今回はマダガスカルの貿易、輸出の基礎知識について整理していきます。
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マダガスカルの基本情報

マダガスカルは、アフリカ南東部沖に位置する世界第4位の大島であり、日本の約1.6倍の面積を有します。地理的な特性に加え、複数の民族構成・多言語社会・農業依存の経済構造など、ビジネス展開において押さえておくべき基本条件が多い国です。
以下では、まず国の基礎データ、次に経済動向、最後に日本との貿易関係を整理します。
地理・人口・社会構造
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 面積 | 58万7,041平方キロメートル(日本の約1.6倍) |
| 人口 | 約2,843万人(2021年、世銀) |
| 首都 | アンタナナリボ |
| 民族 | アフリカ大陸系、マレー系(主な部族:メリナ、ベチレオなど約18部族) |
| 言語 | マダガスカル語、フランス語(ともに公用語) |
| 宗教 | キリスト教、伝統宗教、イスラム教 |
| 政体 | 共和制 |
| 議会 | 二院制 |
| 通貨 | アリアリ |
経済構造と主要産業
マダガスカル経済は農林水産業に強く依存しており、労働人口の約74%が農業に従事する一方で、農業がGDPに占める割合は24.7%に留まっています。産業の脆弱性やインフラ不足が長年の課題でした。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主要産業 | 農林水産業、鉱山業、観光業 |
| GDP | 146億米ドル(2021年、世銀) |
| 一人当たりGNI | 500米ドル(2021年、世銀) |
| 経済成長率 | 4.4%(2021年、世銀) |
| インフレ率 | 4.2%(2020年、世銀) |
2009年の政変で主要ドナーが援助を停止し、観光・投資は一時的に低迷。しかし2016年以降、IMFによる迅速信用供与(RCF)や世界銀行の支援再開により、経済は徐々に回復しました。現在は観光業、農産品加工、鉱業を成長分野として政策的に強化しています。
特に、ニッケル・コバルトの一貫生産を行うアンバトビー鉱山プロジェクトは外貨収入と雇用創出の中核となり、国家財政の安定に寄与しています。
日本との貿易関係と企業活動
対日貿易は規模としては限定的ですが、鉱物資源や香辛料など競争力のある輸出品目を持ちます。以下は2020年時点の概況です(財務省「貿易統計」)。
- 輸出:193.7億円 / 輸入:14.3億円
- 輸出品目: ニッケル、コバルト、香辛料(バニラ・クローブ)、衣類、魚介類
- 輸入品目: 自動車、医薬品、ゴム製品(タイヤ等)
- 日本企業の進出数: 13社(2020年10月時点)
マダガスカルの貿易は農業依存の経済基盤を持ちつつも、鉱物資源や加工産業への転換によって外貨獲得のポテンシャルが拡大しています。一方で輸入設備・燃料への構造的依存や政治リスクが高く、単純な市場参入ではなくサプライチェーンの脆弱性を考慮した長期視点の戦略設計が不可欠です。
多民族社会・農業中心の経済は弱点にも見えますが、豊富な資源、若年人口、そして観光潜在力は新興国らしい伸びしろを生み出します。特に外資誘致や鉱山開発が進む中で、企業が狙うべき機会を理解することが重要です。
アフリカのビジネスチャンスについては以下の記事をご覧ください。

マダガスカルの貿易

マダガスカルの貿易は、伝統的な農産品輸出に加え、近年は鉱物資源の拡大や産業設備の輸入依存など、構造面で大きな変化が見られます。ここでは、貿易収支の推移、輸出・輸入の品目別構成、そして主要な貿易相手国の特徴を整理し、同国の市場特性とリスクを俯瞰します。
貿易収支の推移
マダガスカルの貿易をめぐる状況は、以下のように変化しています。
- 1970年代半ばまでは黒字が継続していましたが、1978年に貿易収支が–9%に転じ、その後ほぼ毎年赤字が続いています。
- 特に2000年以降、赤字幅が拡大し、2009年には–22%と最大の赤字を記録しました。
- その後は徐々に改善し、2019年には–6%程度まで縮小。
- 2023年には–6.53%(GDP比)で、依然として赤字が続いているものの、2009年ほど深刻ではありません。
UNデータを基にした国際比較でも、2023年の貿易赤字はやや拡大しているものの、長期的には改善傾向と言えます 。
マダガスカルの輸出構造:農産物から鉱物資源へ
マダガスカルの輸出は、長年にわたり農産物が中心でしたが、90年代後半以降は繊維・アパレル、さらに2010年代からは鉱物資源が成長し、産業構造が大きく変化しています。
2019年の輸出構成は以下の通りです。
- 農林水産品・食料品:38%
- 繊維・アパレル:20%
- 金属関連:21%
- その他:21%
(参考:UN comtrade。HS21分類を10分類へ集計)
品目ベースで見ると、最大輸出品はコーヒー・茶・香辛料(HS09)であり、特にバニラが輸出全体の約22%、グローブ(丁子)が約3%を占めます。世界的な需給や価格変動が外貨収入に強く影響する分野です。
一方、2012年以降に拡大したニッケル(HS75)は、アンバトビー鉱山プロジェクトによるもので、コバルトの副産物も輸出されています。鉱物資源は価格変動リスクは大きいものの、雇用・インフラ投資・通貨安定に直接寄与する重要なセクターです。
マダガスカルの輸入構造:産業設備と燃料に依存
輸入は機械設備やエネルギーに大きく依存する傾向があり、国内の産業基盤の未成熟さを反映しています。2019年の輸入構成は以下の通りです。
- 機械:21%
- 鉱物資源(主に石油):20%
- 農林水産品・食料品:17%
- 繊維・アパレル:16%
- 化学製品:13%
- その他:13%
(参考:UN comtrade。HS21分類を10分類へ集計)
個別品目では石油・天然ガス(HS27)が17%と最大で、次いで一般機械(HS84:8%)、自動車(HS87:6%)、電気機械(HS85:5%)が続きます。国内に油田は確認されているものの開発は進まず、エネルギー供給をほぼ輸入に頼っている状況です。
(参考:UN comtrade。HS2桁分類)
マダガスカルの貿易構造を理解するには、輸出入品目の変化だけでなく、地域ごとの関税制度や港湾物流の特徴も押さえる必要があります。国家ごとの制度差が大きいアフリカでは、初期設計の誤りがコストやリードタイムに直結します。
アフリカの貿易事情については以下の記事をご覧ください。

貿易相手国の構成
2019年の輸出先を見ると、歴史的に強い結びつきを持つフランスが20.2%で最大の相手国となり、米国が19.8%で続きます。上位10か国だけで輸出全体の約77%を占め、輸出が特定市場に集中していることが特徴です。日本は6.2%で第4位と、存在感のある輸出先の一つとなっています。
(参考:UN Comtrade)
輸入では傾向が異なり、中国が17.5%で最大の輸入国、フランスが12.8%で第2位です。輸入上位10か国で約67%を占める一方、長い裾野は持たず、各国との依存度は輸出ほど集中していません。日本は0.5%で第30位にとどまり、輸入面では限定的な存在です。
まとめ
マダガスカルの貿易は、香辛料や繊維を軸とした伝統的な輸出から、ニッケル・コバルトなど鉱物資源へと比重が移り、外貨獲得の構造が変化しています。一方で、石油・機械・自動車といった基幹品目を輸入に依存しており、産業基盤の未成熟さが課題です。
輸出はフランス・米国・日本に集中し、価格変動や需給リスクの影響を受けやすい一方、輸入では特に中国依存が目立ち、物流や政策動向が事業に直接影響します。市場参入では、品目・制度・商流を一体で考える長期的な戦略設計が求められます。
具体的な取引設計や制度対応については、一度専門家に相談することをおすすめします。




