソ(MXN) |
| 名目GDP | 約1兆6,900億ドル(2025年見込み) |
| 経済成長率 | 2023:3.2%、2024:2.1%、2025:1〜3Q累計 約0.5%(速報値) |
| 経済構成比 | サービス 64.5%、工業 31.9%、農業 3.6% |
多民族社会で若年層が多く、労働力人口が豊富です。2025年時点では景気減速や米国需要の弱含みがみられる一方、長期的には人口動態・地理的優位性が経済の底堅さを支えています。
産業構造:輸出型製造業と資源分野
自動車、電機、医療機器を中心に輸出型製造業が発展し、世界有数の自動車組立・部品生産拠点として知られます。近年はEV部品、半導体後工程、物流施設への投資が増え、サプライチェーン高度化が進んでいます。
天然資源にも恵まれ、石油・天然ガス・銅・銀などを豊富に保有します。特に銀は世界1位の生産量、石油は世界11位の生産国であり、エネルギー政策や環境規制は産業競争力に直接的な影響を与えます。
輸出入の特徴と主要貿易相手国
主要輸出品は自動車、車両部品、電気電子機器、医療機器、石油製品、金属鉱物で、2023年の輸出総額は約5,930億ドルと高水準です。一方、輸入は電気機械、自動車、石油、コンピュータ関連、天然ガスが中心で、製造業のサプライチェーンを支える中間財・資本財の比率が高いことが特徴です。
最大の貿易相手国は米国(輸出の約8割以上)で、USMCA発効以降、北米域内での生産・調達が加速しました。カナダ・EU・アジアとのFTA網も広く、近年はニアショアリングにより北部州を中心に工場・倉庫投資が集中しています。
一方で、2025年は米国需要の弱含み、エネルギー価格の上昇、為替高(いわゆる「スーパーペソ」)が輸出企業の採算を圧迫する要因となっており、短期的な景況感は不透明です。
このように、メキシコは労働コスト・資源・地理優位性を活かした長期ポテンシャルを持つ一方、為替・政策・米国市場の動向に影響を受けやすい市場です。進出や取引の検討時は、マクロ指標と産業規制の双方を継続的にフォローしてください。
メキシコの商品別の輸出入構成比

メキシコは製造業を基盤とした輸出型経済を展開しており、近年はニアショアリング需要の高まりを背景に 自動車・電子機器・半導体関連・医療機器の比重が増加しています。 2024年統計では、輸出総額が6,170億ドルを超え、製造品が輸出全体の約89%を占めるというデータも報告されています。
以下に、主に2023年の統計をベースとした商品別の輸出入構成比をまとめます。
商品別輸出構成比(2023年ベース)
| 品目 | 構成比(輸出全体) |
|---|---|
| 自動車 | 17.1% |
| 石油・石油製品 | 8.7% |
| 電気回路(半導体等) | 6.1% |
| コンピュータ | 5.2% |
| 自動車部品 | 4.6% |
| その他の機械類 | 4.4% |
| 輸出用トマト | 2.9% |
| 鉄鋼 | 2.5% |
| 電気機械 | 2.3% |
| 医療機器 | 1.9% |
製造業関連が輸出全体のおおよそ89%を占める構造になっています。 2024年データからは、自動車の輸出額が1,939億ドル(輸出全体の約31.4%)に拡大したという報告があります。
商品別輸入構成比(2023年ベース)
| 品目 | 構成比(輸入全体) |
|---|---|
| 自動車 | 15.2% |
| 電気回路(半導体等) | 10.3% |
| 石油・石油製品 | 9.5% |
| コンピュータ | 7.4% |
| 自動車部品 | 6.0% |
| その他の機械類 | 5.9% |
| 電気機械 | 4.7% |
| 鉄鋼 | 3.8% |
| 医薬品 | 3.0% |
| プラスチック | 2.6% |
2024年の速報値では、輸入総額が約6,258億ドルに達し、前年比で約4.5%増となっています。 中でも「電気機械・電子機器」が輸入全体の約19.4%を占めており、半導体・電子デバイス調達の重要性が浮き彫りとなっています。
総じて、メキシコの貿易構造は「製造業中心・対米依存」という特徴を維持しつつも、2025年時点では半導体・EV・医療機器の比重がさらに上昇する方向へシフトしています。
メキシコは自動車、電子機器、医療機器、石油製品など製造業中心の輸出型経済を展開しており、輸出総額は約6,170億ドル、輸入・輸出品目ともに製造セクターが約89 %を占める構造です。
輸出の約80 %以上が米国向けで、USMCAや日墨EPAなど多様な自由貿易協定を活用することで、関税優遇やサプライチェーン強化が進んでいます。
メキシコ市場を深く理解するためには、単なる品目別の構成比だけでなく、輸出プロセスや初期対応の基本を把握することが重要です。輸出準備の流れや必要な手続きについては以下の記事をご覧ください。

メキシコとの貿易における留意すべきポイント

メキシコとの輸出入取引では、関税制度や通関要件が他国と大きく異なるため、 各種許認可・登録・書類の事前準備が欠かせません。特に2025年以降は、電子通関制度(VUCEM 2.0)と 税務・労務コンプライアンスの厳格化が進んでおり、実務対応の難度が上昇しています。
以下では、必ず押さえておくべき主要ポイントを整理します。
1. 輸出入に必要な申請・登録制度
メキシコで輸出入を行うには、主務官庁への許可申請と事前登録が必須です。 品目によって複数官庁の許認可が必要になる場合もあり、事前の確認と準備が重要です。
主な輸出入関連官庁
| 官庁名 | 主な対象品目・管轄分野 |
|---|---|
| 経済省 | 一般工業品、IMMEX/PROSEC、登録管理 |
| SAT税関総局 | 通関管理、電子システム(VUCEM) |
| 国防省 | 銃器、爆発物、軍需関連品 |
| 環境・天然資源省 | 化学物質、環境規制物品 |
| 農業・地方開発省 | 農産品、植物、防疫関連 |
| 保健省 | 医薬品、医療機器、食品安全 |
| エネルギー省 | 石油、天然ガス、電力関連 |
| 公共教育省 | 書籍、教育資材 |
必要な登録制度の例
| 登録名 | 内容・対象 |
|---|---|
| 一般輸入業者登録 | 輸入を行う全企業に必須 |
| 通関士登録 | 国内通関を代行する代理人の資格 |
| IMMEX | 輸出型製造業向け税優遇制度 |
| PROSEC | 特定産業向け関税優遇制度 |
| 部門別輸出入登録 | 鉄鋼・繊維・農産品など特定品目に必要 |
2. デジタル化された通関手続きと電子書類
メキシコでは2012年以降、VUCEM(単一窓口)によるペーパーレス通関が義務化され、 2025年はVUCEM 2.0に移行し、事前電子申告の重要性がさらに増しています。
主な準備事項は次のとおりです。
- 単一窓口(Ventanilla Única)へのユーザー登録
- デジタル印章(Sello Digital)の取得
- インボイス、証明書等のPDFデータ送信による事前申告
3. 輸入時に必要な主な書類
輸入通関では、以下の書類が電子データで提出されます。 品目によっては追加書類(環境許可、衛生証明など)が必要となるため必ず事前確認が必要です。
| 書類名 | 内容・注意点 |
|---|---|
| インボイス | 価格証明。PDF形式で送信必須 |
| B/L または AWB | 輸送手段に応じた輸送証明 |
| 原産地証明書 | EPA/FTA適用に必要な場合あり |
| 非関税規制証明 | 医薬・農産・繊維など規制品で必要 |
| 推定価格保証金証明 | 中古品輸入で求められるケースあり |
| 識別・分析情報 | 化学品・食品で必要となることがある |
4. 輸出時に必要な主な書類
メキシコ向けの輸出では、主要書類を電子形式で事前に提出する必要があります。特に非関税規制の対象品は審査に時間がかかることもあるため、スケジュールに余裕を持った準備が重要です。
また、輸入側の通関士が追加資料を求めるケースもあるため、事前に取引先と要件をすり合わせておくとトラブルを防ぎやすくなります。
| 書類名 | 内容・注意点 |
|---|---|
| インボイス/価格証明書 | 必須書類。PDF形式で送信 |
| 非関税輸出規制証明 | 医薬品・希少金属などで必要 |
5. 実務上の注意点とアドバイス
メキシコとの貿易では、規制や通関ルールが突然変更されることも多く、最新情報を常に把握しておく必要があります。また、電子化が進んでいる一方で、現地での運用ルールが州や通関士によって異なるケースも少なくありません。そのため、制度理解と実務対応を合わせて進めることが重要です。
- メキシコの制度は通達ベースで頻繁に変更されるため、現地通関業者との緊密な連携が不可欠。
- IMMEX・PROSECを活用すれば、関税・VATが大幅に軽減される可能性あり。
- 日本とメキシコのEPAを活用し、正しい原産地証明を整備すれば、関税ゼロとなる品目も多数。
メキシコでの実務は制度や書類の種類が多く、初めて輸出に取り組む企業ほど準備とフローの理解が欠かせません。
基礎となる進め方や必須手続きは初めての海外輸出については以下の記事をご覧ください。

まとめ
メキシコは、北米市場との強固な結びつきや労働力・資源の優位性を背景に、長期的な成長ポテンシャルを持つ輸出型経済です。自動車・電子機器・医療機器などの製造業を軸に海外投資を呼び込み、USMCAや日墨EPAを活用した関税優遇が競争力の源泉となっています。
一方で、2025年時点では通関の電子化、登録制度、税務・労務のコンプライアンスなど実務負担が増大しており、米国政策や為替変動の影響も看過できません。
進出・取引を検討する際は、品目ごとの制度要件や必要書類を丁寧に整理し、現地通関業者・パートナーとの連携を強化することが重要です。特にIMMEXやPROSECといった優遇制度の適用可否は事業収益に直結するため、初期段階から適切な選択を行うことが成功への近道となります。
複雑な規制や通達変更に対応するためにも、一度専門家に相談することをおすすめします。




