今、日本の緑茶を海外に!市場の事情まとめ

世界的な健康志向の高まりや日本食ブームを背景に、日本の緑茶はこれまで以上に海外で注目される存在となっています。特に抹茶を中心とする粉末タイプは、飲料・スイーツ・健康食品など幅広い用途に活用され、従来の「日本茶=伝統的な嗜好品」という枠を超えた市場を形成しつつあります。
輸出額も近年右肩上がりで推移し、アメリカや台湾、ASEAN諸国を中心に需要は多様化しています。

一方で日本国内の茶市場は成熟し、世帯支出の停滞や生活スタイルの変化により成長余地が限られています。こうした状況から、多くの生産者・加工業者・食品メーカーが海外販路に活路を求め始めました。海外市場では用途・価格帯・供給体制が日本と大きく異なるため、単に「いい商品」を輸出するだけでは成功できません。
市場の特性を理解し、適切な形で価値を届ける戦略が求められます。

本記事では、国内市場の停滞、緑茶輸出の拡大、海外での受容事例、そして今後の戦略的な方向性に触れながら、日本の緑茶がなぜ今世界で選ばれているのかを整理します。これから海外展開を検討する方の第一歩として、ぜひ参考にしてください。

国内市場での停滞

国内の日本茶市場は、品質や伝統性が高く評価される一方で、消費環境や飲用習慣の変化により需要が伸び悩んでいます。飲料化の普及や若年層の嗜好の多様化により、従来のリーフ茶中心の需要は縮小し、価格競争の激しいペットボトル飲料に市場がシフトしました。

ここでは、なぜ国内市場が停滞しているのか、その背景を整理します。

長期的な茶消費量の減少

日本茶の国内需要は、1990年代から長期的に減少しています。少子高齢化に伴う人口減少に加え、生活スタイルの変化によって「急須を用いて淹れる」家庭が少なくなり、手軽な飲料を選ぶ傾向が強まりました。統計上も、リーフ茶の購買量は世帯単位で低下し続けており、飲用方法の簡便さを求める流れが顕著です。

結果として、茶葉そのものの魅力よりも「飲みやすさ」「価格」「入手性」が選択の基準となり、消費の質が変化しました。

茶飲料市場の成熟と価格競争

コンビニ・量販店・自動販売機を通じて、緑茶飲料は広く浸透しています。しかしこの市場はすでに成熟段階にあり、メーカー間の競争は価格や新商品サイクルに依存しがちです。品質の高さを示す余地はあるものの、消費者は必ずしも原料産地や製法よりも「手軽さ」や「価格」を優先します。

そのため、リーフ茶の価値が正しく伝わらず、産地や茶農家の収益改善につながりにくい構造が続いています。

若年層の嗜好変化と他飲料への流出

若年層では、緑茶よりもコーヒー、紅茶、エナジードリンク、健康志向飲料など選択肢が多様化しています。特にカフェ文化の拡大により、コーヒー市場は嗜好品として拡大し、日本茶は「特別に淹れる飲み物」として距離が生まれました。また、甘味料入り飲料や機能性飲料は、味覚的な満足感や即効性を訴求できるため、緑茶本来の価値が埋もれがちです。

この嗜好変化は短期的ではなく、世代を超えて継続的に影響しています。

緑茶輸出の拡大

国内市場が長らく横ばいとなる一方、緑茶は海外で存在感を高めています。 特に2010年代以降は、抹茶・粉末緑茶の需要を起点に輸出額が安定的に伸び、輸出先の多様化も進みました。 背景には日本食ブームや健康志向の高まりに加え、飲食・食品加工・飲料産業での用途拡大が挙げられます。

輸出額の継続的な成長

2012年以降、日本の緑茶輸出額は右肩上がりの成長を続けています。 農林水産省によると、世界的な日本食や健康食品への注目が高まり、 抹茶や粉末茶の輸出が加速したことで輸出額を押し上げました。 また、2022年には前年比7.1%増の218億8742万円となり、 輸出量は1.3%増の6,262トンと過去最高を記録しています。 円安の為替環境が追い風となり、価格競争力の向上も寄与したと考えられています。

主要輸出先と市場の特徴

輸出先では、米国が最も大きな市場であり、104億8456万円と全体の約半分を占めています。 米国では抹茶の認知度が高く、ラテ・スムージー・菓子加工など用途が幅広いことが特徴です。 台湾は18億8483万円(10.6%増)と堅調に成長しており、 日本茶文化への親和性や外食産業での採用が背景にあります。 一方、ドイツでは一部減速が見られるものの、健康食品としての緑茶需要は根強く、 輸出が安定的に推移しています。

粉末茶を中心とした製品構成の変化

輸出拡大の中心は「粉末状の緑茶」であり、輸出額全体の67.2%を占めています。 米国に限ればその比率は75.9%に達し、抹茶を原料とした食品・飲料への転用が進んでいます。 粉末茶は保存性が高く、品質が均一で、製造・調理への応用が容易であることから、 外食産業・カフェチェーン・菓子メーカーなどに受け入れられやすい点が特徴です。 リーフ茶と比べてブレンドの柔軟性も高く、市場拡大に有利なフォーマットとなっています。

特にASEAN市場では、コロナ禍からの経済回復と健康志向の高まりを背景に需要が増加しています。 タイ(37.5%増)、マレーシア(26.0%増)、インドネシア(39.8%増)など、 輸出額が大幅に伸びた国が多く、今後の成長市場として注目されています。

緑茶を輸出する際、とくにアメリカ市場では食品安全規制への対応が欠かせず、製造者・販売者双方に厳格な基準が求められます。アメリカのFDAについては以下の記事をご覧ください。

日本茶の海外での受け入れられ方

アメリカでは、緑茶や抹茶を扱うカフェが増加しており、日本茶ブームなるものが起こっています。これまでは、コンビニなどで販売されるタイプの抹茶や加糖の甘いものが主流でした。しかし、現在ではヘルシー志向が普及し無糖タイプの緑茶も見られるようになり、日本メーカーの茶飲料も取り扱いが増えました。日本ではお馴染みの「お~いお茶」の伊藤園も、2012年から緑茶の販売数を急激に増加させています。

ニューヨークの抹茶専門カフェ「MATCHAFUL」

ニューヨークで、抹茶専門カフェの「MATCHAFUL」が2018年にオープンしました。ここでは、静岡県で栽培された日本産の抹茶が提供されています。さらに、アメリカでは抹茶がオーガニック食品として認識され、ヘルシー志向のニューヨーカーに受け入れられているという背景もあります。

抹茶マシンを開発する「COUZEN MATCHA(空禅抹茶)」

COUZEN MATCHA(空禅抹茶)は、挽きたて抹茶の素晴らしさを提供することを目的に、抹茶マシンの開発と提供を行っている企業です。創業者の塚田 英次郎氏は、アメリカのサンフランシスコに出店した抹茶カフェ「Stonemill Matcha」で得た経験から、「コーヒーのエスプレッソマシンのように挽きたて抹茶を楽しめるマシンを作ること」に挑戦をし、抹茶マシンを開発しました。

有機栽培にこだわった茶葉を扱う「MATCHA KAORI JAPAN」

MATCHA KAORI JAPANは、抹茶や緑茶関連商品をメキシコ・ペルーなどの中南米地域に展開させている企業です。代表取締役の吉宮しおり氏は、自身のメキシコ在住経験から独自のネットワークによる販売網を構築しており、2014年にメキシコ、2021年にペルーへの進出を行いました。さらに、現在は香港やドバイ、アメリカなどでさらなる販路の拡大に挑戦しています。MATCHA KAORI JAPANはメキシコにおいて高いシェア率を獲得し、2023年の売上は4,000万円を見込んでいます。これは、ニッチな海外の市場に参戦し成功した日本茶ビジネスの事例といえるでしょう。

日本の緑茶は国内市場が停滞している一方で、海外への輸出が大幅に増加しており、特に粉末タイプの需要が高いことが重要です。ASEAN諸国への輸出も急増しており、今後大きなビジネスチャンスとなる可能性があります。

これからの「茶」の動向

これから日本の茶を売り出していく中で、大きく2つの方向性があるとされています。

①抹茶の売り出し

1つ目は、広く知られた「抹茶」をさらに売り出していく方法です。抹茶は世界的なブームを経験しており、その認知度も高いとされています。抹茶ラテというように大手カフェチェーンや加工食品メーカーで抹茶が使用されることに対応し、ターゲットに応じて抹茶生産を拡大する取り組みが戦略として考えられます。実際に、より収穫が多く、販売価格が高い抹茶の原料「てん茶」に生産を集中させた茶農家も少なくありません。

②「蒸製緑茶」の売り出し

もう一つは、「蒸製緑茶」の認知を広める方法です。これは、日本では主流でありながらも世界的にはマイナーとされる過熱方法で、まだ世界的に知られていません。そこで、この良さを日本の茶として伝える機会を増やし、蒸製緑茶の売り出しを狙うことも可能です。

抹茶や蒸製緑茶のように、日本独自の強みを持つ商品であっても、海外展開では市場選定・販売戦略・物流体制など実務面の整備が欠かせません。中小企業が輸出ビジネスで成功する方法については以下の記事をご覧ください。

まとめ

日本の緑茶市場は国内では成熟し、リーフ茶の需要低下や飲料市場の価格競争により成長が限定されています。その一方で、海外では健康志向や日本食文化の浸透を背景に、粉末抹茶を中心とした需要が拡大し続けています。

特に米国では飲料・製菓・健康食品での利用が進み、台湾やASEANでは日本茶文化への親和性や経済回復を追い風に輸出額が大幅に増加しました。さらに抹茶専用カフェや抹茶マシンの普及により、単なる嗜好品ではなく新しい体験価値として受容されている点も注目されます。

一方で、食品規制、物流、品質管理、現地ニーズの把握など輸出実務の壁は依然存在し、成功には市場分析やルート構築が欠かせません。海外販路を検討する際は、まず市場特性に応じた戦略設計を行い、一度専門家に相談することをおすすめします

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