【徹底解説】貿易現場で使えるサプライチェーン攻撃の対策術

サプライチェーン攻撃は、サイバー攻撃の中でも企業の“外部とのつながり”を突く巧妙な手口として、近年ますます注目されています。特に製造業や貿易業では、日常的に外部パートナーと連携しながら業務を進めているため、攻撃者にとっては格好の標的となり得ます。

本記事では、サプライチェーン攻撃の基本的な仕組み、代表的な手口、実際の被害事例、そして企業が取るべき具体的な対策についてわかりやすく解説します。

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サプライチェーン攻撃とは

サプライチェーン攻撃とは、企業の業務委託先、取引先、ソフトウェアベンダーなど、直接の標的ではない外部組織を足がかりにして、最終的に本来の標的企業に侵入するサイバー攻撃の一種です。攻撃者はあえてセキュリティの手薄な「周辺」から狙うことで、従来の防御の目をかいくぐり、情報流出や業務妨害といった深刻な被害を引き起こします。

サプライチェーン攻撃において攻撃者が狙うのは、標的企業そのものではなく、周辺に存在する相対的にセキュリティの弱いポイントです。つまり、取引先や業務委託先、ソフトウェア開発会社、さらにはクラウドサービスのプロバイダーなど、企業が依存している外部リソースが攻撃対象となります。

これらの外部組織は、標的企業のネットワークやデータにアクセスする権限を持っていることが多く、もしそれらの管理体制に脆弱性があれば、攻撃者は比較的容易にその“橋渡し経路”を通じて侵入できます。近年では、開発環境そのものに侵入し、製品のソースコードやアップデートファイルにマルウェアを仕込むなど、高度で巧妙な攻撃も確認されています。

以下の表では、主に狙われる代表的な攻撃対象と、その理由を整理しています。

攻撃対象説明
業務委託先セキュリティが脆弱なIT業者・物流業者など。システム保守や外部アクセス権限があるため、侵入経路になりやすい。
サードパーティソフト広く利用されている業務アプリケーションやクラウドサービスに潜む脆弱性を狙い、バックドアを設置されるリスクがある。
開発環境アプリケーションのソースコードや更新ファイルにマルウェアを仕込むことで、ユーザー企業にまで感染が拡大する。

とくに注意が必要なのは、「信頼しているから」と確認を怠りがちな外部パートナーです。信頼関係とセキュリティ確保は別の問題であり、どんなに長年の取引先であっても、セキュリティ基準や管理体制の定期的な見直しは欠かせません。

サプライチェーン攻撃は外部パートナーを経由して侵入されるため、利便性と効率性の一方で脆弱性を抱えやすい特徴があります。取引の広がりは成長機会をもたらしますが、管理が不十分だと情報流出や信用失墜に直結するリスクがあります。

製造業・貿易業が標的になる理由

製造業や貿易業は、多層的なサプライチェーンを持ち、日々の業務で国内外の多数の外部パートナーと情報をやり取りしています。部品調達では複数のサプライヤーからの仕入れが発生し、物流ではフォワーダーや倉庫業者、通関業者との連携が必要です。

さらに、輸出入や多国籍展開を行う企業では、現地法人や販売代理店とのやり取りも欠かせません。こうした広範な連携はビジネスに不可欠ですが、情報共有の範囲が広がることで、管理が行き届かない領域が生まれやすくなります

特に海外との取引では、言語や法制度の違いによって、セキュリティポリシーやリスク認識にギャップが生じやすくなります。たとえば欧州では、GDPRにより個人情報保護が厳格に定められていますが、同水準の対策がすべての国に求められているわけではありません。こうした違いが、攻撃者にとって“侵入の隙”となり得るのです。

被害の具体例

実際に報告されている被害事例をもとに、どのようなリスクがあるのかを以下に整理しました。これらは氷山の一角に過ぎませんが、いずれも企業の信用や取引の継続に直結する重大な影響をもたらします。

リスクの内容具体例
書類改ざんインボイスやB/L(船荷証券)の電子データが改ざんされ、L/C(信用状)が条件を満たさず、決済トラブルに発展
生産停止サプライヤーの制御ネットワークがマルウェア感染し、生産ラインが数日間ストップ。納期遅延とキャンセルが発生
顧客情報流出通関業者のシステムから海外顧客の連絡先や商談情報が漏洩し、重大な信用損失を招いた

こうした被害は、単なるシステム障害にとどまらず、取引継続の信頼性にも関わります。特に国際取引では、「信用」が通貨のように重要視されるため、わずかな情報漏洩や業務停止でも、ビジネスの継続性が大きく揺らぐ可能性があります。

さらに、サイバー被害によるトラブルが顧客に直接影響を与える場合、企業は損害賠償責任を問われるリスクもあります。訴訟や制裁措置に発展すれば、被害額は金銭的な損失にとどまらず、ブランド価値の毀損や市場からの信頼失墜といった長期的な影響も避けられません。

サプライチェーン攻撃への対応が難しい理由

サプライチェーン攻撃は、自社の対策だけでは防ぎきれない現実的な脅威です。多くの外部企業と関わる貿易・製造業にとって、管理の抜け漏れがリスクになります。取引先の規模や地域によってセキュリティレベルに差が生じやすく、それが攻撃者の狙いどころになります。

こうした背景から、企業の対応が難しくなる具体的な理由を見ていきましょう。

セキュリティ管理の限界

サプライチェーン全体のセキュリティを確保するには、自社だけでなく、すべての委託先や外部ベンダーの体制を把握し、一定の基準で管理する必要があります。しかし現実には、すべての関係者に対して同等の管理体制を築くのは容易ではありません。

特に中小企業や体制が未整備な企業では、専任の担当者が不在だったり、予算が限られていたりと、対策を講じたくても難しい状況が多く見られます。また、最新のサイバー攻撃に関する情報が共有されておらず、対応が後手に回るケースも少なくありません。

こうした現状を踏まえ、企業が直面しやすい主な課題を以下にまとめました。

課題内容
人材不足セキュリティの専門知識を持つ人材がいない。育成や採用も難しい。
契約の曖昧さ委託先とセキュリティ責任の分担が契約上不明確で、トラブル時の対応が困難。
システムの属人化担当者の個人的な知識や運用に依存し、全体像を把握しにくい。

こうした課題は、単なる“人的な問題”ではなく、セキュリティリスクそのものを拡大させる要因になります。外部とのつながりが多い企業ほど、あらゆる情報資産へのアクセスが広がるため、社内外を横断した統一的なセキュリティマネジメントが求められます。

 

社内の横断的連携が不足

多くの企業では、セキュリティ対策は情報システム部門に一任されがちです。しかし、サプライチェーン攻撃はITシステムだけで完結する問題ではありません。たとえば、調達部門が契約先のセキュリティ基準を確認せず発注を進めたり、営業部門が不審な添付ファイルを開封してしまったりするなど、非IT部門の行動が重大なインシデントにつながることもあります。

また、組織が大きくなるほど、部門間の連携や情報共有が希薄になりやすく、リスク管理の視点でも“盲点”が生まれやすくなります。対策の有効性を高めるためには、全社的な視点でセキュリティを位置づけ、部門をまたいだ協力体制を構築することが不可欠です。

  • 全社的なセキュリティポリシーの策定と周知徹底
  • 役員層が主体となった意思決定と予算の確保
  • 調達・営業・物流など各部門との情報共有と連携の強化

これらの取り組みは一朝一夕には整いませんが、「自社だけ守ればよい」という従来の発想から脱却し、サプライチェーン全体を見渡す“俯瞰的な視点”を持つことが、被害の抑止や早期発見につながります。

サプライチェーン攻撃への現実的な対策

サプライチェーン攻撃は、複数の関係先を経由して行われるため、自社だけで対処しきれないケースが多く見られます。そのため、実効性のある対策には、現場に即した現実的な手段と連携体制の整備が求められます。

ここでは、企業が取り組みやすい現実的な対策の方向性を整理します。

基本対策と外部の活用

サプライチェーン攻撃への対策には、技術的な仕組みと組織的な取り組みの両面からアプローチする必要があります。企業単体での防御には限界があるため、取引先や委託先、社内の各部門と連携しながら、リスクを最小化する「仕組み」をつくることが重要です。

とくに注目されているのが、ゼロトラスト・セキュリティの概念です。これは「誰も信用しないことを前提に、すべてのアクセスを検証する」考え方で、サプライチェーン構造においても非常に有効です。加えて、社内アカウントへの多要素認証(MFA)や、通信経路の暗号化、アクセス権限の定期的な見直しなども、現実的な初期ステップとして効果的です。

以下の表では、サプライチェーン攻撃に対する代表的な目的別対策を整理しています。

目的対策
侵入防止ゼロトラストの導入、MFA設定、VPNや通信の暗号化による外部からの不正アクセス排除
内部防御最小権限の原則に基づいたアクセス設計、ログの自動監視と定期的な棚卸で内部不正を防止
教育と意識向上従業員向けセキュリティ研修、フィッシング攻撃を模した訓練の定期的実施

こうした取り組みをすべて自社だけで網羅するのは難しいため、必要に応じて外部サービスや専門家の支援を受けることも有効です。たとえば、セキュリティ監査、ログ監視サービス、脆弱性診断、教育コンテンツの提供など、多様な支援手段が用意されています。

外部の視点を取り入れることで、思わぬ盲点や改善余地が見つかることも多く、限られたリソースで最大限の効果を得るためには積極的な活用が望まれます。

 

契約面での整備も重要

サプライチェーン全体のセキュリティを担保するには、委託先・外注先との契約内容にも踏み込む必要があります。単なる業務委託契約ではなく、情報セキュリティに関する責任や報告義務、対応体制の明記が求められます。

また、取引開始前の段階でリスク評価を行うことも重要です。たとえば、セキュリティ体制の自己評価シートや、簡易的なヒアリングチェックリストを使うことで、基本的なリスク有無を把握できます。

チェック項目確認内容
セキュリティ方針文書化された情報管理方針があり、全社に共有・運用されているか
過去の被害歴サイバーインシデントの経験があり、再発防止策が取られているか
対策実施状況アクセス制御、ウイルス対策、パッチ適用などの基本対策が定常的に実施されているか

こうした契約・評価の仕組みをルールとして組み込むことで、「後から問題が起きてから慌てる」リスクを減らすことができます。セキュリティは一過性のプロジェクトではなく、継続的なマネジメントの一環として捉えることが求められます。

まとめ

サプライチェーン攻撃は、自社の直接的な対策だけでは防ぎきれない現実的な脅威です。特に製造業や貿易業のように多くの外部パートナーと連携する業種では、攻撃者にとって“侵入の隙”が生まれやすく、狙われやすい構造にあります。

こうしたリスクに備えるためには、ゼロトラストや多要素認証といった技術的な防御に加え、契約内容の見直しや社内教育など、組織的・人的な対策も欠かせません。全体のバランスをとりながら継続的に体制を強化していくことが、被害の最小化につながります。

セキュリティ環境が複雑化する中、自社だけで対応しきれないケースも少なくありません。そうした場合は、サイバーリスクに詳しい専門家に一度相談してみることをおすすめします

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