農産物を輸出するまでの流れ、メリットとリスク

海外での人口増加、そして若い平均年齢を踏まえ、近年新しい市場を求め、農産物の輸出が注目を集めています。この記事では農産物を輸出するまでの流れ、そしてそのメリットとリスクについて解説していきます。

農産物を輸出するまでの流れ

農産物の輸出では、国内販売にはない検疫・通関・輸出証明といった追加プロセスが発生します。輸出先ごとの制度に合わせた準備が必要で、事前調査を怠ると、税関保留・廃棄・返品といった深刻なリスクに直結します。以下では、一般的な輸出フローと各工程の要点を整理します。

基本的な輸出プロセス

  • 市場調査・輸出先国の検疫条件や関税の確認
  • 事業パートナーとの商談・契約締結
  • 輸出港の決定
  • 輸出向け商品の調達・加工・梱包、輸出書類の作成
  • 港への搬入
  • 国内輸出検疫・通関
  • 仕向地での検疫・通関
  • 配送・販売

この流れの中で、国内流通と大きく違うのは検疫通関です。以下でそれぞれの役割を解説します。

検疫:病害虫の侵入防止

検疫は、国外から病原菌・害虫が侵入することを防ぐための安全検査です。農産物はまず日本国内で検査され、合格した場合に証明書が発行されます。

到着国でも再度検疫が行われ、不合格の場合は廃棄または返送となります。基準は品目・国ごとに異なるため、HSコード単位での確認が不可欠です。

通関:商品を合法的に国境越えさせる

通関とは、輸出品を税関に申告し、輸出許可を得る手続きです。申請書類・証明書・手数料の準備が必要で、到着国でも同様に通関審査が行われます。

また、輸入時には多くの国で関税が発生します。関税は国内産業保護のために設定されており、一般税率・FTA税率・特恵税率のどれが適用されるかで総コストが変わります。

輸出ルートの選択:直接輸出と間接輸出

輸出には、商社・貿易会社を介する間接輸出と、契約〜通関まで自社で行う直接輸出があります。直接輸出は利益率が高い反面、実務負担が大きく、交渉・書類・規制対応の知識が求められます。

初めて輸出する場合は、輸出セミナー参加、専門人材の配置、専門家への相談などを推奨します。JETROの海外コーディネーター相談などの公的支援も有効です。

実務サポートの活用

検疫・通関・物流・契約などの輸出実務は煩雑で、特に中小企業ではリソース不足に陥りがちです。クラウド型の貿易管理ツールや専門家の支援を組み合わせることで、書類管理や輸送工程を効率化できます

不明点がある場合は、税関・JETRO・貿易専門家への相談を早めに行うことで、輸出トラブルを未然に防ぐことができます。

農産物輸出には、インボイスやパッキングリストなどの書類準備に加え、輸出検疫や相手国の規制対応が不可欠です。特に検査・証明書の不備は輸出遅延や返送につながるため、事前準備が最大のリスク回避策となります。

農産物輸出では、検疫・通関・物流の要件を輸出先ごとに正確に整理し、スケジュールを逆算して準備することが重要です。特に農業で売上を上げる販路開拓については以下の記事をご覧ください。

次に農産物を輸出するメリット、そしてリスクについて解説していきます。

農産物輸出のメリット

事業者にとって輸出することで収益が上がらなければ、輸出の継続が難しくなります。

では、実際に収益面ではどのような状況にあるのか、また収益以外のメリットとしてはどのような点があるのかについて解説をしていきます。

「収益面での現状」

はじめに、収益面について見ていくと、たとえば中国で青森のりんごが1個80円で売られている場合、農家の人はすごく手取りが増えているだろうという印象を持たれがちになります。しかし実はそうではなく、その中間に船賃や先程述べた関税、あるいはマージンなど、いろいろ入って80円になっており、実際に農家に入るのは大体その半分もしくは半分以下であるのが現実です。

よって、国内販売よりもわずかばかり農家の手取りが多い程度です。しかし、収益以外の点では主に以下の3つのメリットが挙げられます。

「農産物を輸出するメリット」

  • 生産意欲の向上
    自分らが生産した農産物が外国で販売され、「美味しい」と評価された場合や農産物が海外で賞を貰った場合など、従業員そして生産者は誇りを持ち始め、社員の意欲の向上、生産意欲の向上につながる効果が得られます。
  • 宣伝効果
    農産物が海外で売られていることをいろいろなメディアで取り上げてもらえることで、かなりの宣伝効果が生まれ、販促、集客そして利益の拡大が期待できます。
  • 海外での生産の可能性・新しいマーケット創出の可能性
    輸出に関しては、価格競争よりもブランド競争になっているため、海外でのブランド形成に成功すれば、現地(海外)での生産開始が期待でき、また新しいマーケット創出・ニーズの創出も期待できます。今実際に、日本人が海外で農産物を生産する、いわゆるMade by Japaneseも現実味を帯びてきておりすでに何人かの日本人が海外でコメの生産を始め、ブランド化にも成功しているケースもあります。
    また、現在日本では人口減少と高齢化が進んでいるため「胃袋の数」が減り、 1人当たりの食べる量も減っており、ダブルパンチが起こりつつある状況にあります。しかし海外では人口の増加により、「胃袋の数」が増え、また平均年齢も若いため、海外に進出し 新しい市場を開拓していくことで、商機が増えると考えられます。

次に、農産物を輸出するときのリスクについて見ていきます。

農産物輸出のリスク

以下の点が農産物輸出のリスクとして考えられます。

  • 知名度の低さによる価格設定の難しさ
    日本の農産物の中には海外で知名度が低く、価格設定が難しいものがあります。さらに、既に現地進出しているメーカーがある場合は、価格競争が一層厳しくなります。長年輸出に取り組む先行企業は現地工場を持ち、日本のスーパーでは見かけないような低価格で販売しているケースもあります。しかし、経済国際化推進協議会による海外バイヤー紹介や商社との連携を活用し、農産物の品質や食味を訴求してブランドを築けば、知名度向上と価格リスクの回避につながります。さらに、現地販売のタイミングに合わせて鮮度を保つ保存技術や、傷みにくい搬送資材の工夫を行えば、品質を強調でき、知名度アップが期待できます。
  • 言語の壁
    輸出するためには当然ながら言葉の壁があり、海外の地元の問屋との直接交渉や、 現地で良いパートナーを得るためには、言葉の壁を乗り越えていく必要があります。特に「直接輸出」を行う場合には、言語の壁による苦戦がより大きくなる可能性があります。
  • 代金の回収リスクや売れ残りリスク
    輸出において代金の回収リスクや、売れ残りリスクは避けられないものです。しかし、そういったリスクにも解決策があります。例えば、代金の回収リスクにおいては、弊社の独自の決済システムであるDiGiTRAを使えば代金回収リスクは無くなります。
    また、売れ残りリスクにおいては現地での販売状況を元に在庫管理や輸出量の管理を的確に行えば、売れ残りリスクの管理もできると考えられます。
  • 間接輸出におけるリスク
    商社や貿易会社を通じて輸出をする場合、各商社や貿易会社は複数のメーカーの商品を扱っているため、利幅や利益率などの理由で注力度合いが変わってしまうリスクがあります。そのようなリスクを回避するには、中小企業の貿易をサポートしている商社や貿易会社を選考したり、単純に値下げで対応するのではなく、 同行商談や試食会の実施などの販売戦略を考え出す必要性があります。

農産物輸出では、品質や鮮度を維持しながら販売戦略やパートナー選定を行うことが、価格競争や回収リスクを抑える鍵となります。特に中小企業が輸出ビジネスで成功する方法については以下の記事をご覧ください。

まとめ

農産物輸出は、国内販売にはない検疫や通関といった追加プロセスが発生し、価格設定や代金回収、言語面の課題などのリスクも伴います。一方で、海外市場の成長を背景に、ブランド形成や新市場の開拓、事業者の意欲向上といった大きなメリットも期待できます。

輸出を成功させるには、各国の規制や流通条件を理解し、現地パートナーとの連携、物流管理、適切な販売戦略を組み合わせることが重要です。輸出に取り組む際は、一度専門家に相談することをおすすめします

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