【徹底解説】オーストラリアの鉱物・資源戦略2025

世界的に脱炭素化とエネルギー転換が進む中、各国は「どこから安定的に資源を確保するか」という新たな課題に直面しています。その中で注目を集めているのが、豊富な鉱物資源を有するオーストラリアです。


同国は鉄鉱石や石炭などの従来資源に加え、リチウム・レアアース・ニッケルといった次世代エネルギーに欠かせない重要鉱物の供給国として、世界のサプライチェーンにおいて存在感を強めています。
2025年現在、オーストラリア政府は「脱炭素」と「経済安全保障」の両立を目指した新たな資源戦略を進めており、国内外の企業に多くのビジネスチャンスをもたらしています。


本記事では、オーストラリアの資源構造から最新政策、国際連携、そして今後の展望までを詳しく解説します。

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オーストラリアの資源構造と主要鉱物

オーストラリアは、地球上でも最も豊かな鉱物資源を有する国の一つです。国土の約8割が鉱区指定可能地域とされており、鉄鉱石・石炭・天然ガスといった従来資源に加え、近年ではリチウムやニッケル、レアアースなどの「重要鉱物(Critical Minerals)」の産出国として注目を集めています。

これらの資源は、電気自動車や再生可能エネルギー関連産業の拡大に欠かせない存在であり、オーストラリアの経済成長を下支えしています。

同国の鉱業はGDPの約1割を占め、輸出額ベースでは全体の5割前後を構成しています。特に西オーストラリア州は「鉱物資源の心臓部」と呼ばれ、世界的な採掘企業であるBHPやRio Tinto、Fortescue Metalsなどが巨大な鉱山を運営しています。資源の輸出先は中国、日本、韓国、インドなどのアジア諸国が中心で、地域経済の安定にとっても重要な役割を果たしています。

主要な鉱物と産出地域

以下の表は、オーストラリアで産出される代表的な鉱物と世界シェア、主要産地を整理したものです。これらの鉱物の多くが世界市場における供給安定性を支えており、国際価格の変動にも影響を与えています。

鉱物名世界シェア(推定)主な産地
鉄鉱石約35%西オーストラリア州(ピルバラ地域)
石炭約30%クイーンズランド州、ニューサウスウェールズ州
リチウム約45%グリーンブッシュズ鉱山(WA州)
レアアース約10%マウントウェルド鉱山(WA州)
天然ガス(LNG)約20%ノースウェストシェルフ、ダーウィンLNG
ニッケル約6%キャンバルダ、ラベルトン地域(WA州)

これらの鉱物は、単なる輸出品ではなく、世界の脱炭素化とエネルギー安全保障を支える戦略資源としての意味を持っています。特にリチウムやレアアースは、EVバッテリーや風力発電装置などの製造に不可欠であり、各国が安定供給のために豪州企業とのパートナーシップを強化しています。

輸出構成と主要取引国

オーストラリアの輸出における資源関連の割合は依然として高く、2024年時点で全輸出額の約55%を占めています。その内訳を見ると、鉄鉱石が最大で約30%、次いで石炭、LNG、金、銅鉱石などが続きます。こうした一次資源輸出は、国家財政の根幹を支えるとともに、国際的な供給網の安定にも寄与しています。

主要な輸出先国は以下の通りです。

輸出先国主な輸出資源特徴
中国鉄鉱石、石炭、LNG世界最大の鉄鋼・エネルギー需要国
日本LNG、石炭、ニッケル長期契約を通じた安定調達が特徴
韓国石炭、LNG、銅鉱石製造業・発電向け需要が中心
インド鉄鉱石、金、銅需要拡大中の新興市場
アメリカリチウム、レアアース供給多様化政策と連携強化中

このように、オーストラリアはアジア太平洋地域のエネルギー・資源供給のハブとしての地位を確立しています。また、資源の輸出によって得られる外貨は、再エネインフラや鉱山の脱炭素化プロジェクトへの再投資にも活用され、持続的な成長循環が形成されつつあります。

今後の展望として、オーストラリアは「採掘国」から「付加価値創出国」への転換を目指しています。単なる原材料の輸出に留まらず、精錬・加工・輸出までを国内で一貫して行うことで、グローバルサプライチェーン内での交渉力を高める狙いがあります。

この方向性は、次章で解説する「資源戦略2025」の中核的な思想にも通じています。

2025年のオーストラリア資源戦略 ― 脱炭素と経済安全保障の両立

オーストラリア政府は2025年に入り、「脱炭素化の推進」と「経済安全保障の確立」を両立させるための包括的な資源戦略を進めています。これは従来の「資源輸出大国」という位置づけから一歩踏み込み、重要鉱物を軸にした産業構造転換を目指す動きです。
その中核を担うのが「Critical Minerals Strategy 2025–2035」であり、リチウム・コバルト・レアアースなど17種類の重要鉱物を国家戦略物資として定義し、採掘から精製・加工・輸出までを国内で完結できる体制の構築を目指しています。

オーストラリア政府が重点を置く「重要鉱物(Critical Minerals)」には、レアメタルも多く含まれます。
各金属の特徴や世界的な供給構造については、以下の記事で詳しく解説しています。

政策の概要と投資環境の変化

オーストラリア政府は、これらの鉱物資源を「新しい国富の源泉」と位置づけ、政策支援を拡充しています。2025年予算案では、重要鉱物関連の新規プロジェクトに対して50億豪ドル規模の公的融資枠を創設。開発初期段階の資金調達リスクを軽減し、民間投資の呼び込みを図っています。

さらに、鉱山開発に伴う環境影響評価(EIA)の手続きを簡略化し、再エネ利用を前提とした「低炭素型鉱業」を奨励しています。これにより、従来は環境規制の厳しさから遅れがちだった新規鉱山開発が、スピード感を持って進められるようになりました。

また、投資環境の整備においては、国際協力銀行(JBIC)や米国のEXIMバンクとの提携枠組みも注目されています。日米豪間での金融支援や技術移転の流れが進み、サプライチェーンを多国間で構築する方向性が明確になっています。

政策名・施策内容目的
Critical Minerals Strategy 2025–2035重要鉱物の採掘・精製・輸出を支援供給の自立化と国際競争力強化
Northern Australia Infrastructure Facility (NAIF)鉱山・港湾などのインフラ投資支援地域開発と物流強化
Clean Energy Finance Corporation (CEFC)再エネ利用プロジェクトへの投融資脱炭素型資源産業への転換
国際金融機関との連携(JBIC・EXIM)資金・技術の国際支援多国間供給網の安定化

これらの政策は、単なる鉱業支援ではなく、資源を通じた産業政策と安全保障政策の融合を意味しています。

再エネ・水素産業との連携

オーストラリアの資源戦略2025では、「脱炭素」と「資源輸出」の両立を実現するため、再エネルギーとの連携が不可欠とされています。特に注目されているのが、グリーン水素の生産と輸出構想です。
西オーストラリア州や南オーストラリア州では、太陽光や風力を活用した水素製造プラントが建設され、リチウムやニッケルの精製工程にも再エネ電力を使用する試みが進んでいます。これにより、CO₂排出を最小限に抑えた「グリーン資源輸出国」としての地位を確立しようとしています。

また、政府は2030年までに国内再エネ比率を82%まで引き上げる目標を掲げており、鉱業企業にも再エネ利用計画の提出を義務付ける方向で調整しています。これにより、鉱山の操業そのものが脱炭素化し、国際的なESG基準への適合が進むと見込まれます。

オーストラリアのリソース省によると、再エネ関連投資額は2025年時点で前年比40%増。鉱業セクターにおける太陽光発電の導入率も上昇し、電動重機の実証実験など「グリーンマイニング」の取り組みが拡大しています。

このように、2025年のオーストラリア資源戦略は、従来の「資源を掘る」時代から「クリーンに育てる」時代への転換を象徴しています。重要鉱物の安定供給を確保しつつ、環境負荷を最小限に抑え、国際的な信頼性を高める方向へ進んでいます。

オーストラリア資源と国際関係 ― 日米との連携強化

オーストラリアの資源政策は、もはや経済だけでなく外交・安全保障の柱となっています。特に2020年代半ば以降、資源を通じた国際連携の再構築が急速に進展しました。その背景には、脱炭素化に伴う新たな鉱物需要の高まりと、中国依存リスクへの懸念があります。
かつて同国の資源輸出の約4割を中国が占めていましたが、近年はその比率を下げ、アメリカや日本、インド、欧州などとの協力を拡大しています。資源は今や、経済安全保障の最前線に立つ存在となっているのです。

日米豪による重要鉱物連携の深化

オーストラリアは、日米豪印の安全保障枠組み「Quad(クアッド)」の中で、重要鉱物のサプライチェーン構築を主導する立場にあります。
特にアメリカとの関係では、2022年に成立したインフレ抑制法(IRA)において、オーストラリアを「信頼できる供給国(Trusted Partner)」として明記。これにより、豪州産リチウムやニッケルは、米国内で製造されるEVバッテリーの税控除対象に含まれるようになりました。

この政策効果を受けて、米国エネルギー省(DOE)はオーストラリア政府と「重要鉱物供給協定」を締結。共同投資を通じて、豪州内の精製プラント建設や技術開発を支援しています。
一方で、日本との関係も戦略的に深化しています。日本は長年、オーストラリアからのエネルギー・資源輸入国として最も重要なパートナーの一つでしたが、近年では化石燃料にとどまらず、リチウム・水素・レアアースなど新分野での協業が進んでいます。

協力枠組み・事例内容主な目的
日豪資源協力パートナーシップ(J-A CMP)リチウム・レアアースの共同開発支援サプライチェーンの多角化
Quad鉱物安全保障ワーキンググループ重要鉱物の共同備蓄と透明性確保供給網の安定化
日米豪共同投資スキーム採掘・精製設備への共同資金提供ESG基準対応・技術移転
米豪重要鉱物協定(2024年)精製・加工の現地化推進IRA対応・脱中国依存

こうした国際的枠組みにより、オーストラリアは単なる「原料供給国」から、「信頼される資源パートナー」へと立場を強化しています。

中国依存からの脱却と多角化戦略

オーストラリアの資源外交を語る上で欠かせないのが、中国との関係見直しです。2010年代後半まで、同国の資源輸出の大部分は中国市場向けでした。しかし、2020年以降の対立激化(通信・防衛分野の摩擦など)を機に、オーストラリア政府は経済安全保障を最優先課題に位置づけました。

資源面では、中国に代わる新たな輸出先としてインド・ASEAN・欧州連合(EU)との協力が進んでいます。
インドとの間では「重要鉱物協力覚書」を締結し、リチウム供給契約を拡大。EUとは豪EU自由貿易協定(A-EU FTA)を通じ、資源・気候・デジタルの三分野で包括的連携を推進しています。これにより、オーストラリアは供給先の多様化と価格交渉力の強化を同時に実現しつつあります。

さらに、オーストラリア政府は「資源外交の可視化」を進めています。
具体的には、外交官の派遣や現地開発支援を通じて、アフリカ・南米などの資源国とのネットワークも強化し、鉱物の相互供給体制を模索しています。こうした国際的取り組みは、脱炭素社会における鉱物確保競争において、豪州がリーダーシップを維持するための布石となっています。

レアアースをめぐる国際的な輸出規制や供給網の再編も、オーストラリアの資源戦略に大きな影響を与えています。
世界各国の規制動向や貿易の実態については、以下の記事で詳しく整理しています。

このように、オーストラリアは資源を通じて「経済的同盟」を構築する国家戦略を明確化しています。
資源の安定供給はエネルギー転換の土台であり、その管理はもはや外交政策そのものです。日米を中心とした協力関係の深化により、オーストラリアは資源安全保障の要として世界経済の中で重要なポジションを確立しつつあります。

オーストラリア資源開発の課題と今後の方向性

豊富な資源を背景に国際的な存在感を高めているオーストラリアですが、その裏側では複数の課題も浮かび上がっています。
環境保護や地域社会との共存、インフラ整備の遅れ、さらには人材不足といった構造的問題は、資源大国としての成長を維持する上で避けて通れないテーマです。これらの課題にどう対応し、持続可能な資源開発を実現していくかが、今後の戦略の鍵となっています。

環境・社会的課題(ESGの視点)

まず大きな課題として挙げられるのが、環境負荷と社会的影響への対応です。
資源採掘は地域経済を潤す一方で、生態系破壊や温室効果ガス排出の原因ともなり得ます。特に石炭や天然ガスなど化石燃料分野では、国際的な批判も強く、カーボンニュートラルに向けたプレッシャーが高まっています。

2020年に世界的議論を呼んだ「ジュカン渓谷事件」は、こうした課題を象徴する出来事でした。鉄鉱石採掘の過程で、先住民アボリジニの聖地である遺跡が破壊され、社会的批判が集中したのです。この事件をきっかけに、鉱山開発における「先住民との合意形成」や「文化遺産保護」の重要性が再認識されました。

近年では、政府と企業の双方がESG(環境・社会・ガバナンス)基準への対応を強化しています。
採掘時の水使用量の削減、森林破壊の抑制、再エネ電力の利用などが義務化・指標化され、外資系投資ファンドもESG要件を満たすプロジェクトにのみ出資する傾向が強まっています。
その結果、「環境負荷を抑えたクリーンマイニング」の実現が新たな競争軸となりつつあります。

課題領域主な内容改善に向けた動き
環境保護CO₂排出、水資源の過剰利用再エネ利用義務化、カーボンクレジット導入
先住民権利土地利用・文化保護コンサルテーション制度の強化
地域社会労働安全、教育支援企業による地域雇用・CSR拡大
投資倫理ESG格付け対応鉱山開発報告の透明性強化

こうした取り組みは短期的にはコスト増を招きますが、長期的には国際市場での信頼性向上につながっています。
実際に、ESG適合型プロジェクトは国際金融機関からの資金調達が容易になり、投資リスクが低下する傾向が見られます。

技術革新と投資環境の変化

オーストラリアの鉱業界では、デジタル化・自動化の波が急速に進んでいます。
大手鉱山会社BHPやRio Tintoは、AIやIoTを活用した「自律走行ダンプトラック」や「遠隔操業センター」を導入し、操業効率を飛躍的に高めています。これにより、労働力不足の解消と安全性の向上が同時に実現しています。
また、採掘工程でのエネルギー最適化や排出削減を図る「スマートマイニング」技術が普及しつつあり、データ解析に基づいた精密操業が可能になっています。

投資環境においても、鉱山開発の重点が「環境負荷の低い資源」へとシフトしています。
リチウム・コバルト・ニッケルといった脱炭素関連鉱物への投資は年々増加し、2025年時点で資源開発投資全体の約40%を占めるまでに拡大しました。
これらは、世界的なEV・再エネ需要を背景にした“グリーン鉱業ブーム”ともいえる現象です。

加えて、オーストラリア政府はベンチャー企業や大学との連携を強化し、リサイクル資源技術や二酸化炭素回収(CCS)技術の開発支援を進めています。こうした官民連携は、環境対応と産業競争力を両立させる「次世代資源国家モデル」を形づくる動きともいえるでしょう。

今後の方向性として、オーストラリアは「採掘から循環へ」という考え方をより強めていくとみられます。

資源を単に掘り出して売るだけでなく、リサイクルや再利用を組み込んだサプライチェーンを構築し、国内産業としての付加価値を最大化する方向へと進むでしょう。
また、資源ナショナリズムの高まりを背景に、自国資源を戦略的に管理し、国家安全保障と環境保全を両立させるバランス感覚が求められています。

このように、オーストラリアの資源開発は量的拡大から質的転換の時代へと移行しています。
環境対応・技術革新・国際協調の3つの要素をどのように組み合わせるかが、次世代の資源戦略を決定づける要因となるでしょう。

まとめ

2025年のオーストラリアは、資源輸出国から「戦略的資源国家」へと転換を進めています。
リチウムやレアアースなどの重要鉱物を中心に、脱炭素化と経済安全保障を両立させる政策を展開し、世界のクリーンエネルギー供給網で欠かせない存在となりました。

同国の資源戦略は、①脱炭素型産業の育成、②サプライチェーンの多国間連携、③持続可能な開発の推進という三本柱で構成されています。
環境負荷を抑えつつ、再エネや水素との融合を進める姿勢は、他国の資源政策にも影響を与えています。

今後、資源は単なる経済財ではなく、地政学と産業競争力を左右する戦略要素として位置づけられるでしょう。
日本企業にとっても、オーストラリアとの連携は安定供給と脱炭素技術の両面で重要な機会となります。
オーストラリア資源戦略2025は、持続可能な世界経済を築くための新たな指針を示しているといえます。

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