【最終的に損する】関税は誰が払うのか?輸入取引の仕組みを徹底解説

目次

    国際取引において頻繁に聞かれるのが、「関税は誰が支払うのか?」「その結果、誰が損をするのか?」という問いです。原則として関税は輸入者が納付しますが、契約条件や物流形態によっては、実質的な負担者が異なる場合もあります。そして関税が引き上げられると、

    その影響は商品価格に転嫁され、最終的に損をするのは輸入企業や一般消費者であることが少なくありません。本記事では、この構造をわかりやすく解説します。

    誰が関税を支払うのか?

    通常、関税は「輸入者」が支払うのが原則です。輸入者は、輸入通関に必要な書類(インボイス、パッキングリストなど)を税関に提出し、貨物の価格や品目を申告します。その申告内容に基づいて税関が関税額を計算し、輸入者が納税する流れです。

    しかし、実務では契約条件や輸送方法によって、実質的な負担者が変わることがあります。一部の契約条件を抜粋して、下記にテーブルとして出しています。

    契約条件

    (インコタームズ)

    誰が関税を支払うか

    (原則)

    備考
    FOB / CIF / CFR 輸入者

    (買主)

    輸入側の港での通関・

    納税は買主の責任

    DDP

    (関税込み持込渡し)

    輸出者

    (売主)

    売主が輸入国側で関税まで

    含めた費用を負担

    たとえば「DDP条件」で契約している場合は、輸出者が関税を含めたすべての費用を負担するため、輸入者側の負担はありません。

    このように、関税の「名目上の支払者」は輸入者でも、契約次第で実質的な「負担者」が変わることがある点に注意が必要であることを忘れないでください。

    「輸入する者」とは

     では、具体的に「輸入する者」とは誰を指すのでしょうか。通常の貿易取引においては、インボイス(仕入書)や船荷証券(B/L)に記載された荷受人(Consignee)が一般的に該当します。これは、売買契約に基づき貨物を受け取る買主を指します。

    また、貨物が外国から日本へ輸送される途中、あるいは日本の保税地域に到着した後に転売された場合は、その貨物を最終的に取得した者(転得者)が輸入者となることがあります。実務上は、税関に対して輸入申告を行い、審査・検査を経て輸入許可を受ける者が納税義務を負います。

    重要なのは、単に物理的に貨物を受け取るだけでなく、その貨物の輸入に関して法的な責任を負い、税関手続きを行う主体が「輸入者」とみなされる点です。近年、特に輸入取引に基づかない輸入(例:委託販売のための輸入、賃貸借契約に基づく輸入、修理のための輸入など)が増加したことを背景に、輸入者の定義がより明確化されました。

    これらのケースでは、単なる荷受人ではなく、「輸入申告の時点において、貨物の処分(販売、使用、賃貸など)を行う権限を有する者」や「輸入の目的たる行為(販売、使用、加工、修理など)を行う者」が輸入者とみなされるようになっています。これは、輸入プロセスにおいて法的な管理権や経済的な支配権を持つ主体が誰であるかを重視する考え方を示しており、非居住者が関わる取引形態では特に注意が必要です。

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    誰が損をするのか?

    関税が引き上げられると、最終的に損をするのは多くの場合「消費者」や「輸入企業」です。アメリカを例にすると、その構図が非常にわかりやすく見えてきます。

    たとえばアメリカが中国からの輸入品に対して関税を上げた場合、輸入業者は高くなった関税を一旦は自分で支払いますが、これは商品価格に上乗せされて、最終的にはアメリカ国内の消費者が高い価格で商品を買うことになります。

    以下の図式で整理できます。

    影響を受ける主体 影響内容
    輸入業者(企業) 関税分のコスト上昇 → 利益圧迫 or 販売価格の引き上げ
    消費者(一般市民) 販売価格の上昇 → 生活コストの増加
    輸出国企業(例:中国企業) 売上減少(アメリカ市場での競争力が低下)

    実例:トランプ政権下の対中追加関税では、冷蔵庫や電子機器、家具など多くの生活用品の価格がアメリカ国内で上昇しました。また、関税コストを価格に転嫁できない中小企業は利益が減少し、一部では廃業や雇用削減の例も出ています。

    つまり、関税の引き上げは短期的には「輸入国の保護」に見えますが、実質的なコストは国内の企業や消費者が支払っているという構図になります。

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    補足:関税とは

    「関税」そのものについて簡単におさらいしておきましょう。

    項目 内容
    定義 海外から輸入される貨物に対して課される税金
    対象 輸入貨物全般(一部の例外品目を除く)
    課税主体 各国の税関当局(日本の場合は税関、米国はCBPなど)
    課税の目的 税収確保、国内産業の保護、貿易政策の調整

    関税とは、海外から輸入される貨物に対して課される税金のことを指します。これは輸入者が支払うもので、輸出時には基本的にかかりません。日本では税関、アメリカではCBP(税関・国境警備局)といった各国の税関当局が課税を行います。関税の対象は、原則としてすべての輸入貨物ですが、一部の例外品目(例:特定の無償援助物資や外交物品など)も存在します。

    関税には主に4つの目的があります。まず、政府にとっての税収確保。次に、海外製品との競争から国内産業を守る保護政策。さらに、特定の製品や国に対して優遇または制限を加える貿易政策の調整手段。そして、国際交渉における政治的ツールとしても活用されます。関税は、国際物流や貿易ビジネスに携わる上で必ず理解しておくべき重要な制度です。

    関税負担者は変わる場合

    原則として輸入者が関税を支払うことは分かりましたが、実際の貿易取引では、契約条件によってその負担者が変わることがあります。ここで鍵となるのが「インコタームズ(Incoterms)」です。

    インコタームズの役割 インコタームズとは、国際商業会議所(ICC: International Chamber of Commerce)が制定した、貿易取引条件の解釈に関する国際規則です。国ごとに異なる商習慣や法律による解釈の違いから生じる誤解や紛争を避ける目的で作成され、世界中の貿易実務で広く利用されています。インコタームズは、売主(輸出者)と買主(輸入者)の間で、主に以下の点を明確に定めます。

    費用負担の範囲として、運賃、保険料、輸出入通関費用、そして関税などの諸費用を、売主と買主のどちらがどこまで負担するかを定めます。

    危険負担(リスク)の移転時点として、貨物の輸送中に発生しうる滅失や損傷のリスクが、どの時点で売主から買主に移るかを定めます。

    役割分担として、運送契約の手配、保険の手配、輸出入許可の取得、書類の準備などをどちらが行うかを定めます。

    インコタームズ自体は法律ではなく、強制力はありませんが、売買契約書に「FOB Tokyo Incoterms® 2020」のように特定の規則と年版を明記することで、その契約における取引条件として適用されます。

    費用負担と危険負担の移転 関税の支払者を理解する上で特に重要なのが、インコタームズが定める「費用負担」の範囲です。各規則は、輸出国内での輸送費、輸出通関費用、国際運送費、保険料、輸入通関費用輸入関税、輸入国内での輸送費などを、売主と買主の間でどのように分担するかを規定しています。

    ここで注意すべき点は、特に「C」から始まる規則(CFR, CIF, CPT, CIP)において、危険負担が移転する時点と、費用負担の義務が終わる時点が異なる場合があることです。例えばCIF条件では、貨物が船積港で本船に積み込まれた時点で危険負担は買主に移りますが、売主は仕向港までの運賃と保険料を負担します。この「危険」と「費用」の分岐点の違いを理解することは、責任範囲を正確に把握する上で不可欠です。関税負担という観点では、たとえ売主が仕向地までの運賃(CIFなど)を支払ったとしても、危険負担が買主に移転しているため、輸入地での通関手続きとそれに伴う関税の支払いは、原則として買主の責任となります。

    【保存版】インコタームズとは?FOB/CIF/DAP/DDPまで全条件を解説

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    関税支払いに関する実務ポイント

    関税の支払いをスムーズに行うためには、以下の実務ポイントを押さえておくことが重要です。

    実務項目 説明
    税関への輸入申告 インボイス、パッキングリスト、HSコードなどの書類を準備。
    関税の納付 原則、輸入許可の直後に税関窓口または電子納付で支払う。
    関税立替の取り扱い 通関業者が一時的に立替払いし、後で請求されるケースも多い。
    契約書での明確化 インコタームズに加え、「関税はどちらが負担するか」を明記しておく。
    輸入代行の活用 EC輸入などでは輸入代行業者が関税を支払い、利用者へ請求する形式。

    関税は一回の取引ごとに金額も手続きも異なるため、実務担当者や経営者は流れを正確に把握することが求められます。

    まとめ

    関税の支払者は「誰が最終的に税金を負担するのか」を正しく理解することで、コスト管理、価格設定、納期管理に大きな影響を与えます。とくに海外との取引に不慣れな段階では、細かな契約条件の確認と、信頼できる通関業者や物流パートナーとの連携が成功の鍵になります。

    取引先との条件交渉や契約内容に不安がある場合は、専門家に一度相談してみることをおすすめします。国ごとの通関制度や税率の違いを踏まえた判断が、将来的なトラブル防止につながります。

    伊藤忠商事出身の貿易のエキスパートが設立したデジタル商社STANDAGEの編集部です。貿易を始める・持続させる上で役立つ知識をお伝えします。