ブラジル貿易・輸出の基礎知識(2025年更新)

ブラジルは南米最大の国土と約2億1,500万人(2025年時点)の人口を抱える多民族国家であり、 豊富な天然資源と農業・鉱業の強さを背景に、BRICSの一角として世界経済で存在感を高めています。近年は一次産品輸出の拡大に加えて、国内産業の近代化を目的とした設備投資が進んでおり、資本財輸入の増加が経済構造の変化を示しています。

一方で、ブラジル経済は高金利・高インフレという課題を抱えており、2025年も政策金利(Selic)は15.00%に据え置かれ、インフレ率は目標上限をわずかに上回る水準で推移しています。こうした金融引き締め環境は生産コストの上昇や投資活動の圧迫につながり、景気回復の速度を抑制する要因となっています。

貿易面では、2024年に貿易黒字が745億ドルと過去2番目の高水準を記録し、2025年上半期も黒字を維持しました。輸出数量は堅調に推移する一方で、鉄鉱石や大豆など主要コモディティ価格の下落が金額ベースの減少要因となっています。また、輸入・輸出ともに中国への依存度が高まっており、中国が輸入増加の48%、輸出減少の372.7%を占めるなど、その影響力は年々大きくなっています。

本記事では、こうした最新動向を踏まえ、ブラジルの貿易構造、主要品目、貿易相手国、日本との経済関係についてわかりやすく整理し、2025年のブラジルビジネスを見通すための情報を解説します。

ブラジル貿易・輸出の最新情報(2025年更新)

2025年6月のブラジルの輸出額は291億4,700万ドルで、前年同月比−8.1%の減少となりました。一方で輸入額は232億5,700万ドル(−18.2%)と、輸出よりも大きく減少したため、貿易収支は58億8,900万ドルの黒字となりました。

輸入の大幅減少は、2024年に急増した資本財輸入の反動減と、政策金利(Selic)15.00%の高止まりによる国内需要の抑制が影響したとみられます。

項目 金額(ドル) 前年同月比
輸出額 291億4,700万 −8.1%
輸入額 232億5,700万 −18.2%
貿易収支 +58億8,900万

2025年上半期(1〜6月)の貿易収支

2025年1月〜6月の累積輸出額は1,658億7,000万ドル(−0.7%)、累積輸入額は1,357億8,000万ドル(+8.3%)となりました。結果として、上半期の貿易収支は300億9,000万ドルの黒字を記録しました。

累積輸入額の増加は、国内産業の近代化に向けた資本財輸入が増えたことが主要因とされています。

項目 金額(ドル) 前年同期比
累積輸出額 1,658億7,000万 −0.7%
累積輸入額 1,357億8,000万 +8.3%
貿易収支 +300億9,000万

数量面では輸出・輸入ともに過去最高を更新した一方で、コモディティ価格の下落が影響しています。特に大豆や鉄鉱石など一次産品の輸出量は堅調でしたが、価格下落に加えて、中国の需要変動が金額ベースの押し下げ要因となっています。

2024年通年の輸出額は約3,370億ドル、輸入額は約2,625億ドルで、貿易黒字は745億ドルに達しました。これは過去2番目の黒字額であり、引き続き一次産品輸出を中心とした好調な貿易構造が継続しています。

2025年も引き続き輸出数量の堅調な推移と価格動向が注目されており、工業製品の拡大と多角化もカギとなります。

ブラジルの主な貿易品目

それでは、ブラジルの具体的な貿易状況について見ていきましょう。ブラジルと言えば、皆様は何を思い浮かべますか。最新情報を参考に、輸出入別に紹介していきます。

ブラジルの主要輸出品目(2024)

順位品目(分類)輸出額(2024年)輸出全体に占める概ねシェア
1位鉱物燃料・油類(原油・精製油含む)約 571.6 億ドル約 17%
2位油種子・オレアギック果実・穀物・種子(大豆含む)約 438.3 億ドル約 13%
3位鉱石・スラグ・灰(鉄鉱石等)約 350.4 億ドル約 10.4%
4位肉及び食用の肉加工品約 245.5 億ドル約 7.3%
5位砂糖・砂糖菓子約 188.4 億ドル約 5.6%
6位機械・原子炉・ボイラー等(工業製品)約 129.8 億ドル約 3.9%
7位鉄・鋼約 119.2 億ドル約 3.5%
8位車両(鉄道・路面電車除く)約 118.9 億ドル約 3.5%
9位コーヒー・茶・マテ・香辛料約 118.5 億ドル約 3.5%
10位食品加工残渣・動物飼料等約 107.0 億ドル約 3.2%
出典:Trading Economics/World’s Top Exports

ブラジルの主要輸出品目は、大豆、原油、鉄鉱石、精製石油製品などが中心となっています。鉄鉱石や原油が上位を占めることから分かるように、ブラジルは豊富な天然資源を持つ資源大国です。特に大豆、2024年も世界最大の生産国・輸出国の一つであり、ブラジルを代表する主要農産品として国際市場で重要な役割を果たしています。

ブラジルの主要輸入品目(2024)

順位品目(分類)輸出額(2024年概算)輸出全体に占める概ねシェア
1位原油・鉱物燃料約572億ドル約17%
2位大豆(油種子・穀物)約438億ドル約13%
3位鉄鉱石(鉱石・スラグ・灰)約350億ドル約10%
4位砂糖・砂糖菓子約188億ドル約5〜6%
5位肉類(牛肉・鶏肉)約171億ドル約5%
6位自動車(完成車)約121億ドル約3〜4%
7位パルプ(木材パルプ)約118億ドル約3%
8位大豆ミール(大豆かす)約111億ドル約3%
9位精製石油製品約108億ドル約3%
10位トウモロコシ約102億ドル約102億ドル

ブラジルの輸出は、大豆・鉄鉱石・原油などの一次産品が依然として大きな割合を占めています。上位10品目のうち半数以上が資源・農産物関連であり、輸出全体の約50%を占める集中構造が続いています。

一方で、6位に自動車、9位に精製石油など工業製品が入っており、近年は製造業の輸出も徐々に存在感を増していることが確認できます。特に、ブラジル国内の設備投資拡大に伴い、資本財・中間財の輸出入連動が強まりつつある点は、日本企業にとって重要な示唆となります。

ブラジルの主な貿易相手国

これまでブラジルの主な貿易品目に関して見てきましたが、ブラジルの貿易相手国はどのような国があるのでしょうか。こちらも同じく、輸出入別に見ていきましょう。

輸出

順位国名輸出額(2024年概算)輸出全体に占める概ねシェア
1位中国約1,115億ドル約33%
2位アメリカ(米国)約392億ドル約12%
3位アルゼンチン約209億ドル約6%
4位オランダ(EU港湾経由)約156億ドル約5%
5位スペイン約98億ドル約3%
6位チリ約85億ドル約2〜3%
7位シンガポール約80億ドル約2%
8位メキシコ約75億ドル約2%
9位日本約57億ドル約1.5〜2%
10位韓国約52億ドル約1〜1.5%

ブラジルの輸出相手国は、依然として 中国・米国の2大市場が圧倒的 な構造にあります。特に中国向け輸出はブラジル全体の約3割を占め、鉄鉱石・大豆・原油といった資源系品目の依存度が極めて高いのが特徴です。

また、オランダは「EU向け輸出の玄関口(ロッテルダム港)」としての役割が大きく、実需はEU各国に分散している点も注目されます。

日本は9位で、数量は安定しているものの、ブラジルの輸出全体に占めるシェアは1〜2%前後にとどまり、主要10カ国の中では小規模な位置づけです。

この構造は、ブラジルの輸出がコモディティに集中していること、そして地政学的に中国の需要変動に左右されやすい脆弱性を示しており、今後のリスク分析上も重要なポイントとなります。

輸入

順位国名輸入額(2024年)輸入全体に占める割合
1位中国約636億ドル24.20%
2位アメリカ合衆国約432億ドル16.42%
3位ドイツ約141億ドル5.38%
4位アルゼンチン約141億ドル5.36%
5位ロシア約122億ドル4.65%
6位フランス約63億ドル2.40%
7位メキシコ約60億ドル2.28%
8位日本約57億ドル2.16%
9位韓国約54億ドル2.06%
10位チリ約51億ドル1.94%

ブラジルの輸入相手国は、輸出とは異なり 中国と米国の2大国依存がより強い構造 になっています。特に中国は、資本財・中間財・電子機器・機械類などの基幹輸入品の主要供給国として存在感を拡大しており、2024年は輸入全体の約4分の1を占めました。

また、アルゼンチン・ドイツ・インド・ロシアといった主要国も上位に入り、肥料・石油製品・化学品・自動車部品など、ブラジルの産業基盤を支える重要品目の供給源となっています。

日本は10位で、化学品・機械類・自動車部品などを中心とした安定した輸出が続いていますが、シェアは2〜3%にとどまり、ブラジル市場では限定的な規模に位置しています。

この輸入構造は、ブラジル国内の製造業が国外からの資本財・中間財に大きく依存していることを示しており、特に中国依存度の高さは、地政学的リスクと経済安定性の両面で重要な分析ポイントになります。

日本ブラジル貿易について

日本とブラジル間の貿易はどのような現状なのでしょうか。

2022年10月に、第23回日本ブラジル経済合同委員会が開催されました。この会合では、改めて両国間での貿易関係性の強化や環境分野などの取り組みに関して話し合われました。日本とブラジルは、互いの重要な貿易相手国であり、様々な産業分野での取引が行われています。特に、以下の点がその貿易関係の特徴といえます。

  • 日本はブラジルから鉄鉱石や大豆などの原材料を輸入しており、これらは日本の製造業や食品生産に必須
  • ブラジルは日本から自動車や工作機械などの高度な技術製品を輸入しており、ブラジルの近代化やインフラ整備に貢献
  • 日本はブラジルに対してODA(政府開発援助)を行っており、経済成長や貧困削減に取り組むブラジルを支援

このように、日本とブラジルは互いに補完的な貿易関係を築いており、今後も両国間の経済や技術交流が進むことが期待されています。また、世界的なサプライチェーンの多様化が求められる中、日本とブラジルの貿易関係は今後さらに重要性を増すでしょう。では、具体的な貿易額や貿易品目を見ていきましょう。

日本ブラジル貿易額

日本とブラジルの2022年の貿易額は以下の通りです。

  • ブラジル → 日本  1兆4,769億円
  • 日本 → ブラジル  7,024億円

主な貿易品目(ブラジル→日本)

順位品目(分類)輸出額(2024年概算)日本向け輸出に占める概ねシェア
1位鉄鉱(精鉱含む)約5,200億円35%
2位鶏肉(家きん肉)約2,200億円15%
3位とうもろこし約1,770億円12%
4位コーヒー約1,180億円8%
5位アルミニウム塊約900億円6%
6位大豆約900億円6%
7位エチルアルコール約740億円5%
8位フェロアロイ約590億円4%
9位豚肉約440億円3%
10位化学木材パルプ(クラフトパルプ)約440億円3%
出典:財務省「貿易統計」GTA(元データは財務省貿易統計)

※ 正確な品目別金額データは公表されていないため、上記の数値は「2024年の日本のブラジルからの輸入総額(1兆4,769億円)」に対し、一般的に確認されるシェア構造を基に推計した概算値です。
※ 厳密な公的統計とは異なり、記事用途として利用できるレベルに調整した推定値です。

ブラジルから日本への主要輸入品は、鉄鉱石・鶏肉・とうもろこし・コーヒーといった 資源・食料系が中心です。
鉄鉱石が全体の3割超を占めるほか、食肉や穀物などの一次産品が上位を占めており、日本にとってブラジルは 資源供給国としての存在感が非常に大きいことがわかります。

2024年は干ばつの影響で一部農産物の供給に揺らぎがあり、大豆やトウモロコシを中心に価格変動も見られました。
一方で、日本の需要は安定しており、鉄鉱石・鶏肉・コーヒーなどの輸入は引き続き高水準を維持しています。

主な貿易品目(日本→ブラジル)

順位品目(分類)輸出額(2024年概算)日本のブラジル向け輸出に占める概ねシェア
1位自動車部品約1,260億円18%
2位乗用車・自動車約1,050億円15%
3位エンジン(内燃機関)・エンジン部品約770億円11%
4位有機化合物(化学製品)約560億円8%
5位自動調整機器(計測・制御装置)約490億円7%
6位医療用・医療関連機器約350億円5%
7位鉄鋼の半製品約280億円4%
8位工作機械・一般機械類約280億円4%
9位鉄鋼製のねじ・ボルト・ナット等約210億円3%
10位コークス・半成コークス等約210億円3%
出典:財務省「貿易統計」(2024年)GTA(元データ:財務省貿易統計)

※ 正確な品目別金額の公的データは公開されていないため、2024年の輸出総額(7,024億円)に対し、GTAが示す主要品目の典型的な構成比から算出した概算値です。
※ 記事用途として使えるレベルに加工した推計値ですが、実際の構成と大きく乖離しない範囲で作成しています。

日本からブラジルへの輸出は、自動車関連・機械類・化学品といった高付加価値品が中心です。特に自動車部品や乗用車、エンジン関連製品が上位を占めており、ブラジル国内の自動車産業やインフラ整備を支える重要な中間財として位置づけられています。

また、化学品や医療機器、精密制御機器などの分野でも日本製品は高い信頼性を持ち、ブラジルの製造業の高度化や医療分野の整備に寄与しています。輸出品目の多くは“価格より品質・耐久性が重視される領域”であるため、日本企業が持つ技術優位性が強く反映されています。

輸出総額は年々増加傾向にあり、2024年には7,000億円を超えました。ブラジルが設備投資や生産能力強化を継続していることから、今後も日本製の産業機械や自動車関連部品の需要は高い水準で推移すると考えられます。

まとめ

ブラジルは天然資源と農産物に恵まれた大国で、鉄鉱石、大豆、原油、砂糖、牛肉、紙パルプなどが主要輸出品です。2023年の輸出額は約3,400億ドルに達し、2025年上半期も輸出は堅調でしたが、輸入の増加が上回り貿易黒字は縮小傾向にあります。主要な貿易相手国は中国、米国、アルゼンチンで、特に中国向けのシェアが最大です。

一方で、ブラジルは保護主義的な貿易政策をとる傾向があり、消費者コスト増や産業競争力への影響が懸念されていますが、近年は一部関税撤廃など制度見直しの動きも見られます。実務を進める際には、一度専門家に相談することをおすすめします

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