国内アパレル市場は縮小傾向にあり、2000年から2019年までの19年間で消費額が34.4%も減少しました。一方で、SNSトレンドや越境EC活用などにより、海外市場への販路開拓が注目を集めています。
本記事では、こうしたアパレル貿易の現状とニーズの背景を整理します。
国内アパレル業界の貿易のこれまで

日本のアパレル産業は、商社主導の時代からSPAモデル、そしてD2Cへと大きく構造変化してきました。貿易の役割も「輸出から輸入」「卸から直取引」「大量生産から分散生産」へと移り変わっています。
以下では、1970年代から2020年代にかけての主な変遷を整理していきます。
商社主導から輸入拡大へ(1970〜1980年代)
1970年代、日本のアパレル産業は商社が繊維貿易をリードし、百貨店・専門店中心に市場が拡大しました。有名な繊維企業が誕生し、国内紡績業の全盛期とも言える時代です。
しかし1980年代に入り、プラザ合意による円高を契機に構造転換が始まります。輸出中心から輸入増加へとシフトし、海外ブランドが日本市場を席巻しました。原材料は商社、企画販売はアパレルという役割分担が一般化します。
SPAモデルの登場とダイレクト貿易(1990〜2000年代)
1990年代になると、中国の輸出生産が本格化し、アパレル小売企業が商社を介さずに直接貿易する動きが拡大しました。企画から販売までを一気通貫するSPA(製造小売)モデルが普及し、低価格かつ高品質な製品が中国で製造され日本へ輸入されるようになります。
2000年代にはこのSPAが大量生産を推進し、物流効率化のために「バイヤーズコンソリデーション」が導入されました。複数の生産元の商品を1つのコンテナでまとめる手法により、通関や物流コストを抑えることが可能となり、生産拠点はインドネシア・ベトナム・タイへ段階的に移行しました。
D2Cと二極化する市場(2010〜2020年代)
2010年代には、生産・販売の両サイドで二極化が進みます。ECを活用したD2Cが成長し、企業が消費者へ直接販売するモデルが広がりました。一方で、ASEANのFTA/EPA恩恵により製造品質が向上し、サプライチェーンはさらに成熟します。販売面では、低価格を武器に大量販売するファストファッションと、ブランド性やニッチ性を重視する高価格帯の戦略が併存。
2020年代に入り、中国の工場停止によってD2Cの調達リスクが顕在化する一方、百貨店・EC・越境プラットフォームなど販路は多層化し、消費者利便性は向上しました。
アパレル貿易のニーズ拡大の背景

国内アパレル市場は長期的な縮小傾向にあり、従来の国内販売中心のモデルでは成長が難しくなっています。そのため、企業は海外市場や越境ECを含む新たな販路を求め始めています。
以下では、アパレル貿易のニーズが拡大する背景を具体的に整理します。
国内市場の縮小と消費者マインドの変化
なぜ今、アパレル業界において貿易が注目されているのでしょうか。それは国内市場が縮小しているからです。総務省の家計調査によると、2000年から2019年までにアパレル消費は34.4%も減少しています。
コロナ禍による外出機会の減少や景気低迷により、消費者は嗜好品より生活必需品に支出を回す傾向が強まりました。衣服は「必要以上に買わない」対象になり、国内需要は長期的に縮小しています。
低価格・高品質の台頭とトレンド需要の分散
海外生産による低価格でも高品質な商品が普及し、国内メーカーの高品質な繊維製品や高級ブランド以上に、SNS発のトレンド服・短サイクル商品への需要が高まっています。製品を選ぶ基準が「素材・耐久性」から「今すぐ着たい」「写真映え」へとシフトしているのです。
訪日需要から越境EC・海外展開へ
日本のアパレル消費を支えていたのは、中国などの訪日外国人が大きな割合を占めていました。しかしコロナでインバウンドは一時消失し、国内小売はECへ急速に移行しました。
その経験を活かし、国内企業は海外向けECサイトや越境販売を強化する動きを見せています。海外市場では日本以上に外出制限が弱く、購買意欲も回復が速いため、需要の取り込み余地があります。
EC市場の拡大が後押し
経済産業省によれば、2021年の国内アパレルEC市場は2兆4,279億円、EC化率は21.15%に達しました。販売チャネルが多様化しつつあるため、企業は国内販売に固執せず、海外市場を視野に入れた戦略構築が求められています。
国内アパレル業界は市場縮小の影響を受けていますが、EC化と越境ECの活用により海外展開のチャンスが広がっています。特にTmallやShopeeといった主要プラットフォームを活かすことで、日本ブランドは新たな販路を確保し競争力を維持できます。
アパレル輸出を検討する際、海外販売に必要な書類や物流、通関の流れを把握できていないと失敗リスクが高まります。
輸出の基本ステップを整理した海外輸出の流れについては以下の記事をご覧ください。

売上上昇中の越境ECとは

では具体的に、越境ECはどのように売り上げを伸ばしていけるのでしょうか。国や地域によって主要ECプラットフォームは大きく異なるため、ここでは代表的な例を地域別に紹介します。
中国市場:巨大消費圏を支配するTmallとVip.com
まずは中国のTmallとVip.comです。Tmallは中国市場トップクラスのECサイトで、市場シェア率は60%以上といわれています。流通規模は22兆円規模で、16兆円のAmazonを上回る巨大マーケットです。
日本企業ではソニー、パナソニック、ユニクロ、三越、伊勢丹など多くのブランドが出店しており、中国向け越境ECの中心的存在となっています。台湾市場:女性ユーザーが支持するmomo購物網
台湾では、momo購物網が女性利用者No.1のECサイトとして圧倒的な人気を誇ります。2005年の開始以来急成長し、2018年には国内最大ECとなり、2019年には最高売上を記録。コロナ禍でも競合を圧倒する勢いで業績を伸ばしています。
定期セールやクーポン配布、翌日配送の常時提供など、ユーザー利便性を徹底した仕組みが強みで、レビュー文化も発達しており購買転換に寄与しています。東南アジア市場:Shopeeが牽引する実用型EC
東南アジアで最も存在感を持つのがShopeeです。シンガポール、台湾、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピンのほか、中南米など14地域以上に展開しています。
2015年の開始からわずか5年で、それまで1位だったLazadaを抜き、2021年にはアプリダウンロード数で世界1位を記録。圧倒的な浸透力を示しています。
販売手数料は1〜2%と安く、出店費用や維持費が不要な点も販売側のメリットです。新興市場では「安い・早い・分かりやすい」が重視され、日本製品との相性も良いのが特徴です。
ここまでで、国内アパレル市場の縮小とEC強化の流れを踏まえつつ、東アジア〜東南アジアにかけて勢いのある越境ECプラットフォームを紹介しました。
越境ECで成果を出すには、単に出店するだけでなく、市場選定・在庫構成・価格戦略まで含めた事業計画が欠かせません。
海外展開の成功要素をまとめた海外ビジネスを成功させる戦略・事業計画については以下の記事をご覧ください。

まとめ
国内アパレル産業は、1970年代の商社主導からSPAモデル・D2Cの普及を経て、ECと越境販売を軸に大きく構造転換してきました。一方で、国内消費は長期的な縮小が続き、高品質でも低価格な海外製品やSNS主導のトレンド需要が市場を分散させています。
こうした変化の中で、東南アジア・中国・台湾といった成長市場を対象にした越境ECは、国内販売に代わる有力な販路となっています。海外展開を検討する際は、市場選定、商品構成、物流・通関の要件を事前に整理し、継続的に改善できる体制を整えることが重要です。
リスクを抑えて成果を最大化するためにも、一度専門家に相談することをおすすめします。




