トランプ大統領のアメリカ・ファースト政策が国際貿易に与える影響とは?

「アメリカ・ファースト(America First)」というスローガンを、再び耳にする機会が増えています。2025年、トランプ前大統領の政権復帰によって、この方針はさらに強化され、国際社会に大きな波紋を投げかけています。

特に注目されるのが、関税政策や貿易交渉の見直しといった「実務面」での影響です。

本記事では、アメリカ・ファーストの貿易政策がもたらす変化を最新の動向とともに解説し、日本の中小企業が取るべき対応策について具体的にご紹介します。

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アメリカ・ファーストとは何か?その理念と貿易政策への影響

「アメリカ・ファースト(America First)」は、トランプ大統領が掲げる政治スローガンのひとつです。意味はシンプルで、「アメリカの国益を最優先にする」という考え方を指します。これは単なるスローガンではなく、関税政策や外交方針など、実際の貿易政策に深く結びついています。

歴史的な背景と現在の位置づけ

「アメリカ・ファースト」という言葉は、実は1930年代から使われてきました。当時は外国の戦争に関与しないという「孤立主義」の意味合いが強かったのですが、現代では少し異なります。

現在のアメリカ・ファーストは、経済と雇用を守るために、海外との取引に厳しい条件を設ける政策を意味しています。特にトランプ大統領は、この考え方を貿易戦略の中心に据えています。

2025年の政権復帰後、彼のアメリカ・ファーストはさらに強化され、「関税の引き上げ」や「二国間交渉の重視」といった政策が次々と打ち出されました。

どんな方針に基づいているのか?

アメリカ・ファーストの基本方針は、以下のように整理できます。

方針 内容
雇用を国内に戻す 海外への工場移転を防ぎ、国内雇用を確保
輸入に高い関税をかける 外国製品を高くして、米国製品を売りやすくする
赤字を減らす 特定の国との貿易赤字を是正しようとする
国際機関より自国優先 WTOよりも、自国の判断を優先する

つまり、「アメリカの利益にならない取引は見直す」という立場です。

2025年版アメリカ・ファーストの特徴

トランプ大統領は、再登板後すぐに「America First Trade Policy(アメリカ・ファースト貿易政策)」を発表しました。これにより、以下のような措置が実行されています。

・すべての輸入品に一律10%の関税(2025年6月:「Liberation Day」関税)

・中国やインドなどには追加で30〜100%の高関税

・米国内製造を促進するための補助金制度の強化

・貿易交渉をWTO経由ではなく、国単位で直接行う方針

これにより、アメリカは貿易の主導権を他国や国際機関に委ねず、自国の判断でルールを決めていく姿勢を強めています。

このように、「アメリカ・ファースト」は単なる政治的スローガンではなく、実際の貿易ルールを根底から見直す動きにつながっています。日本を含む世界各国は、こうしたアメリカの姿勢にどう対応していくかが問われています。

各業界・品目ごとに関税率は大きく異なります。より詳細な品目別の関税動向や実務対策については、以下の記事も参考になります。

アメリカ・ファーストが国際市場に与える3つの影響

アメリカ・ファースト政策は、単なる関税強化にとどまらず、世界の貿易構造や市場のダイナミズムに大きな変化を引き起こしています。

ここでは、2025年現在の影響を「3つの主要な変化」として整理し、それぞれの実態を読み解いていきます。

1. 関税収入の増加と物価安定という“非典型的な反応”

2025年上半期、アメリカ政府の関税収入はすでに1,270億ドルを突破しています。これは「Liberation Day」以降の大規模な関税強化が財政収入に直結していることを示しており、短期的には貿易赤字の縮小や財政補填という側面で一定の成果を上げているといえます。

しかし、注目すべきは、こうした大幅な関税措置にもかかわらず、消費者物価指数(CPI)が6月時点で前年比+2.7%と、比較的安定している点です。通常であれば、関税は輸入コストの上昇を通じて物価上昇(インフレ)を引き起こすはずです。

それにもかかわらず、物価が抑えられている背景には以下のような要因があります。

・一部製品の国内生産回帰による供給安定

ドル高基調による輸入価格の抑制効果

・消費者側の購買行動の変化(値上げ回避商品へのシフト)

このように、「関税で税収は増えたが、消費物価はそれほど上がっていない」という現象は、一般的な経済理論とはやや異なる動きを見せており、政策評価を難しくしています。

2. 株式市場の警戒感と企業戦略の再構築

関税収入が好調に見える一方で、株式市場はこの動きを必ずしもポジティブには受け取っていません。2025年6月末時点で、S&P500は前月比−1.6%と下落しており、企業業績への影響を懸念する声が広がっています。

特に打撃を受けやすいのは、海外製部品を多く使う製造業や、輸入コストに敏感な小売業です。関税負担の増加は粗利益率の低下を招き、利益圧迫に直結します。実際、多くの上場企業が通期業績見通しの下方修正を発表しており、投資家の警戒感を強めています。

こうした動きに対して企業側は、以下のような対応を急いでいます。

・サプライチェーンの再設計(中国依存からの脱却など)

・海外生産拠点の国内回帰によるリスク低減

・原材料コストの上昇を見越した価格転嫁戦略の強化

つまり、株式市場は短期的な業績数字だけでなく、企業が抱える構造的リスクや対応能力の差を見極めようとしており、トランプ政権の政策次第ではさらなる市場変動が生じる可能性があります。

3. 新興国の「脱アメリカ」戦略と多極化の進行

アメリカ・ファーストの姿勢に対して、各国が黙って従っているわけではありません。とりわけ中国、インド、ブラジルなどの新興国は、アメリカ経済への依存度を引き下げ、自国主導の経済圏形成を目指す戦略を加速させています。

中国は、従来の「製造大国」モデルから「内需主導型+地域連携」へと舵を切り、「相互依存の主権(Sovereignty Interdependence)」という新たな概念を掲げています。これは、「特定国に依存せず、パートナーとの相互補完によって主権と経済安定を両立させる」という考え方です。

同様に、インドでは「Make in India」政策が再び活発化し、自国での製造強化と雇用創出が進められています。さらに、ASEAN諸国ではRCEPや域内FTAの実務活用が進み、アジア内で完結する供給網の構築が始まっています。

こうした動きは、以下のような変化につながっています。

・米国への依存度を下げた地域分散型のサプライチェーン

・米ドル決済以外の通貨取引や新興国間協定の模索

・世界の貿易構造が『米国中心』から『多極化構造』へと移行

つまり、アメリカ・ファーストが引き金となり、「アメリカに依存しない体制づくり」が世界規模で広がっているということです。

このように、アメリカ・ファースト政策の影響は「関税強化」という表面的な事象だけでなく、財政・投資・外交・国際秩序といった広範な分野に波及しています。今後、こうした動きが定着するか、あるいは揺り戻しが起こるのかは、アメリカの次の一手と、各国の対応力にかかっています。

アメリカ・ファーストと日本企業の対応力

トランプ大統領が推進するアメリカ・ファースト政策は、日本企業にとって単なる通商リスクではなく、事業戦略全体の見直しを迫る転換点となっています。これまでの「自由貿易前提のビジネスモデル」が揺らぐ中、特に製造業や輸出依存度の高い企業ほど、その影響は大きくなっています

アメリカ市場への依存が高い主要業種に直接打撃

2025年時点でアメリカは、日本にとって2番目に大きな輸出先です。その中でも特に影響を受けているのが、自動車・電子部品・鉄鋼・アルミ製品などの輸出主力産業です。

これらの製品は、「Liberation Day」関税の対象として最大50%の関税が上乗せされており、製品の価格競争力が一気に低下しました。自動車1台あたりの関税コストだけでも数十万円に及ぶケースもあり、利益率に直撃しています。

さらに、直接アメリカに輸出していない企業にも影響が波及しています。たとえば、中国を経由して部品を輸出している場合、米中対立の影響で間接的に制裁対象となるリスクが生じ、取引停止やルート見直しを迫られるケースが増えています。

このように、日本企業は直接・間接を問わず、アメリカ・ファーストによる貿易障壁の影響を広範囲に受けているのが現状です。

中長期で求められる3つの対応方針

こうした状況を受け、日本政府および多くの企業が対応に乗り出しています。実務的には、次の3つの方向性が重要になります。

対応方針 概要と具体策
① 政策連携の強化 日米FTA再交渉やルール見直しを通じ、
関税軽減や例外措置の確保を目指す。
② 供給網の分散 中国やアメリカへの依存度を下げ、
ASEAN、インド、中南米などの生産・調達拠点を活用する。
③ 新市場の開拓 欧州、中東、アフリカなど、アメリカ外の販路拡大に注力。
越境ECや現地パートナー連携も強化する。

特に②のサプライチェーン再構築については、大企業だけでなく中小企業にとっても喫緊の課題となっています。

従来の「1国集中型」調達は、政治リスクに対して極めて脆弱であることが今回の情勢で明らかになりました。

今後は「複数国分散型」への転換が前提となり、物流コストや為替影響も含めた総合的な視点での再設計が求められます。

中小企業支援策の活用が重要なカギ

政府はこうした変化に対応するため、主に中小企業を対象とした支援制度を強化しています。

たとえば、輸出を新たに開始・拡大する企業に対しては、以下のような施策が利用可能です:

・IT導入補助金(デジタル貿易管理の効率化)

・JAPANブランド育成支援事業(海外展示会・PR支援)

・中小企業基盤整備機構による現地マッチング支援

・越境ECの活用支援や翻訳・ローカライズ支援

これらを活用することで、アメリカ市場のリスクに依存しすぎず、新たな地域・顧客との取引機会を得ることが可能になります。

また、輸出に慣れていない中小企業にとっては、「貿易実務を委託できるサービス」や「ワンストップのクラウド貿易支援」なども有効な選択肢となります(※記事末尾の『おまかせ貿易』セクションで詳しく解説)。

このように、日本企業にとってアメリカ・ファースト政策は、課題であると同時に、新たな販路・経営手法を模索するきっかけともなっています。重要なのは、変化を的確に捉え、政策・補助・外部サービスを柔軟に活用していく対応力です。

中小企業がアメリカ・ファースト時代に取るべき戦略5選

中小企業は、大企業のように資本力や海外ネットワークに恵まれているわけではありません。しかしその一方で、経営判断のスピードと柔軟性という強みがあります。アメリカ・ファースト政策の影響が広がる中、中小企業こそがいち早く戦略転換を図り、新たなチャンスをつかむことが可能です。

ここでは、今取るべき5つの具体的な戦略をわかりやすく解説します。

1. 輸出先を多様化する「脱アメリカ依存」戦略

アメリカ市場が不安定化するなか、従来の一極集中型の輸出モデルから、多地域展開型のモデルへの転換が急務です。特に以下のような新興市場は、今後の成長が見込まれ、商機も広がっています。

ASEAN諸国:日本企業との取引慣行に理解があり、関税協定も充実

中東・アフリカ:建設資材、農機、生活用品などのニーズが急増中

南アジア・中南米:価格より品質重視の傾向があり、日本製品と親和性あり

進出先を広げることで、地政学リスクの分散為替の影響回避も可能となります。

2. デジタルを活用した「小ロット・直販型」の海外展開

従来のように商社や現地代理店を通す輸出スタイルでは、時間もコストもかかります。中小企業にとって有効なのは、クラウド型の貿易支援サービスや越境ECを活用し、小ロット・直販型で海外にアプローチする方法です。

例えば:

・自社サイト+翻訳ツール+越境決済でD2C型展開

・クラウド貿易サービスを使って、書類作成・通関・物流を丸ごと委託

・SNSを活用したインバウンド的プロモーション(Instagram、Xなど)

これにより、スピードとコストのバランスを確保しながら、小規模でも着実な輸出が実現可能になります。

3. 製品の「付加価値」を磨いて価格競争から脱却

米国を含む海外市場では、「価格が安いこと」よりも「信頼できること」に価値を見出す消費者が一定数存在します。中小企業が大手と差別化するには、価格以外の価値軸を明確にすることが重要です。

注目される差別化ポイントの例:

高品質・高耐久性:「日本製」は依然として信頼の象徴

環境対応・サステナビリティ:再生素材の使用、カーボンニュートラル認証など

地域の特性を活かしたストーリー性:伝統技術、地場産業、職人の技

これらを明確に伝えることで、「多少高くても選ばれる製品」としてブランド価値を構築できます。

4. サプライチェーンの再設計によるリスク分散

アメリカ・ファースト政策の本質は「米国以外を通じた取引にも制限をかける」という点にあります。そのため、日本企業にとっても直接輸出だけでなく、間接輸出や調達先のリスクにも注意が必要です。

中小企業に求められるアクション:

・主要原材料や部品の複数国調達への切り替え

・貿易ルートを米中以外に再構成(例:ベトナム→EU)

・ローカルパートナーとの委託生産・OEM化

このように、柔軟で分散型の供給体制に切り替えることで、不測の制裁や関税変更にも対応しやすくなります。

5. 国の支援制度や外部専門家を積極活用

アメリカ・ファーストによる急な環境変化に対応するには、自社単独では限界があるケースも多く、外部の力をうまく活用することがカギになります。

代表的な支援例:

支援内容 実施主体/ポイント
IT導入補助金 貿易管理のクラウド化や
業務効率化ツール導入に活用可能
JETRO(ジェトロ)支援事業 現地マッチング、展示会出展、
販路開拓など
中小企業基盤整備機構の専門家派遣 海外戦略の立案、現地法規制への対応、
パートナー選定支援など

このように、中小企業が取るべき戦略は「資源の限界を補う工夫」と「柔軟な市場対応」に集約されます。アメリカ・ファーストという不確実な環境のなかでも、小回りが利く強みを活かし、スピーディーに対応することが成功への第一歩です。

補助制度とあわせて、アメリカ向け輸出における関税の実務的な対応も重要な視点です。下記の記事では、輸出時の注意点や対応策を詳しく解説しています。

まとめ

トランプ大統領によるアメリカ・ファースト政策の再強化により、国際貿易のルールは大きく揺れ動いています。2025年時点でアメリカの平均関税率は18.4%に達し、各国・各企業はこれまでの常識が通用しない新たなフェーズに突入しています。

日本の中小企業にとって、これは厳しい挑戦であると同時に、柔軟性やスピード感を活かしてニッチ市場を開拓できる絶好のチャンスでもあります。今こそ、変化を恐れず、支援制度や専門家の知見を活用しながら、新しいビジネス戦略を描くタイミングです。

まずは現状を正確に把握し、自社にとって最適な対応策を見極めることが、これからの安定と成長につながります。
一度、専門家に相談してみることをおすすめします。

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