電気自動車(EV)の輸出動向は、国によって明暗が大きく分かれています。日本の電気自動車輸出台数は2025年に前年比11.5%減少した一方、中国のBEV輸出は66.7%増と急拡大しました。
本記事では、電気自動車輸出の基礎知識からHSコードによる関税分類、日本と中国の輸出動向の違いまでを、財務省貿易統計とJETROの最新データに基づいて整理します。
電気自動車の輸出とは?基礎知識とHSコード分類

電気自動車の輸出を理解するには、まず車両区分と関税分類の基礎を押さえる必要があります。ここでは、電気自動車と他の環境対応車との違い、そして輸出時に用いられるHSコードの位置づけを整理します。
電気自動車(EV)と他の環境対応車(HV・PHV)の違い
電気自動車(EV、正式にはバッテリー式電気自動車=BEV)は、バッテリーに蓄えた電力のみでモーターを駆動する車両です。エンジンを搭載せず、外部電源からの充電によって走行するため、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)とは駆動方式が根本的に異なります。
財務省貿易統計の輸出統計では、車両はガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車の5区分に分類され、それぞれ異なるHSコードで集計されています。電気自動車はこの5区分のうち、エンジンを一切持たない唯一の区分です。
この区分の違いは、輸出統計を読み解くうえでの前提となります。ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車はエンジンとモーターを併用するため、電気自動車とは別の輸出動向を示すことが多く、両者を混同すると輸出構造の分析を誤る可能性があります。
電気自動車輸出のHSコード(8703.80)と関税上の位置づけ
電気自動車を輸出する際の関税分類(HSコード)は、8703.80「専ら電気モーターにより推進する乗用車」に該当します。このコードは新車・中古車の別でさらに細分化されており、輸出申告時にはどちらの区分に該当するかを正確に判定する必要があります。
輸出統計品目表や実行関税率表を確認する際は、このHSコード8703.80を起点に検索すると、電気自動車に関する関税率や統計データを効率的に把握できます。HSコードの分類を誤ると、輸出申告や関税計算に支障が生じるため、実務担当者は事前に品目分類を確認しておく必要があります。
実際の関税分類を確認する場合は、日本関税協会が公開している実行関税率表のHSコード検索ページで、8703.80配下の細分番号(新車・中古車の別)を確認できます。輸出前にこの細分番号まで確認しておくことで、通関時の分類誤りを防げます。
電気自動車の輸出方法と自動車部品輸出・中古車輸出との違い

電気自動車の輸出は、新車の完成車輸出だけでなく、中古車輸出や自動車部品輸出とも密接に関連しています。ここでは、それぞれの輸出形態における電気自動車の位置づけの違いを整理します。
新車輸出と中古車輸出における電気自動車の扱いの違い
財務省貿易統計における電気自動車の輸出台数18.2万台(2025年)は、新車・中古車を合算した数値です。中古車輸出については、輸出先ごとに安全基準・環境基準への適合が求められる場合があり、特にアメリカ向けの中古車輸出は他地域と比べて台数が少ない傾向にあります。電気自動車の中古車輸出は、バッテリーの劣化状態や残存性能の評価が新車輸出にはない固有の論点となります。
一方、新車の電気自動車輸出は、各メーカーの海外生産拠点との棲み分けが進んでいる点も特徴です。国内生産分の輸出台数と海外現地生産分の販売台数は別の統計で管理されており、輸出統計だけでは各社の海外展開の全体像を把握できない点に注意が必要です。
完成車輸出と自動車部品輸出の関係
電気自動車の輸出台数が伸び悩む一方で、電気自動車に搭載される部品(モーター、バッテリー関連部品、パワーコントロールユニットなど)の輸出動向も、完成車輸出とは別に把握しておく価値があります。自動車部品の輸出額は、完成車輸出とは異なるHSコードで集計されており、電動化の進展に伴い部品輸出の内訳も変化しています。
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完成車と部品それぞれの輸出構造を比較することで、日本の自動車輸出産業全体における電動化の進捗度をより正確に把握できます。
データで見る日本の電気自動車輸出の現状

ここからは、財務省貿易統計に基づき、日本の電気自動車輸出の実際の数値を確認します。台数の推移と主要な輸出先の両面からデータを整理します。
2025年の電気自動車輸出台数・輸出額の推移

財務省貿易統計によると、2025年の日本の自動車輸出台数(新車・中古車・ノックダウンの合計)は515万台で、前年比0.6%増でした。車両種類別の内訳は、ガソリン車325万台(63%)、ハイブリッド車135万台(16%)、プラグインハイブリッド車20万台(4%)、電気自動車18万台(4%)、ディーゼル車16万台(3%)となっています。
電気自動車に絞ると、2025年の輸出台数は18.2万台で、2024年から11.5%減少しました。自動車輸出全体がわずかに増加する中で、電気自動車の輸出だけが減少に転じている点は、輸出構造の変化を示す重要なデータです。
電気自動車の主要輸出先(アメリカ向け輸出の実態)
2025年の日本の自動車輸出(全車種合計)を国別に見ると、アメリカ向けが134.7万台で全体の26%を占め、最大の輸出先となっています。ただし、アメリカ向け輸出額は5兆2,625億円で前年比10.8%減少し、輸出単価も391万円/台と前年から10.4%下落しました。台数がほぼ横ばいであるにもかかわらず輸出額が減少しているのは、関税分の一部を輸出単価の引き下げで吸収した結果とみられます。
計算例として、輸出単価が1台あたり45万円下落した場合、134.7万台分では単純計算で約6,061億円の減収に相当します。実際の減収額(6,282億円)とほぼ近い水準であり、単価下落が輸出額減少の主因であることがうかがえます。
世界の電気自動車輸出における中国の急伸と関税・規制の動向

日本の電気自動車輸出が伸び悩む一方、世界全体では電気自動車輸出の構図が大きく変化しています。ここでは中国の輸出急増とEU・米国の政策動向を整理します。
中国のBEV輸出急増とEUの相殺関税の影響

JETROの発表によると、2025年の中国の自動車輸出台数は前年比21.1%増加し、初めて700万台を突破しました。このうち新エネルギー車(NEV)は2倍の261万5,000台に達し、自動車輸出全体を牽引しています。NEVの内訳では、バッテリー式電気自動車(BEV)が66.7%増の164万6,000台、プラグインハイブリッド(PHV)が3.3倍の96万9,000台と、いずれも大幅な増加を記録しました。
この背景には、EUが中国製BEVに相殺関税を導入したことがあります。相対的に関税率の低いPHVへ輸出の一部がシフトしたことで、PHV輸出の伸び率がBEVを上回る結果となりました。関税政策の変更が輸出構成そのものを変化させた事例といえます。中国の自動車輸出台数上位10社のうち、9位に入った1社を除く全てを中国企業が占めている点も、電気自動車を含む中国メーカーの輸出競争力の高さを示しています。
自動車輸出台数の上位10社を見ると、上位5社は奇瑞汽車(134万4,000台、前年比17.4%増)、比亜迪(BYD)(105万4,000台、同2.4倍)、上海汽車(95万台)、長安汽車(63万7,000台)、吉利車(60万6,000台)の順でした。9位に入った米テスラ(22万6,000台)は前年から台数を減らしており、電気自動車を含む輸出競争力の面で中国メーカーが優位に立っていることが読み取れます。
米国のEV税額控除撤廃と世界販売・生産動向
JETROの調査レポートによると、2025年の世界の自動車販売台数は前年比4.7%増の9,980万台、生産台数は同3.9%増の9,638万台となり、全体としては回復基調にあります。ただし電動車市場では地域差が顕著です。米国では連邦政府のEV税額控除が撤廃されたことで、バッテリー式電気自動車(BEV)およびプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売が減少に転じ、生産も2年連続で減少しました。
一方、ハイブリッド車(HEV)の販売は前年から3割増加しています。ドイツを含むEU市場でもHEVの販売シェアが高まっており、電動化の中心がBEVから多様な選択肢へ分散しつつあることがうかがえます。
アメリカ向け自動車輸出は日本にとって最大の輸出先であり、米国側の税制・関税動向は電気自動車輸出戦略に直結する論点です。
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米国の政策変化とEUの関税措置という2つの要因が、世界の電気自動車輸出の勢力図を塗り替えていると整理できます。日本の電気自動車輸出戦略を検討する際は、輸出先1か国の制度変更だけでなく、複数市場の規制動向を横断的に把握しておくことが欠かせません。
まとめ
電気自動車の輸出をめぐる状況は、国ごとに大きく異なります。日本の電気自動車輸出台数は2025年に前年比11.5%減少し、自動車輸出全体(0.6%増)とは逆方向に推移しました。一方、中国はBEV・PHVともに輸出台数を大幅に伸ばし、自動車輸出全体で初めて700万台を突破しています。この差の背景には、EUの相殺関税や米国のEV税額控除撤廃といった、各国の関税・税制政策の違いがあります。
電気自動車の輸出実務に携わる場合は、HSコード8703.80による関税分類を正確に把握したうえで、輸出先ごとの規制動向を継続的に確認することが欠かせません。財務省貿易統計やJETROが公表する最新データを定期的に確認し、輸出戦略の見直しに役立ててください。


