FCA(運送人渡し)は、売主が指定の場所で買主の運送人に貨物を渡した時点で、費用とリスクが買主に移るインコタームズの条件です。コンテナ輸送や航空輸送が広がった今、取引先からFOBではなくFCAを指定されるケースも少なくありません。
ジェトロの貿易・投資相談Q&A(2025年8月更新)でも、コンテナ輸送ではFOB・CFR・CIFの代わりにFCA・CPT・CIPを使うことが推奨されています。ただ、FOBとの違いや、自社がどこまで費用とリスクを持つのかが分かりにくいと感じる輸出担当者も多いでしょう。
取引先との条件交渉や見積もりの前に、FCAの要点を押さえておくと安心です。
本記事では、FCAの意味と引き渡しのルール、FOB・EXWとの違い、FCAを使うべき場面、売主・買主の役割、契約書・インボイスでの書き方を解説します。
FCA(運送人渡し)とは|引き渡し場所と費用・リスクが移るタイミング

FCAは、引き渡し場所が売主の施設かそれ以外かで、売主の作業範囲が変わる条件です。まずは定義と、費用・リスクが移るタイミングを整理します。
FCAはインコタームズ2020で定める11条件の1つ
FCAは「Free Carrier」の略で、日本語では「運送人渡し」と呼ばれます。国際商業会議所(ICC)が定める貿易条件の国際ルール「インコタームズ2020」の11条件の1つです。
ICCのルールでは、FCAは海上・航空・陸上・複合輸送など、あらゆる輸送手段で使える条件とされています。海上輸送専用のFOBと違い、航空機やトラックでも同じ考え方で使えます。
インコタームズ全11条件の違いについては、以下の記事で解説しています。

引き渡し場所が売主の施設の場合
引き渡し場所を売主の工場や倉庫にした場合、買主が手配したトラックなどに貨物を積み込んだ時点で引き渡しが完了します。この場合、積み込み作業は売主の仕事です。
積み込みが終われば、その後の輸送中に起きた破損や紛失のリスクは買主に移ります。工場から先の輸送費も買主の負担です。
引き渡し場所が売主の施設以外の場合
コンテナヤード(CY)や、混載貨物を扱うCFS、フォワーダーの倉庫などを引き渡し場所にした場合は、扱いが変わります。売主は自社で手配した車両で指定の場所まで貨物を運び、荷降ろしをしない状態で買主側の運送人に渡せば引き渡し完了です。
指定場所までの輸送は売主、荷降ろしからは買主の負担です。ICCのルールではどちらにも保険の義務はありませんが、引き渡し後のリスクを負う買主が貨物保険をかけるのが一般的です。
同じFCAでも、工場渡しとCY渡しでは売主の作業と見積もりに含める費用が変わります。引き渡し場所を決めてから価格を出すことが大切といえます。
FCAとFOB・EXWの違い|比較表で整理

FCAとよく比べられるのが、FOBとEXWです。3つの条件の違いを次の表にまとめました。
| 条件 | 引き渡し場所(リスクが移る場所) | 輸出通関をする人/使える輸送手段 |
|---|---|---|
| EXW(工場渡し) | 売主の施設(積み込みは買主) | 買主/すべての輸送手段 |
| FCA(運送人渡し) | 指定場所で買主の運送人に渡した時点 | 売主/すべての輸送手段 |
| FOB(本船渡し) | 船積み港で本船に積み込んだ時点 | 売主/海上・内陸水路のみ |
3つの条件は「どこで渡すか」と「誰が輸出通関をするか」が異なります。それぞれの違いを見ていきましょう。
FCAとFOBの違い
FCAとFOBの最も大きな違いは、引き渡しの場所と使える輸送手段です。FOBは船積み港で本船に貨物を積んだ時点で引き渡しとなり、海上輸送と内陸水路輸送にしか使えません。
一方、FCAは運送人に貨物を渡した時点で引き渡しが完了します。コンテナ輸送では、貨物は船積みの数日前にCYやCFSで運送人に渡されるため、FOBを使うと、運送人に渡した後も本船に積まれるまでのリスクが売主に残ります。
FOBの基本と実務については、以下の記事で解説しています。

FCAとEXWの違い
EXWは、売主の施設で貨物を買主に引き渡すだけの条件で、輸出通関も積み込みも買主の負担です。売主の負担は最も小さい一方、海外の買主が日本での輸出通関を自ら行うのは難しい場合があります。
FCAなら、引き渡し場所を売主の施設にしても、輸出通関は売主が行います。売主の負担を抑えつつ、EXWで起きやすい輸出通関の問題を避けたいときはFCAが向いています。
EXWの仕組みと注意点については、以下の記事で解説しています。

FCAを使うべき場面|コンテナ・LCL・航空輸送

FCAが特に向いているのは、船や飛行機に載せる前に運送人へ貨物を渡す取引です。FOBのままでよい場面とあわせて整理します。
コンテナ1本単位で送るFCL輸送
コンテナを1本借り切るFCL(Full Container Load)輸送では、売主が貨物を詰めたコンテナをCYに搬入し、船会社に引き渡します。本船への積み込みは船会社が行います。
ジェトロの貿易・投資相談Q&Aでも、コンテナ輸送ではFOBではなくFCAを使うことが推奨されています。この場合は「FCA Tokyo CY」のように、港ではなくCYを引き渡し場所として指定します。
LCL(混載)輸送や航空輸送
他社の貨物と1本のコンテナを分け合うLCL(Less than Container Load)輸送では、貨物はCFSで運送人に渡され、そこでコンテナに詰められます。売主の手を離れてから船積みまで時間があるため、FCAで引き渡し場所をCFSにするのが自然です。
航空輸送ではFOBは使えません。航空会社やフォワーダーの倉庫への搬入時に引き渡しとなるため、航空輸送ではFCAを選びます。
FOBのままでよい場面
一方、鉱石や穀物などのばら積み貨物や、コンテナに入らない大型機械を在来船で運ぶ場合は、FOBが適しています。売主が本船への積み込みまで管理でき、リスクが移る場所と実態が一致するためです。
ICCも、FOBは港から港への海上輸送に使う条件だと説明しています。運賃込みの条件も同じ考え方で、海上輸送専用のCFR・CIFは、コンテナ輸送ではそれぞれCPT・CIPに置き換えるのが基本です。
CFRの仕組みとFOB・CIFとの違いについては、以下の記事で解説しています。

FCAで売主・買主がやること|輸出通関・積み込み・B/Lの扱い

FCAでは、売主と買主の役割分担を事前にそろえておくことが大切です。それぞれの主な役割と、B/L(船荷証券)の扱いを確認しましょう。
売主がやること
FCAで売主が担う主な作業は、次のとおりです。
- 契約どおりの貨物と商業インボイスの用意
- 輸出許可・承認など輸出通関の手続き
- 引き渡し場所までの輸送(売主の施設で渡す場合は積み込み)
- 引き渡しが完了したことの買主への通知
特に輸出通関は売主の責任です。輸出規制の対象かどうかの確認も含め、引き渡し日に間に合うよう準備します。
買主がやること
買主は、引き渡し場所から先の運送契約を結び、運賃を支払います。あわせて、運送人の名前と引き渡しの日時・場所を売主に知らせる必要があります。
引き渡し後のリスクは買主が負うため、貨物保険の手配も通常は買主が行います。輸入国での輸入通関や関税の支払いも買主の負担です。
B/Lの扱いとインコタームズ2020の変更点
FCAでは買主が運送人を手配するため、売主が受け取る運送書類は、貨物の受け取りを示す「受取式B/L」が一般的でした。
しかし、信用状(L/C)取引では、銀行から船積み済みを示すB/L(On Board B/L)を求められることがあります。インコタームズ2020では、売主と買主が合意すれば、買主が自らの費用とリスクで運送人に指示し、売主に船積み済みB/Lを発行させる規定が加わりました。
この規定は契約で合意した場合にだけ使えます。L/Cで船積み済みB/Lが必要な場合は、契約書に明記し、買主と運送人にも事前に伝えておく点に注意が必要です。
FCAの契約書・インボイスでの書き方|「FCA 〇〇 CY Incoterms 2020」の例

FCAを契約書やインボイスに書くときは、条件・引き渡し場所・版の3つをそろえて書きます。具体的な書き方の例を紹介します。
基本の書き方と記載例
ICCは、「条件の略語+引き渡し場所+Incoterms® 2020」の順で書くことを推奨しています。FCAの場合は、引き渡し場所に応じて次のように書きます。
- 売主の工場で渡す:FCA Seller’s Factory, 1-2-3 Ota-ku, Tokyo, Japan Incoterms® 2020
- CYで渡す:FCA Tokyo CY, Japan Incoterms® 2020
- CFSで渡す:FCA Yokohama CFS, Japan Incoterms® 2020
- 航空輸送で渡す:FCA Narita Airport(フォワーダーの倉庫名), Japan Incoterms® 2020
工場の住所は記載例です。書類ごとに場所が食い違わないよう、契約書・インボイス・見積書の表記は同じにそろえましょう。
引き渡し場所はできるだけ具体的に書く
「FCA Tokyo」のように都市名だけを書くと、どの倉庫やターミナルで渡すのかが分からず、費用の負担でもめる原因になります。
ICCのルールでも、引き渡し場所の中の地点もできるだけ正確に指定することが勧められています。倉庫名やターミナル名、住所まで書いておくと、運送人の手配もスムーズに進みます。
版を明記し、インコタームズ2030の動きも確認する
インコタームズは約10年ごとに改訂されるため、版を書かないと、どのルールに従うのかが曖昧になります。「Incoterms® 2020」のように、版まで書くのが基本です。
ICCオーストリアによると、次の版となるインコタームズ2030は現在策定中で、発行は2029年後半の予定です。それまではインコタームズ2020が現行のルールとなるため、新しい契約でも2020年版を指定するのが一般的です。
まとめ
本記事では、FCA(運送人渡し)の意味と引き渡しのルール、FOB・EXWとの違い、使うべき場面、契約書での書き方を整理しました。
FCAは、指定した場所で買主の運送人に貨物を渡した時点で、費用とリスクが買主に移る条件です。あらゆる輸送手段で使えるため、CYやCFSで貨物を渡すコンテナ輸送や航空輸送では、FOBよりも実態に合っています。
一方で、引き渡し場所が売主の施設かそれ以外かで売主の作業範囲が変わるため、契約書やインボイスには「FCA+具体的な引き渡し場所+Incoterms® 2020」を明記することが大切です。L/C取引で船積み済みB/Lが必要な場合は、その旨を契約で取り決めておきましょう。
取引先からFCAを指定されて判断に迷う場合や、L/Cの条件との整合を確認したい場合は、フォワーダーや通関業者、ジェトロの貿易相談窓口などの専門家に相談することをおすすめします。


