海外で商標登録をするなら、輸出を始める前に、売りたい国で出願しておくことが基本です。日本で登録した商標の権利は日本の中でしか効力がなく、海外では現地で改めて権利を取る必要があります。
自社ブランドで輸出する中小企業にとって、商標は現地で販売を続けるための土台です。出願が遅れると、商品名を変えたり、販売を止めたりせざるを得なくなることもあります。
世界知的所有権機関(WIPO)の年次報告「Madrid Yearly Review 2026」によると、2025年にマドリッド制度を通じて出された国際商標出願は約6万4,150件でした。日本からの出願は前年より4.2%増えており、海外で商標を押さえる動きは続いています。
本記事では、輸出前に海外で商標登録が必要な理由から、登録の方法、手続きの流れ、費用と補助金、先に登録された場合の対処までを解説します。
輸出前に海外で商標登録が必要な理由|先取り・模倣品のリスク

海外で商標登録が必要な理由は、大きく3つあります。いずれも「売り始めてから」では手遅れになりやすい点が共通しています。
商標権は国ごとに取る必要がある
商標権は、登録した国の中でだけ効力を持ちます。これを属地主義といい、日本で登録済みの商標でも、輸出先の国で登録していなければ現地では守られません。
輸出先が複数ある場合は、それぞれの国(またはEUのような地域)で権利を取る必要があります。まずは売上が見込める国と、生産や販売の拠点を置く国から優先順位をつけるのが現実的です。
海外販路の選び方については、以下の記事で解説しています。

先に出願した人に権利が与えられる国が多い
中国をはじめ多くの国は、先に出願した人に商標権を与える先願主義をとっています。ジェトロの「中国商標権冒認出願対策マニュアル」でも、中国での事業予定がなくても、日本での展開と合わせて早めに出願しておくことが勧められています。
展示会への出展やECでの販売、現地の代理店との商談をきっかけに、第三者に商標を先に出願されるケースもあります。いわゆる冒認出願(抜け駆け出願)で、取り戻すには時間と費用がかかります。
模倣品を取り締まるにも登録が前提になる
現地で模倣品が出回った場合、税関での差し止めやECサイトへの削除申請には、原則として現地で登録された権利が必要です。ジェトロの模倣品対策の支援も、対象国で登録された自社の産業財産権があることを条件にしています。
商標を先に取られると、自社の商品が現地で「権利侵害品」として扱われ、販売の中止や商品名の変更を迫られることもあります。商標登録は、ブランドを守るだけでなく、輸出そのものを止めないための準備といえます。
海外で商標登録する方法2つ|マドプロと各国への直接出願の比較

海外で商標登録する方法は、マドリッド協定議定書(マドプロ)による国際出願と、各国の特許庁に直接出願する方法の2つです。主な違いは次の表のとおりです。
| 項目 | マドプロ(国際出願) | 各国への直接出願 |
|---|---|---|
| 出願先 | 日本の特許庁を通じてWIPOへ1回 | 国ごとの特許庁へ個別に |
| 前提条件 | 日本での商標出願・登録が必要 | 日本での出願・登録は不要 |
| 使える国 | 加盟している国・地域のみ | どの国でも可能 |
| 言語・費用の支払い | 英語などで1通、スイスフラン建て | 各国の言語・通貨。現地代理人が原則必要 |
| 登録後の管理 | 更新・名義変更をWIPOで一括 | 国ごとに手続き |
| 注意点 | 5年以内に日本の出願・登録がなくなると国際登録も取り消される | 国が増えるほど費用と手間が増える |
※特許庁「マドリッド協定議定書の概要について」「国際登録出願の手数料について」(2026年10月確認)をもとに編集部作成
マドプロは複数の国へ一度に出願できる
マドプロは、日本で出願・登録した商標をもとに、1つの願書で複数の加盟国を指定して出願できる制度です。WIPOの年次報告によると、2025年末時点で加盟は116か国・地域、カバーする国は132か国にのぼります。
出願後の更新や名義変更もWIPOへの1回の手続きでまとめて行えるため、出願国が多いほど手間と費用を抑えやすいのが特徴です。登録後に指定国を追加する事後指定もできます。
一方で、国際登録から5年以内に日本の出願が拒絶されたり、日本の登録が取り消されたりすると、国際登録もあわせて取り消されます(セントラルアタック)。この場合は、各国での国内出願に切り替える救済の手続きが用意されています。
各国への直接出願は国ごとの事情に合わせやすい
各国の特許庁に直接出願する方法は、マドプロに加盟していない国・地域(台湾など)でも使えます。日本での出願を待たずに出せるため、現地での販売を急ぐ場合にも向いています。
国ごとに商品の書き方や商標の表記(現地語の表記など)を変えられるため、中国で漢字の商標を別に取りたいといった場合にも対応しやすくなります。ただし、多くの国では現地の代理人を通す必要があり、出願する国が増えるほど費用と管理の手間が増えます。
どちらを選ぶかの目安
選ぶときは、出願する国の数と、日本での商標の状況を基準にします。次の点をそろえておくと判断しやすくなります。
- 出願したい国が3か国以上ある → マドプロが候補
- 日本でまだ出願していない、または日本の商標と形が違う → 各国への直接出願
- 出願したい国がマドプロに加盟していない → 各国への直接出願
- 現地語の表記で別の商標を取りたい → 各国への直接出願を組み合わせる
実際には、主な国はマドプロでまとめて出し、非加盟の国だけ直接出願するという組み合わせもよく使われます。
海外で商標登録する手続きの流れと期間の目安

海外での商標登録は、輸出の計画と並行して、次の順番で進めます。
- 日本で商標を出願する(マドプロを使う場合は必須)
- 出願する国と、指定する商品・サービスを決める
- 補助金を使う場合は、出願前に窓口へ申請する
- マドプロまたは各国への直接出願で出願する
- 各国の審査を受け、登録後は期限までに更新する
特にマドプロを使う場合は、日本での出願が出発点になるため、輸出の計画が固まる前から準備を始めておくと安心です。
出願前に決めておくこと
出願前には、どの国で、どの商品・サービスについて、どの形の商標を取るかを決めます。商品の範囲が狭すぎると、現地で似た商品に商標を使われても止められないおそれがあります。
ジェトロの中国向けのマニュアルでは、模倣されやすい衣類や履物、日用品などを指定商品に含めておくことも勧められています。あわせて、現地で同じような商標がすでに登録されていないかを事前に調べておくと、拒絶されるリスクを減らせます。
出願から登録までの期間の目安
マドプロの場合、特許庁の方式審査、WIPOでの審査を経て国際登録簿に記録された後、指定した各国で審査が行われます。特許庁によると、各国は原則1年(国によっては18か月)以内に拒絶の通報をしない限り保護を認めるしくみです。
各国への直接出願でも、審査期間は国によって大きく異なり、1年以上かかることも珍しくありません。日本で出願した日から6か月以内であれば、パリ条約の優先権を主張して、日本の出願日を基準に審査を受けることもできます。
マドプロで国際登録されても、それだけで各国での保護が決まるわけではありません。指定国から拒絶の通報が届いた場合は、その国の手続きに沿って期限内に対応する必要があり、多くの場合は現地の代理人を通します。
海外の商標登録にかかる費用の考え方と使える支援

海外の商標登録の費用は、出願する国の数、指定する商品の区分の数、代理人に依頼する範囲によって大きく変わります。費用の内訳と、負担を抑えられる補助金を紹介します。
費用の内訳を知っておく
マドプロの場合、特許庁の「国際登録出願の手数料について」(2026年10月確認)によると、費用は次の2つで構成されます。
- 日本の特許庁への送付手数料:書面での出願は1件9,000円
- WIPOへの国際手数料:基本手数料653スイスフラン(カラーの商標は903スイスフラン)に、指定する国ごとの手数料を加えた額
指定する国ごとの手数料は国によって異なり、個別手数料を定めている国では、その額が加わります。このほか、弁理士や現地代理人への報酬、翻訳費用がかかり、国の数と区分の数が増えるほど総額が積み上がるため、優先する国を絞ることが費用を抑える近道です。
外国出願の費用を半額補助する制度がある
特許庁の「中小企業等海外展開支援事業費補助金(海外出願支援事業)」(令和8年度)では、外国への商標出願にかかる費用の2分の1を、1件60万円まで補助しています。1企業あたりの上限は300万円(複数の案件の場合)です。
対象となる経費は、外国の特許庁への出願手数料、国内・現地代理人の費用、翻訳費用などです。窓口は工業所有権情報・研修館(INPIT)や都道府県等の中小企業支援センターで、日本で商標を出願済みであることが応募の条件です。
輸出・海外進出に使える補助金については、以下の記事で解説しています。

公募の時期や申請の方法は、窓口になる機関によって異なります。補助金を使う予定がある場合は、出願の計画を立てる段階で、INPITや地域の中小企業支援センターに確認しておくと、使える機会を逃しにくくなります。
海外で商標を先に登録された場合の対処

すでに現地で第三者に商標を出願・登録されていた場合でも、取れる手段はあります。ただし、国ごとに制度や期限が異なるため、早めの確認が欠かせません。
まず現地の状況を確認する
最初に、相手の出願・登録の状況、指定されている商品、出願した人の素性を確認します。相手が過去の取引先や代理店なのか、多数の海外ブランドを出願している人なのかで、取れる手段が変わります。
あわせて、自社がいつから現地で商品を売り込み、使ってきたかの証拠(取引の記録、カタログ、展示会の資料など)を集めておきます。ジェトロのマニュアルでも、争いになったときの証拠は、最初の手続きの段階でそろえておくことが重要とされています。
異議申立てや無効・取消の手続きで争う
主な手段は、出願の公告中に行う異議申立て、登録後に行う無効審判、一定期間使われていない商標に対する不使用取消の3つです。どの手段が使えるか、いつまでに申し立てる必要があるかは国によって異なります。
ジェトロの「抜け駆け商標無効・取消係争支援事業」では、異議申立てや無効・取消の手続きにかかる費用の3分の2を、500万円まで助成しています。2026年度の募集は2026年10月30日(予算がなくなり次第終了)までで、日本で同じか似た商標の権利を持っていることなどが条件です。
交渉や商標の変更も選択肢になる
法的な手続きのほかに、相手と交渉して商標を譲り受ける方法や、現地では別の商標で販売する方法もあります。ただし、高額での買い取りを求められるケースもあり、安易に応じると同じような出願が繰り返されるおそれがあります。
先に登録された商標への対応は、国の法律や個別の事情によって判断が大きく変わります。自社だけで相手に連絡する前に、現地の商標に詳しい弁理士・弁護士や、ジェトロの知的財産の相談窓口で方針を確認することが重要です。
まとめ
本記事では、海外で商標登録する方法を、必要な理由、登録の方法、手続きの流れ、費用と支援、先に登録された場合の対処に分けて整理しました。商標権は国ごとにしか効力がなく、多くの国では先に出願した人に権利が与えられます。輸出を始める前に、売りたい国で出願しておくことが最も確実な予防策です。
出願する国が多ければマドプロ、非加盟の国や現地語の商標には各国への直接出願と、目的に合わせて方法を選びましょう。費用は、外国出願の補助金を使えば半額まで抑えられる場合があります。先に登録されてしまった場合も、異議申立てや無効の手続き、ジェトロの助成など、取れる手段は残されています。
ただし、出願する国や商品の範囲、争いになった場合の対応は、個別の事情によって判断が分かれます。具体的に進める前に、海外の商標に詳しい弁理士や、ジェトロなどの支援窓口に相談することをおすすめします。

