ミャンマー貿易・輸出の基礎知識(2025年更新)

ミャンマーは、豊富な天然資源や農産品を背景に、中国・タイ・EU・日本などへの輸出基盤を持ちつつ、地政学的にも注目される東南アジアの国です。しかし、2021年のクーデター以降は政情不安や国際制裁、治安や外貨不足といったリスクが浮き彫りになっています。

本記事では、こうしたミャンマーの貿易環境の現状を整理し、輸出相手国・主力商品、通関・為替の制度面、そして進出企業が押さえておくべきリスク対応の基礎知識をわかりやすく解説します

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ミャンマーの貿易概況

ミャンマーは東南アジアに位置し、中国、タイ、インドなどと国境を接する人口約5,461万人の国です。仏教が主要宗教で、農業と天然資源に依存した経済構造を持っています。

2011年には民政移管が実施され、経済改革も進められていましたが、2021年2月に発生した軍事クーデターにより、現在も軍政体制が継続しており、治安悪化や国内避難民の増加、国際制裁などが経済・貿易環境に大きな影響を与えています。

ミャンマー経済は農業(米、豆類、果物など)と鉱物資源(天然ガス、石油、宝石など)を柱としています。2020年には約760億ドルあったGDPは、クーデターの影響で2021年に大きく落ち込み、2024年時点では約649億ドル、2025年には660〜680億ドルの間で緩やかな回復が予想されています。

経済成長率も2024年はマイナス1.1%と低迷し、2025年はプラス1.9%程度の回復が見込まれているものの、物価高や外貨不足など深刻な課題は残ったままです。

経済指標の推移(概算)

年度 名目GDP(ドル) 経済成長率 備考
2020年 約760億ドル +3.2%(推定) クーデター前の水準
2021年 約620億ドル -18.0%(推定) 政情不安で急落
2024年 約649億ドル -1.1% インフレと不安定化
2025年(予測) 約660〜680億ドル +1.9%(見込み) 緩やかな回復傾向

貿易面では、2023年の輸出額は約147億ドル、輸入額は約164億ドルで、貿易収支は約17億ドルの赤字となりました。2024年度の初頭(最新統計)では、輸出が前年同期比で約19%増加し約30.7億ドル、輸入は約15%減の約36.6億ドルとなっており、やや回復の兆しも見られます。

ミャンマーの主な貿易相手国は、輸出ではタイ(約24%)、中国(約23%)、EU、日本、インドなどで、輸入では中国(約30%)、シンガポール、タイ、マレーシア、日本が上位を占めます。

主な貿易相手国と品目(2023年実績)

分類 相手国/品目 割合または額 備考
輸出先 タイ 約24.3% 天然ガスなど
輸出先 中国 約23.2% 天然資源・農産品
輸出先 EU 約18.8% 衣料品中心
輸出先 日本 約8.1%(約12億ドル) 衣料・農産品輸出
主な輸出品 天然ガス 約34億ドル(全体の約23%) 最大輸出品目
主な輸出品 乾燥豆類 約10.6億ドル 農産品の柱
主な輸出品 衣料品(女性用) 約7.3億ドル 欧州・日本向けが中心
輸入元 中国 約30%(約51億ドル) 工業製品・原材料
輸入元 日本 約1.2%(約2億ドル) 機械類・部品など

現在、米国やEU、日本などからの経済制裁や高関税が継続する中、中国やASEAN諸国との貿易関係は維持・強化されています。特に中国とは、インフラやエネルギー分野での協力が拡大しており、軍政体制下における重要なパートナーとなっています。

ただし、国内の政治的混乱、治安の悪化、輸送インフラの脆弱性などのリスクも依然高く、今後の貿易展開には慎重な情報収集と対応が求められます。

ミャンマーの輸出相手国は中国(約36%)、タイ、EU、日本、インドで構成され、輸入相手国も中国が最多(約31%)でシンガポールやタイが続きます (輸出と輸入ともにアジアへの依存が強い)。さらに、近年は経済成長率が低水準にとどまり、外貨不足による厳格な輸入・外貨管理がビジネス環境に大きな影響を与えています。

ミャンマーの輸出管理制度(2025年時点)

ミャンマーの輸出管理制度は、貿易管理制度と同様に商業省貿易局(Department of Trade, Ministry of Commerce)が所管しており、輸出には原則として輸出ライセンスの取得が必要です。輸出ライセンスは、商業省本省または地方支部を通じて申請可能であり、以下のような書類が求められます。

  • 輸出品目の詳細(品目名・HSコードなど)
  • 数量および価格
  • 輸出先国および支払い条件
  • 商業登録証明書
  • 税務登録証明書(TIN)

申請書類はオンライン提出が基本となっていますが、一部の特殊品目については対面申請も必要です。

輸出規制品目と許可要件(2025年時点)

ミャンマーでは、1999年の通達に基づく輸出規制リストが原則として有効ですが、多くの品目はその後除外され、2025年現在、以下の品目については依然として規制対象とされています(2016年通達第62号より更新なし)。

規制品目 管轄機関または許可条件
金属廃棄物(Metal Scraps) 商業省による個別審査
鉄鋼製品(Iron and Steel Products) 技術評価が必要な場合あり
石油製品(Petroleum Products) 電力・エネルギー省の許可が必要
天然ガス(Natural Gas) 同上
宝石(Gems) 宝石・真珠企画委員会の推薦状
真珠(Pearls) 同上
木材(Timber) 環境・天然資源省の確認書類が必要
魚介類(Fishery Products) 漁業局による水産証明書などが必要
肉類(Meat Products) 農業・畜産省の検疫証明書が必要

これらの品目を輸出する場合、所定の機関から事前に許可または推薦状を取得しなければライセンス申請が受理されません。

外国為替管理制度

ミャンマーでは、中央銀行法に基づき、ミャンマー中央銀行(CBM)が外国為替取引の監督権限を持ち、輸出代金の取り扱いについても厳しい管理が行われています。輸出者には以下の義務があります。

  • 外貨建て収入は中央銀行認可の銀行経由で受領
  • 受領した外貨は、90日以内にミャンマー国内に送金すること
  • 外貨は原則として現地通貨(チャット)に換金され、輸入や国内経費に充当される

また、2022年以降、政府は特定の外貨(米ドル・人民元など)に対して優遇為替レートや強制売却制度を導入しており、実務面では常に最新通達の確認が求められます。

輸出ライセンスの取得や外貨規制の実務対応には、実績ある現地パートナーとの連携や最新通達のチェック体制が不可欠です。特に軍政下では、制度運用が通達ベースで変更されるケースも多いため、事前の確認と綿密な書類準備が求められます。

まとめ

ミャンマーの貿易環境は、豊富な資源や地理的優位性といった強みを持つ一方で、政情不安や制裁、外貨・通関手続の厳格化など実務上のハードルが高いのが現状です。対中・ASEAN中心の取引構造は維持されており、特定品目の輸出管理や為替規制の運用は頻繁に更新されます。
したがって、日本企業にとっては「機会」と「制度・オペレーション上のリスク」を同時に見極め、慎重に設計された進出・調達戦略が不可欠です。

  • 最新の通達・許認可要件(輸出ライセンス、検疫・証明、為替ルール)を常時モニタリング
  • 実績のある現地パートナー/専門家と連携し、書類・フローを標準化
  • 決済・為替の迂回依存を避け、受領~換金までの内部統制と期日管理を徹底
  • 物流・保険・在庫の冗長化で治安・インフラリスクに備える
  • 特定相手国・単一品目への依存を下げるサプライチェーン多角化を並行推進

総じて、制度順守とリスク管理を前提に、段階的な関与と小回りの利く運用を組み合わせることで、変動の大きい市場でも持続的な取引機会を確保しやすくなります。

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