【徹底解説】オーバーツーリズムとは?世界の事例と持続可能な対策を紹介

目次

    近年、世界中の人気観光地で「オーバーツーリズム(Overtourism)」が深刻な問題となっています。観光客の急増によって、住民の生活環境の悪化や交通渋滞、文化遺産の損傷、環境破壊といった影響が広がっています。

    本記事では、オーバーツーリズムの背景と影響を探り、持続可能な観光を実現するための対策について解説します。

    オーバーツーリズムの主な原因

    オーバーツーリズムが発生する要因には、さまざまな社会的・経済的な変化が関係しています。

    近年の観光業の発展を支えてきた背景には、格安航空会社(LCC)の普及が挙げられます。

    LCCの増加により、安価に旅行できる環境が整い、短期間の観光客が急増しました。その結果、特定の観光地に集中しやすくなっています。

    また、SNSやインフルエンサーの影響も大きく、InstagramやTikTokなどで「映える」観光地が紹介されると、瞬く間に観光客が殺到する傾向があります。

    京都やヴェネツィアでは、写真撮影を目的とした観光客が増え、住民の生活に影響を与えています。

    さらに、クルーズ船の寄港増加も問題の一因です。大型クルーズ船が短時間で大量の観光客を運び込むことで、混雑や環境負荷が増大しています。一方で、宿泊や飲食の利用が少なく、地域経済の恩恵が限定的になるという課題もあります。

    民泊の普及も見逃せません。Airbnbなどの民泊サービスが広がり、観光客が住宅地にも流入することで、

    騒音やゴミ問題、家賃の高騰といったトラブルが増加。住民との摩擦が深刻化しています。加えて、観光インフラの整備不足も影響しています。

    急激な観光客の増加に対し、公共交通機関やトイレ、ゴミ処理施設が不足し、混雑や環境問題を引き起こしている地域が少なくありません。

    オーバーツーリズムによる影響

    オーバーツーリズムは、観光地やその周辺にさまざまな悪影響を及ぼします。

    まず、環境問題が深刻化します。ゴミの増加や水資源の過剰消費により、自然環境が悪化し、森林やビーチの生態系にも影響が出ています。

    次に、住民の生活環境の悪化が挙げられます。

    民泊の急増によって家賃が高騰し、地元住民の生活が圧迫されるケースが増えています。また、観光客による騒音や交通渋滞が発生し、住民の生活の質が低下しています。

    文化遺産の劣化も大きな課題です。多くの観光客が訪れることで歴史的建造物が傷つき、保存が難しくなっています。

    特に寺院や遺跡では摩耗が進み、文化的価値の低下が懸念されています。

    オーバーツーリズムの代表的な4つの事例

    1.ベネチア(イタリア)

     毎年何百万もの観光客が訪れ、特に大型クルーズ船の寄港により短時間で市街地が観光客で溢れかえることが問題となっています。

    観光客の急増により、地元住民は生活環境の悪化を理由に市外へ移住するケースが増えています。

    これを受けて、ベネチア市ではクルーズ船の市街地寄港を禁止し、観光税の導入を決定しました。

    2.京都(日本)

     近年、外国人観光客が急増し、特に祇園や嵐山といった人気エリアでは観光客による路上マナーの問題や地元住民の生活環境への影響が懸念されています。

    市は観光客向けのマナー啓発活動を強化し、混雑を避けるために観光地の分散化を進めています。

    3.バルセロナ(スペイン)

    民泊の急増により、地元住民が住むための住宅が不足し、家賃の高騰が深刻化しています。

    特に観光客が集まるエリアでは、住民との摩擦が問題となっており、市当局は民泊の規制強化や観光客数の管理に乗り出しました。

    4.マチュピチュ(ペルー)

    世界遺産であるマチュピチュは、過剰な入場者数による遺跡の劣化が深刻化しています。

    保存のために1日の入場者数を制限し、事前予約制を導入することで、遺跡の保護と観光の両立を図っています。

    持続可能な観光を実現するための対策4選

    オーバーツーリズムを抑え、持続可能な観光を実現するためには、観光のあり方を見直し、地域や環境に配慮した取り組みが求められます。

    1. 観光客の分散化

    特定の観光地や繁忙期に集中しないよう、オフシーズンの旅行を推奨し、新たな観光地を開発することが重要です。

    例えば、日本の地方都市では観光資源の発掘やプロモーションを強化し、都市部の観光負担を軽減する動きが進んでいます。

    また、分散化を促すために、企業と連携して有給休暇の分散取得を促すなどの工夫も有効です。

    2. 入場制限や観光税の導入

    訪問者数を適切に管理するために、入場制限や観光税を導入する地域が増えています。

    例えば、ヴェネツィアでは一定時間以上滞在する観光客に対し入場料を課し、オーバーツーリズムを抑制する取り組みが行われています。

    また、京都では観光客向けの宿泊税を設け、得た収益を観光インフラ整備や環境保護に活用しています。

    3. 地域住民との共生

    持続可能な観光には、地域住民の声を反映した観光政策の策定が不可欠です。

    自治体や観光事業者が住民と協議し、観光客と地域社会が共存できるルールを作ることが重要です。

    例えば、バルセロナでは民泊の規制を強化し、住民の生活環境を守る取り組みが進められています。また、観光客に向けたマナー啓発キャンペーンを実施し、地域文化への配慮を促すことも有効です。

    4. デジタル技術の活用

    最新のデジタル技術を活用することで、観光客の流れを調整し、混雑を回避することが可能になります。

    例えば、リアルタイムで混雑状況を配信するアプリや、観光地への訪問を事前予約制にするシステムの導入が進んでいます。

    さらに、AIを活用した観光データ分析により、訪問者の行動パターンを把握し、適切な分散施策を講じることも可能になります。

    これらの対策を組み合わせることで、観光業の発展と地域社会の共存を図りながら、持続可能な観光を実現することができます。

    まとめ

    オーバーツーリズムは、地域社会や環境に深刻な影響を与える一方で、適切な対策を講じることで持続可能な観光へとつなげることができます。

    また、旅行者自身もマナーを守り、地域の文化や環境を尊重する意識を持つことが求められます。

    観光地、行政、旅行者が協力し、観光の未来をより良いものにしていくための努力を続けることが不可欠です。

    今後の観光戦略については、専門家に相談することで、より適切な方針を検討することをおすすめします。

    伊藤忠商事出身の貿易のエキスパートが設立したデジタル商社STANDAGEの編集部です。貿易を始める・持続させる上で役立つ知識をお伝えします。