電線や電子部品、配管、熱交換器――銅は現代の製造業に欠かせない素材です。
とりわけ電気自動車や再生可能エネルギーの拡大が進む中、その重要性は一層高まりつつあります。
実際に、市場では銅価格の高止まりが続いており、在庫の水準も低迷しています。スイスの金融大手UBSは、銅価格が2026年末には1トンあたり13,000ドルに達する可能性があると予測しています。さらに、チリ銅委員会(COCHILCO)の2024年12月時点のレポートでは、2025年の世界の供給と需要はともに前年比2.3%増と見込まれ、需給は「わずかに供給過剰」という表現にとどまります。
つまり、今は表面的にはバランスが取れているように見えても、中長期的には構造的な需給逼迫が進行する可能性が高いと専門家たちは警鐘を鳴らしています。調達の安定性や価格交渉力の確保には、単なる相場の追跡以上に「世界の需給構造を理解した上での対応戦略」が不可欠です。
本記事では、以下の5つの視点から「世界的な銅不足」の実態と、製造業・貿易実務担当者がとるべき戦略を詳しく解説します。
銅不足の構造的背景と世界需要の変化

銅不足という言葉を耳にしても、現場の調達担当者としては「本当にそんなに逼迫しているのか?」「それはいつまで続くのか?」という冷静な視点で見極める必要があります。
ここでは、2025年時点での世界の銅需給バランスを最新の統計や市場動向から読み解き、供給過剰なのか、それとも不足が始まっているのかを整理します。
2025年〜2026年、世界の需給ギャップはどう変化するのか
2025年の世界の銅需給について、チリ銅委員会(COCHILCO)が2024年12月に発表した予測によれば、世界の銅供給量は2,639万1,000トン、需要量は2,631万5,000トンと、需給は7万6,000トンの供給過剰になる見通しです。
前年(2024年)の供給過剰は8万1,000トンとされており、2025年にかけてその差は5,000トン縮小する見込みです。
この数字だけを見ると、当面はバランスが保たれているように思えます。しかし、注視すべきはその「差の縮小」と「供給側の不確実性」です。2025年は一見安定していても、それ以降の供給余力の限界や開発の停滞が需給ギャップの反転につながる可能性が高まっているのです。
また、UBSが2025年の需給を23万トンの供給不足と予測するなど、調査機関によって見方にばらつきがあり、楽観視できない状況であることも押さえておくべきでしょう。
価格と在庫の推移が示す市場心理
価格は、需給の実態だけではなく、市場の心理や期待も大きく反映されます。近年、銅価格は高止まりが続いており、2026年の平均価格は1トンあたり10,500ドル(約160万円)前後との予想も出ています。
UBSは2026年の四半期ごとの価格を1万1,500ドル(3月)、1万2,000ドル(6月)、1万3,000ドル(12月)と段階的に上昇すると見ており、これは供給リスクの慢性化と長期需要の堅調さが価格を支えている証拠といえます。
また、ロンドン金属取引所(LME)の銅在庫は、2023年から一貫して減少傾向にあり、2024年末には10年ぶりの低水準にまで落ち込んでいます。数字上は「供給過剰」とされながらも、市場が実質的な逼迫を感じ取っていることが、この在庫水準と価格の動きからも読み取れます。
構造的な需給不足は2030年以降に本格化するのか
短期的な数字が供給過剰であっても、中長期では構造的な銅不足が懸念されています。COCHILCOは、今後の需要増加要因として以下を挙げています。
- 再生可能エネルギーの導入拡大(送電線・蓄電池)
- 電気自動車の普及(モーター・バッテリー)
- データセンター・AI関連設備(冷却装置・配線)
- インドをはじめとする新興国の工業化と都市化
一方で、供給面では新規鉱山開発の遅れ、既存鉱山の品位低下(特にチリ)、労使問題、環境規制などが生産拡大を制限しています。S&P Globalの推計では、2035年までに年間1,000万トンの供給不足が発生する可能性も示されています。
需給の「差」は、時間とともにじわじわと開いていきます。今の供給過剰という数字だけに目を奪われず、その背後にある構造的な変化に目を向けることが、調達・購買戦略を立てる上では不可欠です。
銅不足は短期的な価格変動にとどまらず、供給構造と産業構造の両面で長期的なリスクをはらんでいます。調達や契約の見直しを急ぐべきかどうかの判断には、「いつ・どこで・なぜ不足が進行するか」の具体的な理解が不可欠です。
なぜ世界で銅が不足しているのか?

世界的な銅不足が深刻化する中、供給側の構造的なリスクに目を向けることは、調達戦略の立案において不可欠です。ここでは、主要・準主要・新興の供給国の特徴と、それぞれが抱える課題に加え、中国・日本のサプライチェーン構造の違いにも触れながら、現状と今後の注目ポイントを整理します。
チリ・ペルーの生産変動と供給の安定性への懸念
銅の最大供給国であるチリと、2位のペルーは、世界全体の供給の約3分の1以上を占めています。両国とも銅鉱山の老朽化が進んでおり、水資源の不足、地域社会との対立、環境規制の強化といった課題が山積しています。
特にチリでは、鉱石の品位が年々低下しており、採掘効率は落ち込み傾向にあります。2025年には前年比6.0%増の573万4,000トンと増産が見込まれているものの、回復ペースは鈍く、不安定な要素は依然残っています。ペルーでも、抗議活動やインフラ問題が度重なり、安定供給の見通しには慎重な見方が求められています。
インドネシア・DRコンゴの供給力とリスクバランス
チリ・ペルーに次ぐ供給国として注目されるのが、インドネシアとDRコンゴ(コンゴ民主共和国)です。いずれも埋蔵資源は豊富で、グローバル市場において重要な役割を果たし始めています。
インドネシアでは、グラスベルグ鉱山を中心に生産が行われていますが、政府による精錬義務の強化や輸出規制、さらに2025年には土砂流入事故も発生しており、供給の安定性には課題が残ります。
一方、DRコンゴはアフリカ最大の銅生産国で、2025年の生産量は前年比7.5%増の320万3,000トンと見込まれています。鉱石の品位が高いことで知られる一方、治安や政治、電力インフラの不安定さが懸念されており、安定調達には現地パートナーとの協調や契約管理の強化が不可欠です。
注目される新興産出国と将来的な供給分散の可能性
今後の供給網構築において、新興国の存在感も無視できません。既存鉱山の限界が見えつつある中、新たな開発地として以下のような地域が注目を集めています。
| 国・地域 | 特徴 | 主な課題 |
|---|---|---|
| モンゴル | 中国に近く物流コスト低減が期待される | インフラ不足・外資依存 |
| サウジアラビア | 政策主導で鉱山投資を本格化 | 鉱業ノウハウ・技術不足 |
| ザンビア・DRC | 高品位鉱床と開発余地 | 政治的・契約的リスク |
| セルビア | 欧州市場に近接し需給拠点化の期待 | 環境規制と住民対立 |
| カザフスタン | 旧ソ連圏の鉱物資源国として台頭 | 地政学的リスクと輸送課題 |
この中から、ザンビア・DRコンゴとサウジアラビアの3カ国は、調達戦略の多角化を図るうえで、特に注目度が高まっています。
ザンビア・DRコンゴは「カッパーベルト」と呼ばれる鉱山地帯を形成しており、高品位な鉱石を多く抱える地域です。すでにUAEや中国の企業が進出しており、日本企業にとっても中長期的な投資・調達先として検討に値します。ただし、政治的安定性や法制度の整備状況を十分に評価したうえでの進出が求められます。
サウジアラビアは、国家プロジェクト「ビジョン2030」の一環として非鉄金属への投資を積極化。自国の鉱床開発だけでなく、海外の資源会社への出資や買収を通じて、グローバルな供給網構築に力を入れています。資金力と政府支援を背景に、中東を新たな供給ハブとする動きが現実味を帯びてきています。
高品位の銅鉱床を多く抱えるDRコンゴ(コンゴ民主共和国)は、今後の供給源として注目されています。現地の輸出制度や物流環境などの基礎知識を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

中国と日本のサプライチェーン構造と調達戦略の違い
銅不足の中で、調達側である中国と日本の動きは対照的です。中国は「自給自足型」、日本は「外部依存型」の構造を持っており、それぞれのリスク対応策にも違いが見られます。
中国は、国家備蓄の拡充、スクラップ銅の精錬強化、さらには海外鉱山の権益取得などを通じて、供給の主導権を握る戦略を明確に打ち出しています。DRコンゴやボツワナ、セルビアなどにおける鉱山投資はその象徴です。
対して日本は、銅鉱石の国内供給を持たず、輸入依存が避けられません。これまでチリやオーストラリアとの長期契約で安定を図ってきましたが、特定地域への依存はリスクと表裏一体です。政府はJOGMECを通じて、新規鉱山への投資支援や供給源の多角化を推進しており、2024年度には約1,600億円規模のサプライチェーン強化予算も計上されています。
このように、主要供給国の変動、新興国の登場、そして調達国側の戦略によって、銅の供給構造は大きな転換点にあります。調達実務の現場では、単なる価格変動への対応にとどまらず、供給国の選定や契約管理の在り方そのものを再定義する時期に来ていると言えるでしょう。
世界の鉱山と銅不足を巡る供給リスクとは

一時的な供給混乱ではなく、銅の不足が「構造的」だとされる背景には、産業界全体での需要の広がりと強まりがあります。再生可能エネルギー、電動化、デジタル化といった世界的な流れの中で、銅はその導電性と加工性の高さから、さまざまな分野で不可欠な素材となっており、今後さらに用途が拡大することが予想されています。
以下では、代表的な産業分野ごとに、どのような形で銅が使用されているか、そしてそれが需給にどのような影響を与えているかを解説します。
脱炭素を支えるインフラ:再生可能エネルギーと送電網
太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの普及により、電気を遠くまで送るための送電線・配電網の整備が加速しています。これらのインフラは高い導電性をもつ銅を中心に設計されており、代替が困難です。
特に洋上風力や大規模なソーラーパークでは、銅製の送電ケーブルが大量に使用されるため、電力網の整備計画が拡大するほど、銅需要も比例して高まる構造となっています。
チリ銅委員会(COCHILCO)も、再生可能エネルギーの拡大を短中期的な需要押し上げ要因として挙げており、電力インフラ関連の需要は今後も堅調に推移する見通しです。
モビリティの転換:電気自動車とハイブリッド車
自動車分野でも、電動化の波が銅の需要を大きく押し上げています。一般的なガソリン車1台あたりに使われる銅は約23kgですが、ハイブリッド車では約40kg、電気自動車(EV)では83kgと実に3.6倍に達します。これは、モーター、バッテリー、電装系配線、インバーターなど、銅を大量に使う部位が多いためです。
EVの普及は、中国、欧州、米国を中心に急速に進んでおり、今後もアジア諸国や新興国での市場拡大が見込まれています。特に中国は世界最大のEV市場でありながら、過剰生産の傾向もあるため、需給の不均衡や銅の内部消化による国際市場のひっ迫も想定されます。
また、EVの普及に伴い充電インフラの整備も不可欠で、こちらでも送電ケーブルや制御装置などに銅が使われるため、需要の裾野はさらに広がります。
デジタル化・AI化による需要の新展開:データセンターと通信インフラ
近年、注目度が急上昇しているのが、データセンターやAI関連設備による銅需要の増加です。クラウドサービスや生成AI、IoTの拡大により、世界中で高密度・高消費電力型のデータセンター建設が加速しており、それに伴って冷却設備、配電盤、通信ケーブルなどの構築が進んでいます。
これらには、熱伝導性・延性に優れた銅が不可欠です。さらに、基地局や光通信網を構成するケーブル、電源供給ユニットなどにも広範に使用されることから、デジタル関連設備への投資が増えるほど、間接的にも銅の需要は増大します。
特にAI関連の演算装置や冷却設備では、熱制御効率の高さが要求されるため、代替材としてアルミが使われるケースもあるものの、性能面から依然として銅が選ばれやすいのが現状です。
このように、脱炭素・電動化・デジタル化という複数のグローバルトレンドが同時に進行する中で、銅は用途の広がりとともに構造的な需要拡大の波にさらされていることがわかります。
この傾向は一時的なブームではなく、政策・市場・技術の進展に基づくものです。したがって、調達計画や契約戦略にも中長期的な視点が求められます。
世界の銅不足がもたらす影響と企業が取るべき実務対応

世界規模での銅不足が叫ばれる中、日本企業にとってもその影響は無視できません。特に製造業においては、製品コストの上昇だけでなく、調達先の再検討、契約条件の見直し、在庫水準の調整といった意思決定が、より短いサイクルで求められるようになっています。
ここでは、実務担当者が直面する可能性のある影響と、それにどう備えるかを具体的に掘り下げます。
コスト上昇・調達難の波及はいつ、どこから現れるのか
価格面ではすでに兆候が現れています。銅価格は2024年以降、上昇傾向を維持しており、2025年の価格平均は1トンあたり10,500ドル、2026年末には13,000ドルに達するとの予測もあります。この価格水準は、コイル材や配線部品など川中~川下の製品コストを直撃する可能性が高く、契約更新時に価格転嫁を求められるケースも増えつつあります。
また、銅は代替が難しいため、価格が上がっても他素材に切り替えることが難しいという性質があります。そのため、価格高騰に耐える設計や、コスト見積への反映を早期に行うことが重要です。
供給面では、チリやペルーなど特定の鉱山に依存した調達構造が続く中、天候や社会不安、環境規制による遅延リスクが高まっており、日本企業の調達にも波及する可能性があります。特に、JIT(ジャスト・イン・タイム)を前提とする業界では、部材の納期遅延が生産ライン全体に影響するため、サプライヤーの複線化や在庫政策の見直しが急務となります。
調達先・契約条件の見直しが求められる背景
銅に関しては、調達先の地理的集中がリスクの一因となっており、これを分散させる動きが強まっています。チリ、インドネシア、DRコンゴなどに依存しすぎたサプライチェーンを見直すことで、突発的な供給ショックへの耐性を高める必要があります。
また、従来の長期契約一本化の姿勢から、スポット調達や短中期契約の組み合わせによる柔軟な構成への転換も検討に値します。こうした調達戦略の多様化は、企業の価格変動耐性を強化するうえでも有効です。
さらに、リスク分散の一環として、再生銅(スクラップ)由来の調達ルートの確保や、リサイクルスキームの強化も進められています。中国ではすでにスクラップ精錬能力が急速に拡大しており、日本企業にとっても、リサイクル材の安定確保が競争力を左右する要因となりつつあります。
加えて、契約面ではフォースマジュール条項や価格調整条項の再確認、供給遅延に備えたペナルティ規定の明確化など、リスク対応型契約の見直しが求められています。特に国際調達では、法務・通関・輸送にまたがる複合的な視点が欠かせません。
資源価格の変動や供給不足に直面する今、世界のサプライチェーン構造そのものの理解が不可欠です。調達・在庫戦略の見直しを検討中の方は、以下の記事をご覧ください。

日本企業の対応事例と政策支援の動き
こうした変化に対応するため、日本政府も動きを強めています。2024年度の補正予算では、経済産業省が新たに「鉱物サプライチェーン多角化・安定化事業」を立ち上げ、独立行政法人JOGMECを通じて、民間企業の鉱山投資や銅権益取得を支援しています。事業規模は1,600億円に上り、アジア・アフリカの開発案件への参加を促す構えです。
一方、企業側でも、以下のような対応が進んでいます。
| 取り組み内容 | 具体的な動き |
|---|---|
| 調達先の見直し | 東南アジアや中東などの新規供給元開拓 |
| 契約条件の再構築 | 柔軟な価格変動対応条項の導入 |
| 国内在庫の適正化 | 安定供給を優先した在庫基準の再設定 |
| リサイクル材の活用 | 再生銅ルートの構築・既存業者との連携強化 |
| 政策支援の活用 | JOGMEC支援枠組みの活用申請・検討 |
調達担当者としては、こうした外部支援制度の情報を常にアップデートしつつ、社内のSCM・経営層と連携した戦略的な調達判断を行うことが求められます。
まとめ
銅は、電気自動車や再生可能エネルギー、データセンターのような成長産業において不可欠な素材であり、その需要は今後さらに加速すると見られています。一方で、主要産出国の偏在や開発遅れ、地政学的リスクにより、供給側には構造的な不安定要因が多く、世界の銅不足は一時的ではなく、中長期的なトレンドとして企業の調達戦略に影響を与える段階に入っています。
2025年は供給過剰がわずかに続くとの見通しもありますが、価格の高止まりや在庫の減少傾向を見る限り、市場は実質的な逼迫をすでに織り込み始めています。銅を取り巻くリスクは「まだ先の話」ではなく、「すでに始まっている課題」として捉えるべきタイミングに来ています。
日本企業にとっては、特定地域への依存から脱し、新興国や再生資源を活用したサプライチェーンの多角化、契約条項の見直し、さらには政策支援の活用といった多面的な対応が必要です。調達・購買の現場においては、こうした動向を社内関係部門や経営層と共有し、戦略的に議論を進める素材として本記事を活用していただければ幸いです。
なお、供給リスクや契約の設計に関しては業種・地域によって個別の事情もあります。具体的な対応を検討する際には、専門家に一度相談してみることをおすすめします。




