ホルムズ海峡封鎖の現実味:世界・日本経済への影響【最新分析】

 

目次

    2025年6月、世界は再び中東発の重大な地政学リスクに直面しています。米国によるイラン核施設への空爆を契機に、イラン国会がホルムズ海峡封鎖を求める方針を承認し、封鎖の現実味が一気に高まりました。最終的な判断はイランの国家安全保障最高評議会および最高指導者ハメネイ師に委ねられていますが、この動きは日本を含むエネルギー輸入国に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

    ホルムズ海峡とは

    ホルムズ海峡はペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ全長約160km、最狭部はわずか33kmの海上交通の要衝です。世界の海上原油取引の約20%、LNG取引の約20%がこの海峡を通過し、日本の原油輸入の約9割が中東に依存、そのうち8割以上がホルムズ海峡経由とされています。

    この海域の安定性は、日本をはじめとするアジア諸国や欧州のエネルギー安全保障に直結しています。

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    封鎖の現実性とその意図

    2025年6月22日、イラン国営通信は、米国の核施設空爆への対抗措置として、イラン国会がホルムズ海峡の封鎖を支持する決議を採択したと報じました。元革命防衛隊幹部で国会内最強硬派の一人とされるコウサリ議員は「国会はホルムズ海峡を封鎖するという結論に達した」と明言し、過去の抽象的な示唆とは異なる具体的な政治的メッセージと受け取られています。

    ただし、現実に封鎖が行われる可能性については限定的との見方が一般的です。ホルムズ海峡はイラン自身の原油輸送にも不可欠であり、完全封鎖はイラン経済への自傷行為ともなり得ます。そのため、実行には至らず、主に外交的圧力や国際世論への影響を狙った「威嚇カード」として利用されていると分析されます。

    イランが取り得る封鎖手段とその現実性

    イランがホルムズ海峡封鎖を示唆する背景には、対米報復の意思表示や国内強硬派の求心力維持、外交交渉における駆け引き、地域内での抑止力誇示といった政治的意図があります。

    実際の封鎖に至らなくとも、その可能性をちらつかせることでアメリカや湾岸諸国への圧力を高め、自国に有利な交渉環境を作る狙いがあります。内政・外交の双方における戦略カードとして、封鎖示唆は極めて象徴的な意味を持っています。

    項目 内容
    機雷の敷設 海上交通の妨害を目的。国際法違反の懸念があり、米軍などの除去作戦で無力化される可能性も高い。
    高速艇による妨害 小型武装艇による商船拿捕や威嚇行動。実際に過去にも外国籍タンカーを拿捕した。
    ドローン攻撃 サウジ油田攻撃(2019年)の例からも、無人機による精密攻撃の能力はあるが、報復を受けやすいリスクが伴う。
    対艦ミサイルの使用 発射すれば即座に軍事衝突に発展する恐れがある。
    サイバー妨害 サイバー攻撃は実行可能だが、証拠の特定が困難である反面、報復リスクも存在する。
     

    イランが封鎖を示唆する政治的意図

    項目 内容
    対米報復の意思表示 核施設攻撃への「対価」として海峡封鎖を示唆し、アメリカに軍事行動の代償を意識させる狙い。
    国内強硬派の求心力維持 保守派議員主導の決議を通じて、国内の反米世論を喚起し体制内の結束を図る。
    外交交渉の材料 JCPOA再交渉などを視野に入れ、封鎖を交渉カードとして用いることで自国に有利な外交条件を引き出す意図。
    地域内抑止力の誇示 湾岸諸国やイスラエルに対する軍事的威圧と、シーア派勢力との結束強化を図る側面もある。

    イランがホルムズ海峡封鎖を示唆する背景には、対米報復の意思表示や国内強硬派の求心力維持、外交交渉における駆け引き、地域内での抑止力誇示といった政治的意図があります。

    実際の封鎖に至らなくとも、その可能性をちらつかせることでアメリカや湾岸諸国への圧力を高め、自国に有利な交渉環境を作る狙いがあります。内政・外交の双方における戦略カードとして、封鎖示唆は極めて象徴的な意味を持っています。

    封鎖がもたらす経済的影響

    ホルムズ海峡が封鎖された場合、世界のエネルギー市場は深刻な混乱に直面します。2025年6月、米国によるイラン空爆の影響で、ブレント原油価格は一時1バレル=78ドル台まで急騰しました。情勢がさらに悪化すれば、100ドルを超える水準に達する可能性も現実的です。

    原油のみならず、LNG市場でも供給不安が広がり、価格の高騰が見込まれています。特に中東に依存度の高いアジア諸国は、その影響をもろに受けることになります。加えて、VLCC(超大型原油タンカー)のチャーター料は、封鎖リスクの高まりとともに短期間で倍増。リスク回避のための航路変更や停泊が相次いでおり、物流の停滞が起きています。

    代替輸送手段として挙げられるのは、サウジアラビアの東西パイプライン(ペトロライン)やUAEのフジャイラ港ルートですが、いずれも輸送能力に限界があり、ホルムズ海峡の完全な代替とはなりません。

    世界経済への主な影響

    項目 内容
    原油価格の急騰 原油市場が封鎖懸念を織り込み価格が上昇、1バレル100ドル超も視野
    LNG市場の混乱 カタール産LNGの供給が滞る恐れがあり、特にアジア市場に混乱をもたらす。
    海上輸送の停滞 船舶の迂回・停泊により、原油・LNGの到着遅延と運賃の急騰が発生。
    代替ルートの限界 サウジやUAEのパイプラインでは輸送能力が不十分で、完全封鎖に対処できない。
    経済成長の鈍化 エネルギー価格高騰が企業活動や家計に波及し、景気減速を招く。

    ホルムズ海峡が封鎖される事態は、世界経済に極めて深刻な影響を及ぼします。まず原油価格は、供給の不安定化を織り込んで高騰し、1バレル=100ドルを超える可能性も現実味を帯びています。これは世界中の燃料コスト上昇とインフレ加速を招きます。次にLNG市場も混乱が必至で、特にカタール産LNGへの依存度が高いアジア諸国では供給遅延と価格上昇が避けられません

    また、海上輸送の停滞により、タンカーの迂回や一時停止が相次ぎ、運賃も急騰しています。代替ルートとしてサウジアラビアやUAEのパイプラインが挙げられますが、その輸送能力は限定的で、ホルムズ海峡の役割を代替するには不十分です。結果として、原材料コストの上昇が企業の生産・物流に波及し、家計負担も増大。世界の多くの国で景気の減速が懸念され、経済全体が鈍化するリスクが高まります。エネルギー市場の動揺は、地政学リスクが経済に直結する現実を改めて浮き彫りにしています。

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    日本への影響

    項目 内容
    エネルギー輸入への打撃 日本の原油輸入の約9割が中東依存、その大部分がホルムズ海峡を経由。封鎖されれば輸入コストと不安定性が急増。
    ガソリン・電気料金の上昇 原油・LNG価格の上昇は国内のガソリン価格や電気料金に直接反映され、消費者物価が上昇。
    経済活動への波及 エネルギーコストの増加が企業の生産コストや物流費を押し上げ、企業収益を圧迫。
    海運業・商社への影響 VLCCやLNG船の運航リスク増大により、海運企業や資源取扱商社にとってはコストと収益性の両面で圧力。
    政府対応の強化 備蓄放出の検討、エネルギー調達先の分散、自衛隊による情報収集などが急務に。

    日本はエネルギーの多くを中東に依存しているため、ホルムズ海峡の封鎖は「輸送路の危機」であると同時に「国家の経済安全保障危機」でもあります。仮に封鎖が一時的であっても、その影響は数週間、数か月単位で波及し、物価や景気動向に強い影響を及ぼすことが避けられません。今後の展開に応じて、柔軟かつ迅速なエネルギー政策の見直しとリスク対策が求められます。

    日本のホルムズ海峡依存度

    項目 内容
    原油輸入全体に占める

    中東依存度

    約88〜90%(2024年時点)
    ホルムズ海峡経由の

    原油輸入割合

    約80〜85%(全原油輸入のうち)
    LNG輸入に占める

    中東依存度

    約10〜15%(主にカタール産)
    日本向けタンカーの

    ホルムズ通過割合

    中東発のタンカーの大多数(推定80%以上)が通過

    日本はエネルギー資源のほとんどを輸入に依存しており、そのうち原油は中東諸国(サウジアラビア、UAE、クウェート、カタールなど)からの供給が中心です。これらの国から輸出される原油・LNGのほぼすべてがホルムズ海峡を通過するため、同海峡の安定性は日本経済にとって極めて重要です。

    特に、輸入原油の約4分の3がサウジアラビアとUAEの2国から来ており、いずれもホルムズ海峡が唯一の主要輸送経路です。そのため、同海峡が封鎖されれば、日本は代替供給先の確保や石油備蓄の放出など緊急措置を余儀なくされる可能性が高まります。

    まとめ

    ホルムズ海峡は、単なる海上交通路ではなく、国際秩序と経済安定の根幹を支える存在です。今後の情勢次第では、より深刻な局面に至る可能性もあるため、企業や政府は早期の備えと柔軟な対応が求められます。

    特に日本のように中東からのエネルギー供給に大きく依存している国にとっては、ホルムズ海峡の安定は国家安全保障の中核に位置づけられます。なお、影響の大きさと不確実性を踏まえ、具体的なリスク対応策については、専門家に一度相談してみることをおすすめします。今後も冷静かつ継続的な情勢分析と情報収集が不可欠です。

    伊藤忠商事出身の貿易のエキスパートが設立したデジタル商社STANDAGEの編集部です。貿易を始める・持続させる上で役立つ知識をお伝えします。