フィリピン貿易・輸出の基礎知識(2025年更新)

フィリピンは、ASEANの中でも消費市場の拡大と労働力の若さを背景に、製造・サービスの両面で存在感を増している国です。BPO産業や海外労働者の送金に支えられた旺盛な消費需要、電子機器輸出を核とした製造業、そして外国企業を誘致するPEZA制度など、外貨獲得と投資呼び込みの両輪で経済を推進しています。

一方で、輸入依存の高さや港湾の混雑、公共機関の稼働状況、乙仲(フォワーダー)を巡る慣習的コストなど、実務面では独自のリスクも存在します。

本記事では、2025年時点の最新情報をもとに、フィリピンの基本データから輸出入構造、貿易制度、PEZAの活用、現地物流・通関の注意点、支払リスクまでを体系的に整理します。

フィリピンの基本情報(2025年)

フィリピンは東南アジアに位置する島嶼国家で、豊かな自然と文化を持つ一方で、経済成長と社会的課題の両面を抱える国です。以下に、2025年時点でのフィリピンの主要な基本情報を整理します。

  • 国名:フィリピン共和国(Republic of the Philippines)
  • 首都:マニラ(Manila)
  • 公用語:フィリピノ語(Filipino)、英語(English)
  • 人口:約1億1,200万人(2025年推定)
  • 面積:約300,000平方キロメートル
  • 通貨:フィリピン・ペソ(Philippine Peso / PHP)
  • 政体:大統領制(共和制)
  • 元首:フェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領(2022年就任、2025年現在も在任)
  • 宗教:国民の約8割以上がローマ・カトリックを信仰。の他、プロテスタント、イスラム教徒(主に南部ミンダナオ島)も存在。

経済と地理の特徴

フィリピンの経済は、農業・製造業・サービス業が主軸となっており、近年はBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業や海外労働者からの送金が大きな経済支柱となっています。2024年の実質GDP成長率は約6.2%と、ASEAN内でも高水準の成長を維持しています。

地理的には、7,641の島々から構成される島嶼国家であり、美しいビーチや熱帯の自然景観が観光資源として世界的に知られています。火山や地震が多い一方で、農業・漁業の資源も豊富です。

政治・経済・文化はいずれも変化のスピードが早いため、フィリピンと関わる際には、常に最新の情報を確認することが重要です。進出や取引を検討する企業にとっては、制度・規制・経済環境のアップデートを定期的にチェックすることが成功の鍵となります。

フィリピンの輸出構造は電子製品がGDPの約3分の1を占め、主要輸出品として電子機器が約42%、木工製品やその他加工品も存在します。

フィリピン市場を理解する際には、人口規模やBPO産業などのマクロ環境だけでなく、企業が海外進出に直面する商流構築・制度対応といった実務面の視点が重要です。
初めての海外展開で押さえるべき海外輸出の基本や流れについては以下の記事をご覧ください。

フィリピン貿易の特徴

フィリピンとの取引では、一般的なASEAN市場と比べても制度面と実務面の癖が強いことが特徴です。通関や検査の基準、行政の稼働スケジュール、乙仲(フォワーダー)に関する慣習的な費用構造など、現地固有の事情を理解しないまま取引を進めると、思わぬ遅延やコスト増につながることがあります。

以下では、実務で頻出する注意点を中心に解説します。

環境省ガイドラインとの適合性証明の必要性

特定の品目、例えば中古家電について、過去の問題を受けて適正なリユース品かどうかの確認が必要になっています。これにより監査が厳しくなりました。

公共機関の稼働期間に注意

フィリピンでは通関などの公共機関がクリスマスから年末年始にかけて稼働しないため、この期間に荷物が到着すると追加の保管料が発生することがあります。

現地の乙仲(おつなか)さんの費用内訳の不明瞭さ

ほとんどの乙仲さんが費用の内訳を明らかにしないことが一般的で、その理由は賄賂が含まれているとされています。輸入通関の過程で必要とされる賄賂が、手続きを進める上での障壁となり得ます。

PEZA地域の特権

フィリピンのPEZA区域は、外国企業にとって魅力的な投資環境を提供しています。PEZA(Philippine Economic Zone Authority)は、国内外の投資家に税制優遇やインフラ整備を提供し、ビジネスの成長を促進するために設立されました。

PEZAには以下のようなメリットがあります:

  • 企業税の免除: 登録企業には最大5年間、企業税免除が適用される場合があります。
  • インフラが整っている: 電力、水道、通信などのインフラが整備された産業団地が提供されています。
  • 法的手続きの簡素化: ビジネス設立や許可手続きがPEZAを通じて効率的に行われることができます。

さらに、フィリピンは地理的にアジア地域に位置しており、安価な労働力を活用して製造業やサービス産業が盛んに行われています。これらの要素が、多くの企業がフィリピンのPEZA区域への投資を検討する理由となっています。経済的発展を促すPEZA区域は、フィリピン貿易において重要な役割を持っており、今後も多くの企業にとって有望な投資先となるでしょう。

現地の乙仲さん選びが重要

支払リスクを軽減するために、現地の乙仲さん探しは不可欠です。乙仲さんは、海運貨物取扱業者のことを指し、商品の海上輸送手続きや積荷、倉庫内管理など、多岐にわたる業務を行います。

船だけでなく、航空輸送も対応する業者は「フォワーダー」と呼ばれます。乙仲さん、通関業者、フォワーダーの違いを押さえておくことが肝要です。

  • 乙仲さんは航空貨物は扱わず、フォワーダーは航空や自動車・鉄道など多様な運送手段を使います。
  • 乙仲さんは梱包や倉庫作業も行いますが、フォワーダーは行いません。
  • 税関での申告を代行するのが通関業者で、多くの企業が頼っています。申告手続きは複雑であり、漏れ防止が重要だからです。
  • 通関業者は税金関連業務のほか、品目によっては厚生労働省や農林水産省への書類作成や申告も行います。

現地の乙仲さんが選ばれれば、現地の通関業者との円滑なコミュニケーションやトラブル時の対応も変わります。そのため、選択する際は慎重に行うべきです。

現地の乙仲さんを選ぶ前に、まずは中小企業が輸出に取り組む際の全体像やリスク・リターンを整理しておくことが重要です。中小企業の輸出ビジネス の基本と海外展開の進め方については以下の記事をご覧ください。

支払リスクを回避する方法

荷受人から適切な支払いを確保することは、リスク管理において重要です。以下では、4つの主要な支払い方法を紹介します。

  • 100%前金
    フィリピン貿易に初めて取り組む場合、この方法がおすすめです。商品代金や輸送費用など、すべてを完全に受け取った後に乙仲に依頼します。
  • 50%前金
    よく採用される方法で、最初に代金の半分をコンテナ積み込み前に貿易相手から受け取ります。残りの半分は船荷証券(B/L)が発行された時点で受け取ります。
    船荷証券(B/L)は、荷物がコンテナに積まれた後に船会社が発行します。乙仲が受け取り、輸出元に転送し、荷受人にメールで送られます。荷受人は現地の乙仲にBLを持参し、届け出ることで荷物を受け取れます。
    しかし、B/Lが発行されているにもかかわらず、荷受人が残金を支払わないことがフィリピンではよくあります。そのため、支払リスクを回避する方法の選択は重要です。振込が行われない場合、荷物はコンテナに載せられ、目的地に到着してしまうことがあります。
    このようなリスクを考慮して、現地で他の買い手を持つことが重要です。
  • 信用状取引(LC)
    これは、輸出者と受取人の間に金融機関が関与するタイプの取引です。金融機関が送金を確認したのち、荷物を現地に輸送し、現地で金融機関が到着を確認します。到着の確認が取れたら、輸出者に金融機関から代金が振り込まれる仕組みとなっています。
  • 後払い
    失敗の可能性が高く、輸出者側のリスクが大きいため、1つ目・2つ目の方法(100%前金または半分前金)をお勧めします。

以上、フィリピン貿易の基本的な知識や現地オペレーターの役割、支払いリスクを軽減するための対策等について説明しました。

まとめ

フィリピンはASEAN内でも経済成長が著しい島嶼国で、2025年時点で人口約1億1,200万人、実質GDP成長率は6%前後と活況を呈しています。輸出構造では電子機器が約42%と中心的な役割を担い、製造業・農業・サービス、特にBPOや送金が経済を支えています。また、PEZA区域への進出では法人税の免除や整備されたインフラなどの優遇措置があり、多くの企業から注目される投資先です。

ただし、輸出に際しては通関業者(乙仲)選びの際に費用の不透明さ、公共機関の休業期間による遅延リスクといった現実的な課題にも注意が必要です。これらを踏まえた対応が求められます。一度専門家に相談することをおすすめします

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