海外展開を目指す和菓子メーカーにとって、「どの和菓子が海外で人気なのか」「なぜ売れているのか」という問いは避けて通れません。輸出制度や販路の話は一通り理解していても、いざ商品を開発・展開しようとすると、「海外でウケる商品設計とは何か」「どこを変えれば受け入れられるのか」といった判断が難しいという声が多く聞かれます。
本記事では、和菓子が海外でヒットする背景にある味覚の傾向、文化的価値観、そしてブランディング戦略に焦点を当て、実際の事例を交えながら成功要因を整理します。輸出・開発を担当する実務者の方が「次に何をつくるか」を考える際の判断材料としてお役立てください。
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海外市場で人気を集める和菓子の味と食感とは

和菓子が海外で注目される理由は多岐にわたりますが、第一に問われるのは「味覚としての受容性」です。単に“美味しい”ではなく、どのような甘さ・食感・香りが好まれるのかを把握することが不可欠です。
甘さの感覚は国によって異なる
日本の和菓子は、甘さ控えめで素材の風味を引き立てるのが特徴ですが、海外ではその「控えめさ」が必ずしも好まれるとは限りません。
アメリカや中東では、菓子=しっかり甘いものという前提が強く、「味がぼんやりしている」と受け取られることもあります。一方、フランスやドイツでは、過剰な甘さを避ける傾向にあり、「洗練された上品な甘さ」として評価されるケースもあります。
また、甘さの「質」も重視されます。たとえば、蜂蜜や黒糖など自然由来の甘味は、健康志向の高い層に好まれやすく、原材料表示やストーリー性と組み合わせることで商品価値が高まります。反対に、白砂糖の甘さが前面に出る商品は、国によっては「人工的」「子ども向け」といった印象を与えることもあるため、ターゲット層に合わせた設計が求められます。
こうした感覚差を把握するには、単なる試食会や展示会での反応だけでなく、現地のスーパーマーケットや人気菓子ブランドの商品構成を調査し、「現地の“甘さの基準値”」を意識した商品設計に活かすことが実務的に有効です。
食感の好みに関する文化的背景
和菓子の魅力のひとつである「食感」は、海外市場においてはしばしば評価を分ける要素となります。
日本国内で人気のある「もちもち」や「ぷるぷる」といった弾力・粘りのある食感は、アジア諸国では馴染みが深く、特に大福やわらび餅は高い支持を得ています。一方で、欧米圏ではこのような食感に対して「未調理」「生っぽい」といったネガティブな反応を示す層もあり、浸透には工夫が必要です。
対照的に、「カリッ」「さくっ」「しっとり」といった食感は、焼き菓子文化のある国々では親和性が高く、どら焼きやカステラ風の和洋折衷商品が評価されやすい傾向にあります。
以下の表は、各地域における一般的な食感の嗜好と、それに対応する和菓子の例を示しています。新商品の開発や現地仕様の調整に際し、ターゲット市場の好みを把握する材料として活用いただけます。
| 地域 | 好まれる食感 | 受容されやすい和菓子例 |
|---|---|---|
| アジア(台湾・香港) | もちもち/ぷるぷる | 大福・白玉・わらび餅 |
| 欧米(米・仏・独) | しっとり/さくさく | どら焼き・最中・焼きまんじゅう |
| 中東(UAE・サウジなど) | ねっとり/濃厚 | 羊羹・あんペースト・黒ごま菓子 |
このような嗜好の違いを理解したうえで、「現地受けする食感×和の素材」の掛け合わせによる商品設計や、食べ方提案の工夫(例:冷やす・温める・トッピング提案など)を通じて、和菓子の魅力をより受け入れられやすい形で伝えることが可能になります。
海外で和菓子が支持される背景には、単なる味の好みだけでなく、文化や生活様式への親和性があります。現地の嗜好や価値観に合わせた設計こそが、海外市場で成功する鍵です。
「味×ストーリー」の組み合わせが支持される理由
海外市場においては、「どんな味か」だけでなく、「どんな背景を持つか」が購買の決め手となることが少なくありません。特に和菓子のように見慣れない商品カテゴリーでは、ストーリーが“文脈”となり、消費者の理解と関心を深める役割を果たします。
たとえば、茶道とともに楽しまれる和菓子や、季節や行事を表現した意匠、職人の手仕事による製造背景などは、SNSや現地メディアを通じて高く評価される傾向があります。特に「Why(なぜこの形なのか/なぜこの味なのか)」が明確な商品は、単なるスイーツではなく、文化体験として受け止められやすくなります。
また、背景ストーリーはパッケージやECサイト上でのブランド表現にも応用でき、実際に欧州の一部セレクトショップでは、「○○地方の伝統行事に由来」「100年以上続く製法」などの説明が添えられた和菓子が、ギフト用として高単価でも選ばれる事例が出ています。輸出を見据える際には、味覚の開発だけでなく、“語れる要素”を意識した商品設計が有効です。
文化背景から見る和菓子の海外での人気と広がり方

和菓子は単なる食品ではなく、文化的価値や贈答習慣といった生活スタイルとも強く結びついています。味に加えて、文化的コンテキストの理解と適応力が、現地での広がりを左右します。
宗教・成分規制と素材選びの工夫
海外展開を進めるうえで、宗教や文化による食の禁忌は無視できません。
特にイスラム圏では、豚由来ゼラチンやアルコール(酒粕、みりん風調味料など)に対して高い敏感性があり、ハラール認証や成分証明の提出を求められることもあります。和菓子に使用されがちな寒天やゼラチンの原料は、宗教的背景を踏まえて植物性で代替できるかどうかの検討が欠かせません。
一方、欧州ではヴィーガン・ベジタリアン対応が重視されており、乳・卵・ゼラチンなど動物性成分の不使用を明記することで販路拡大につながるケースがあります。とくに英国やドイツ、北欧諸国では、食品ラベルに「VEGAN」「PLANT-BASED」などの表示があることで、棚取りが有利になる事例も報告されています。
商品開発の初期段階で各国の規制や文化背景を調査し、素材の代替候補や認証取得の有無を判断材料に組み込むことが、後工程での手戻りを防ぐ鍵です。輸出国に応じて、1商品に複数仕様(例:通常品/ハラール対応品/ヴィーガン仕様)を用意する選択肢も現実的になりつつあります。
イスラム市場へのアプローチやハラール認証の実践戦略については、以下の記事でも詳しく紹介しています。

贈答文化が和菓子に求める役割とは
台湾・香港・シンガポールなど中華圏では、旧正月や中秋節、ビジネスシーンでの贈答文化が根強く、見た目に高級感のある菓子はギフト需要の定番です。包装の美しさやストーリー性を兼ね備えた和菓子は「高品質な日本製品」として認識されやすく、贈答ニーズに応える商品として選ばれています。
神奈川県・川崎大師の「大谷堂」は、わらび餅の輸出に際してこの文化的背景に着目。2018年に台湾で開催された食品展示会「Food Taipei」に出展し、高級スーパーや現地レストランとの商談を通じて販路を拡大しました。
現地で人気が高い抹茶・黒蜜・きな粉といったフレーバー展開や、試食・説明付きの丁寧なプレゼンによって、現地バイヤーの信頼を獲得しています。
特に注目すべきは、見た目と価格帯を「贈り物として成立するレベル」に最適化した点です。包装に和紙や金箔を使用するなど、“贈って恥ずかしくない日本ブランド”としての体裁を整えたことが、百貨店・セレクトショップでの取り扱いにつながりました。
贈答シーンを前提に設計されたパッケージと、商品ストーリーが調和していることが、ギフト市場で評価される要因となっています。
和菓子を“日常スイーツ”に変える市場戦略
和菓子は海外ではしばしば「高級・贈答用」のイメージが先行しがちですが、市場によっては「日常的に購入できるスイーツ」として再定義することで販路を広げることが可能です。特に北米・欧州などでは、和菓子を「家庭用おやつ」として定着させる動きが出ています。
実際に、アメリカでは日系スーパーだけでなく、大手グローサリーEC(例:Amazon、Yamibuyなど)でもどら焼きや羊羹が常温保存品として日常消費されています。
ポイントは、価格帯を抑えすぎずプチ贅沢に設定しつつ、1個売りやミニパック化によって「試しやすさ」を持たせること。また、パッケージには英語の説明・レシピ提案などを加えることで、現地消費者に用途イメージを具体化させる工夫も有効です。
ブランド側は「特別感」ではなく、「安心して何度も食べられるもの」として訴求軸を調整する必要があります。たとえば、グルテンフリー・植物由来・低カロリーといったヘルス要素を前面に出し、和菓子を「ウェルネススイーツ」として再構成することで、日常的な購買理由を強化できます。
人気ブランドが実践する和菓子の海外発信術

海外で継続的に成果を上げている和菓子ブランドには、「ブランディング」の強さがあります。味覚だけではなく、視覚的な魅力や背景にある物語性、社会的価値への訴求などが、人気の下支えとなっています。
視覚的魅力が選ばれる第一歩に
ビジュアル重視の消費行動が主流となっている現代において、和菓子の「見た目の美しさ」は、海外市場でも購買を左右する重要な要素です。特にInstagramやTikTokといったSNSでは、パッケージや断面、色彩の美しさがシェア・保存の動機になります。
たとえば、桜色・抹茶色・金箔のトッピング・和紙の個包装など、視覚的に「日本らしさ」と「高級感」を伝えるデザインは、百貨店やギフト需要にも対応可能です。これは単なる装飾ではなく、現地バイヤーにとって「売り場映えするか」「ギフト棚で映えるか」という実利にも直結する判断材料になります。
実務面では、輸出先の小売チャネル(百貨店・セレクトショップ・ECなど)に応じて、パッケージの色調・文字表記・質感を調整することが有効です。特に欧米では、「ギフト=高級=シンプルかつ洗練されたデザイン」という認識も強いため、国内仕様そのままではなく、現地の美的基準との接点を意識したローカライズが必要です。
ブランドの背景にあるストーリーが共感を呼ぶ
和菓子の価値は、味覚や見た目だけでなく、背景にある「物語」によっても大きく左右されます。
神奈川県の和菓子ブランド「大谷堂」は、「本物のわらび餅文化を次世代と世界に伝える」という明確なビジョンのもと、単なる製品輸出ではなく、文化の継承と発信を重視したブランディングを展開しています。
同社は山梨県に自社農園を開設し、希少な本わらび粉の原料であるわらびの根を自ら栽培。飛騨地方で受け継がれてきた伝統的な製法を学び、素材から製造工程までを自社で完結できる体制を構築しました。この取り組み自体が「ブランドの核」となり、商品にストーリー性と説得力を与えています。
また、同社は「ichi(いち)」という新ブランドを立ち上げ、海外市場向けにパッケージやウェブサイトを再設計。さらにクラウドファンディングを活用し、消費者とブランドが共創するスタイルを採用しています。こうしたストーリーの発信は、単に製品を売るだけでなく、ブランドとしての「世界観」を共有するための重要な接点になっています。
| ブランド要素 | 具体的表現 | 効果 |
|---|---|---|
| 美的価値 | 和紙包装・金箔・抹茶色 | SNS拡散やギフト用途に適応 |
| 文化背景 | 茶道・四季・職人技 | 海外での“日本らしさ”訴求 |
| サステナビリティ | 国産素材・自社農園・伝統製法 | 高価格帯・価値重視層への訴求 |
「和らしさ」と現地対応のバランス感覚
海外市場で和菓子を展開する際には、「日本らしさをどこまで残すか」「どこまで現地の嗜好に合わせるか」というバランスが常に問われます。伝統性を前面に押し出すだけでは、「見慣れない」「味の想像がつかない」といった理由で手に取られないケースもあります。
たとえば、抹茶やあんこは海外で一定の認知を得ている一方で、特有の苦味や風味が好みの分かれ目になることがあります。そうした場合、マンゴーやベリー系のフルーツフレーバー、あるいはバターやナッツなど親しみやすい素材を活用したアレンジが有効です。
特に、焼き菓子スタイルの和菓子は、欧米の菓子文化と親和性が高く、導入のハードルを下げる選択肢となります。
「和の本質」を損なうことなく現地に受け入れられるためには、味・形状・ネーミング・食べ方の4点でローカライズの余地を見極めることがポイントです。たとえば、冷たい抹茶羊羹を「抹茶ジェリー」と表現し、カット済み・個包装で提供すれば、手に取りやすさと視覚的訴求を両立できます。
重要なのは、自社の強みやこだわりを軸にしながらも、それをどの角度から伝えるかを柔軟に調整する視点です。伝統を守ることと、市場に届くことは対立せず、むしろ両立する設計が求められます。
人気拡大を狙う和菓子の海外戦略と開発視点

ヒット商品を生み出すには、戦略的な商品開発・市場選定・素材活用が求められます。「いま売れているもの」ではなく、「次に売れるもの」を生み出す視点が重要です。
現地テストマーケティングから逆算する開発
海外展開では、現地の消費者が何に価値を感じるかを確かめるテストの場を早期に持つことが、商品開発の成否を左右します。
神奈川県の和菓子専門店・大谷堂は、台湾での展示会「Food Taipei」への出展をきっかけに、看板商品の「釜揚げわらび餅」に対する高い評価を得ました。その反応を踏まえ、大谷堂は現地の流通事情や消費者ニーズに応じて、冷凍保存が可能な仕様へと改良。また、衛生面や持ち運びやすさを考慮し、1個ずつの個包装タイプを導入しました。
こうした調整は単なるアレンジではなく、現地で売ることを前提とした「逆算型の商品設計」の好例と言えます。
重要なのは、初期段階で大量生産に踏み切らず、小ロットで現地の反応を検証しながら、味・形状・パッケージなどを段階的にブラッシュアップしていく姿勢です。こうしたプロセスは、過剰在庫のリスクを抑えながら、商品を実際の市場に“合わせ込んでいく”実践的なアプローチとして、多くの中小事業者にとっても再現可能です。
展示会やテスト販売で得られる現地の声は、開発チームにとって貴重な一次情報です。バイヤーや消費者との対話を通じて、価格帯・賞味期限・輸送条件などのニーズを丁寧に拾い上げ、「売れる形」に調整していくプロセスが、海外市場での商品定着を実現します。
より具体的に和菓子輸出の成功事例や注意点を知りたい方は、以下の記事もおすすめです。

未開拓ニッチ市場にこそ機会がある
和菓子の輸出先として定番となっているのは米国・台湾・香港などですが、今後は中東・北欧・アフリカといったニッチだが競合が少ない市場に可能性を見出す動きが広がっています。特にこれらの地域では、価格帯の自由度が高く、文化的背景に合わせたポジショニングが取りやすいという利点があります。
たとえばイスラム市場では、ゼラチン・アルコールを使わない「ハラール準拠の植物性羊羹」や、「デーツ入りあんこ」など現地食材を取り入れたアレンジが注目されつつあります。また、アフリカ諸国では富裕層をターゲットにしたギフト需要に対応できる高級感ある和菓子が好まれる傾向があります。
北欧では、環境配慮やオーガニック志向が強く、伝統的な製法や素材ストーリーを重視する市場性があります。こうした文脈では、「和菓子=ヘルシーで自然な菓子」として認知を広げる余地が大きく、地場スーパーやエシカル系セレクトショップを起点とした販路開拓が効果的です。
未開拓市場は、輸出制度・物流・言語などの面で難易度もありますが、競合の少なさを活かせば、ブランド価値や価格面での優位性を築きやすいのが特徴です。市場参入を検討する際には、既存国での成功事例をそのまま横展開するのではなく、その国ならではの食文化や価値観を起点に、和菓子の意味づけを再構成する視点が求められます。
抹茶の次を狙う和素材の可能性
「抹茶」は和素材の代表格として世界各国で定着し、菓子・飲料・アイスなど幅広いカテゴリに浸透しています。しかしその反面、競合商品が飽和しつつあり、差別化の難しさも指摘されています。
そこで注目されているのが、“抹茶の次”となる素材の発掘と育成です。具体的には、「黒ごま」「ほうじ茶」「ゆず」「わらび粉」などが有望とされており、それぞれ異なる市場価値を持ちます。
たとえば、黒ごまは「香ばしさ」と「栄養価」の訴求ができ、欧米のナッツ系スイーツとの親和性が高い素材です。ほうじ茶はカフェインが少ない点が評価され、ゆずは香りを活かしたフレーバーとして、洋菓子や清涼飲料に応用が広がっています。
また、わらび粉を活かした商品は、グルテンフリーや透明感のある食感が特徴となり、他国製スイーツにはない独自性を演出できます。神奈川県の大谷堂では、わらび餅に「マンゴー」「パイナップル」などのフルーツフレーバーを組み合わせたり、タピオカの代替として「飲むわらび餅」という新ジャンルを開発。
こうした柔軟なアレンジは、現地ニーズに応えるだけでなく、新たな需要の掘り起こしにもつながっています。
素材選定の際は、「健康志向に合うか」「他素材と組み合わせやすいか」「既存の市場に対して独自性を出せるか」といった観点で評価を行うことが重要です。将来性のある和素材は、単体で売るのではなく、「物語や食べ方ごと輸出する」視点で戦略を立てることで、ブランド価値の創出にもつながります。
まとめ
和菓子が海外で人気を得るためには、味覚・食感だけでなく、文化的な受容性、視覚表現、そして商品に込められたストーリーが鍵となります。実際に成功している企業は、単なる輸出にとどまらず、文化翻訳者としての視点を持って、現地に響く和菓子を生み出しています。
次の一手を考える際は、現地の消費行動を丁寧に観察し、自社の「こだわり」がどの価値に結びつくのかを見極めることが重要です。そして、判断に迷ったときには、輸出・商品開発の専門家に一度相談してみることをおすすめします。
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