農機具の海外市場・輸出の流れをご紹介!

日本の農機具は新品・中古市場を問わず、世界で大きな人気を得ています。
そんな極めて高品質な日本製農機具について、現時点での国内市場や今後の展開について述べていきましょう。

日本における農機具の生産台数について

日本の農機具市場は、作物や生産方式の違いに応じて多様な製品が求められており、品目ごとに生産台数と用途の傾向が大きく異なります。とくに小型機から大型機まで幅広い製品が存在し、それぞれの需要は国内農家の規模や作業特性に強く左右されます。

以下では、主要農機具の生産台数と特徴を順に見ていきます。

普及台数が最も多いのは「刈払機」

「日農工統計」というデータを参照すると、日本農業機械工業会が各農機具の生産台数を算出しています。最新の2020年のデータによると、以下のように台数が多い順に並んでいます。

  • 刈払機: 793,386台
  • 防除機: 188,779台
  • トラクター: 120,061台
  • 耕うん機: 93,693台
  • 田植え機: 21,254台
  • コンバイン: 13,438台

これは、「刈払い機」・「防除機」に関しては単価がそれほど高くないことから、量産されていることが分かります。その次に、需要が高く単価も高い「トラクター」が続いています。
なお、これらのデータはすべて国内向けのものだけではありません。

「トラクター」と「刈払い機」の約25%・防除機の約20%は輸出向けに生産されています。一方、「田植え機」や「耕運機」などは、輸出に回される割合は10-15%程度で比較的低く、多くは国内向けの需要に供されています。

前年比では大型農機の生産は縮小傾向

ちなみに、前年(2019年)と比較して生産台数には変動があり、特に大型農機、中でも「トラクター」など国内向けの需要が減少している傾向が見られます。例えば、「トラクター」の国内向け生産台数は前年比で76.3%減少し、「耕うん機」は85.1%、「田植え機」は91.4%、「コンバイン」は79.2%という具合です。

この減少傾向は、主にコロナウイルスの影響による流通の停滞や需要減、売り上げ減を見越した生産の縮小が要因として考えられます。また、部品調達や輸入にも支障が生じた可能性も考えられます。しかしながら、「農機を買う側」としては、需要自体が減少することは考えにくいため、新品の販売台数が減少し、中古農機の購入が選択肢として重要性を増していると言えます。
また、同じ農機でも国内向けの防除機(噴霧器など)の生産台数は前年比で118.2%増加している傾向があります。これは、コロナ対策の影響が本当にある可能性があると言えます。

農機具の需要は作物や地域ごとの生産方式に左右されるため、国内市場だけでなく海外需要を視野に入れることで販売機会が一気に広がります。特に販路開拓については以下の記事をご覧ください。

農機具・売上シェアについて

農機具の市場規模や影響力は、個別の製品性能や開発力だけでなく、メーカーごとの売上とシェアに大きく左右されます。特に国内市場では歴史あるメーカーが強い一方、世界では輸出比率や海外需要の高さが企業の競争力を決定づけます。

まずは国内における農機メーカーのシェア構造を整理します。

国内の農機具全体の企業別ランキング

「売り上げを「国内向け」と「輸出向け」に分けるのは困難ですが、会社全体の売り上げに基づいてシェア順位を見ていきましょう。

  • クボタ
    世界でも売り上げ第2位を誇る日本最大の農機メーカーです。2020年の売り上げは1兆8,500億円で、実際にはそのほぼ7割が海外からのもので、日本国内の売り上げは3割にすぎません。それでも、国内市場では約35%のシェアを占めています。
  • ヤンマー
    約7800億円(2020年)の総売り上げを誇る、知名度の高い大手農機メーカーであり、世界ランキングでも5位です。多くの人が天気予報などのCMでその名前を聞いたことがあるかもしれません。元々、ディーゼルエンジンの分野で専門的な知識を持っていた会社であり、同社のトラクターをはじめとする農機具は故障が少ないという特徴を持っています。
  • イセキ(井関農機)
    イセキの売り上げは1490億円で、2位のヤンマーとはやや差がありますが、同社は当時から画期的な田植え機であった「さなえ」シリーズでよく知られています。種類別に見ていくと、田植え機やコンバインを中心に強みを持っており、以前は両方のジャンルでシェアのトップになるほどの存在感を示していました。現在でもこの分野で注目を集めています。

海外の農機具全体の企業別ランキング

農機市場は世界規模で、調査会社によって数値にばらつきがありますが、2019年現在で約1,200-1,500億ドル(13兆円-16兆円)と言われています。市場自体も人口の増加などに伴い、年間6-9%の成長が予想されています。

日本の農機メーカーも多く、成長する世界の農機市場に挑戦しています。特に日本のランキング1位であるクボタと2位のヤンマーは、世界ランキングのトップ5にも入っています。

なお、2020年の世界の農機売り上げベスト10は以下の通りです

  • ディア・アンド・カンパニー(米国)- 13.3%
  • クボタ(日本)- 9.5%
  • CNHインダストリアル(イタリア)- 7.3%
  • アグコ(米国)- 6.1%
  • ヤンマー(前年は6位、日本)- 5.0%
  • クラース・グループ(ドイツ)- 3.2%
  • トロカンパニー(米国)- 2.3%
  • マヒンドラ・マヒンドラ(インド)- 1.5%
  • SDF(イタリア)- 1.0%
  • 井関農機(日本)- 0.95%

日本の農機メーカーがトップ10に3社も入っているのは驚きです!

日本市場では、特に大型トラクターなどでは海外メーカーの製品がよく見られます。大馬力で大量の作業を一度に行える機種については、海外メーカーが優れているようです。ただし、広大な耕地などでは、海外メーカーの農機も選択肢に入るかもしれませんが、故障時のサービスや修理の体制など、海外メーカーには悩みがあると言えます。こうした要素を考慮して判断する必要があります。

日本製農機具(新品・中古を問わず)は信頼性と品質の高さから、アジアや中東、ヨーロッパの発展途上国市場で高い需要があります。世界の農業機械市場は年6~9%で成長中で、日本の主要メーカー(クボタ・ヤンマー・イセキ)はグローバルランキング上位に名を連ねています。

海外展開を検討する際は、まず輸出の基礎や実務の全体像を把握することが重要です。市場調査や物流・通関の流れを理解し、計画的に進めることで、農機メーカーの海外シェア拡大にもつながります。初めての海外輸出については以下の記事をご覧ください。

農機具の輸出フローについて

農機具の輸出は、通常の工業製品と比べて「サイズ」「重量」「衛生規制(種子・土壌)」「メンテナンス部品」など注意点が多く、手順を誤ると港での通関保留や返品につながることがあります。

以下では、初めて輸出する企業でも理解しやすいよう、実務での一般的な流れを整理します。

手順1:輸出先のバイヤーを見つけ、商談を行う

まず輸出先のバイヤーを見つけて商談を行います。通常、ウェブサイトのネット検索を通じてバイヤーにアプローチし、そこから取引が始まることが一般的です。場合によっては取引先を訪問したり、取引先が日本へ技術者や整備士を連れて訪問することもあります。

手順2:商談後、バイヤーが輸入手続きを行う

商談がまとまった後、バイヤーが輸入手続きを行います。各国によって輸入手続きが異なるため、農機具は穀物の種を運んでしまう可能性があるため、それらを規制するルールも存在します。バイヤー側が国の規制に従って輸入手続きを適切に行います。

手順3:横浜または神戸港まで農機具を輸送する

輸入手続きが進み、輸出の準備に入ります。中古農機具の海外輸出には船が利用されます。主な船出港地は横浜と神戸港の2つです。関東地域からは主に横浜へ、関西地域からは神戸へと農機具が輸送されます。

手順4:農機具が入ったコンテナごとに輸出される

船での輸出時には、農機具が入ったコンテナごとに輸出されます。これらのコンテナには中古農機具が詰め込まれ、EUやアジアの発展途上国などへ輸出されます。

まとめ

日本製の農機具は、高い耐久性とメンテナンス性、そして国内市場で培われた精密な設計から、海外でも継続的な需要があります。新品・中古の別を問わず、製品ごとに輸出比率や市場特性が異なるため、自社の製品ラインに適した入口を選ぶことが重要です。
また、国内の需要縮小や大型機の生産低迷など構造課題がある一方、海外市場ではアジア、中東、欧州など地域ごとに異なる成長機会が存在します。

輸出の実務では、バイヤーとの商談、輸入規制の確認、港湾輸送、コンテナ単位での出荷といった手順を正確に押さえることが欠かせません。市場データと輸出フローの双方を理解し、需要・リスク・コストを踏まえて計画を立てることで、農機具ビジネスの海外展開は大きな成長機会となり得ます。
具体的な取引形態や規制対応については、一度専門家に相談することをおすすめします

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