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カナダ市場に参入する企業にとって、関税制度の理解は欠かせません。本記事では、カナダの一般的な関税制度の仕組みを基礎から整理し、米国や日本との関税の現状、企業が実務上注意すべきポイントまで幅広く解説します。最新の動向も踏まえて、今後のビジネス戦略に役立つ知識を提供します。
カナダの関税制度の概要
カナダでは「関税法(Customs Tariff Act)」に基づき、輸入品に対して関税が課されます。輸入時には、各貨物がHS(Harmonized System)コードにより分類され、対応する関税率が適用されます。
カナダはWTO加盟国であり、多くの国に対して最恵国待遇(MFN)税率を適用しています。さらに、以下のような自由貿易協定(FTA)にも積極的に参加しています。
自由貿易協定 | 対象地域・国 |
---|---|
USMCA(CUSMA) | 米国、メキシコ |
CPTPP | 日本、オーストラリア、ベトナムなど |
CETA | 欧州連合(EU) |
これらの協定により、多くの品目で関税が段階的に撤廃され、実質的に無税での取引が可能となっています。
一方、乳製品、砂糖、鶏卵、鶏肉といった供給管理対象品目には、高関税または輸入割当(TRQ)が適用され、輸入量を超過すると数百パーセントに達する高い関税が課されます。
また、カナダはダンピングや不当な補助金に対処するため、ダンピング税(AD)や相殺関税(CVD)といった貿易救済措置も導入しています。輸入事業者はこれらの措置に留意し、申告時の適用可否を慎重に判断する必要があります。
米加貿易関係の背景
カナダがアメリカ合衆国に課した関税措置
カナダ政府は、アメリカ合衆国による新たな関税措置に対して以下の対抗措置を発動しました。
項目 | 内容 |
---|---|
当初の対抗措置
(2025年3月4日発効) |
オレンジジュース、ピーナッツバター、ワイン、家電、履物など300億ドル相当の米国製品に25%関税を課税 |
鉄鋼・アルミニウムへの報復
(2025年3月13日発効) |
鉄鋼・アルミ製品ほか298億ドル相当の輸入品に25%関税を課税 |
自動車への対抗措置
(2025年4月9日発効) |
USMCA原産地規則を満たさない米国車に25%関税。一部適合車にも部品ごとに25%課税 |
条件付き免除・還付措置 | 商業用用途の一部製品については関税免除または還付制度を適用 |
カナダ政府は、アメリカ合衆国による新たな関税措置に対抗し、2025年3月4日からオレンジジュースや家電製品など約300億ドル相当の米国製品に25%の関税を課しました。さらに3月13日には、鉄鋼・アルミニウム製品など298億ドル相当にも同様の関税を適用しました。
4月9日には、USMCA原産地規則を満たさない自動車に対しても25%の関税が課され、一部適合車にも部品単位で課税されています。特定用途に限り免除・還付制度も設けられ、産業への影響を抑えつつ、米国に対する圧力を強めています。これらの措置により、アメリカ合衆国製品への圧力を高め、早期解決を促す狙いが明確にされています。
アメリカ合衆国がカナダに課した関税措置
アメリカ合衆国も複数の手段を用いてカナダに対する関税を強化しています。
項目 | 内容 |
---|---|
IEEPA関税
(2025年3月4日発効) |
カナダ産品に一律25%(エネルギー製品は10%)関税。ただしUSMCA適合品は免除 |
鉄鋼・アルミニウムへの
セクション232関税 (2025年3月12日発効) |
カナダ含む全世界対象、25%の追加関税を適用 |
自動車関税
(2025年4月3日発効) |
カナダ産自動車に25%関税(USMCA基準適合部品を除く) |
相互主義関税
(2025年4月2日発表) |
基本関税10%、貿易黒字国に対して追加関税。ただしカナダ・メキシコは暫定免除 |
アメリカ合衆国は、カナダに対して複数の関税措置を導入しました。まず2025年3月4日、カナダ産品に一律25%(エネルギー製品は10%)のIEEPA関税を課しましたが、USMCA適合品は免除対象となりました。
さらに3月12日には、セクション232に基づきカナダを含む全世界の鉄鋼・アルミニウム製品に対し25%の追加関税を適用。4月3日には、USMCA基準に適合しないカナダ産自動車に25%関税を導入しました。加えて4月2日には、貿易黒字国への「相互主義関税」も発表されましたが、カナダは一部免除対象となっています。特に鉄鋼・アルミニウム産業への影響は深刻です。
主な輸出品目と関税率の比較
カナダとアメリカ合衆国間で関税が課される主な品目とその税率は次の通りです。
カナダの主な
輸出品目 |
アメリカ
関税率 |
米国の主な
輸出品目 |
カナダ
関税率 |
---|---|---|---|
原油・天然ガス | USMCA適合品は免除、
非適合品は10% |
自動車・
自動車部品 |
非USMCA
適合車は25% |
自動車・部品 | 非USMCA
適合部分に25% |
機械類 | 一部品目に
25%報復関税 |
アルミ・鉄鋼 | 25% | 電子機器 | 一部品目に
25%報復関税 |
木材製品 | 一部免除 | 鉱物性燃料 | 一部品目に
25%報復関税 |
農産物 | 高関税枠あり | プラスチック製品 | 一部品目に
25%報復関税 |
カナダとアメリカ合衆国間では、主要輸出品目に対して互いに関税を課しています。カナダからの原油・天然ガスはUSMCA適合品は免税ですが、非適合品には10%の関税が課されます。自動車や部品は、USMCA規則を満たさない部分に25%の関税対象です。アルミ・鉄鋼には25%、木材製品は一部免除、農産物は高関税枠が設けられています。
アメリカ合衆国からは、自動車・部品、機械類、電子機器、鉱物性燃料、プラスチック製品に対し、カナダが25%の報復関税を課しています。特に自動車産業への影響が深刻です。
最近の動きと継続中の紛争
最近の主な動向をタイムラインで整理します。
日付 | 出来事 |
---|---|
2025年2月 | トランプ大統領が
関税強化方針を表明 |
2025年3月4日 | アメリカ合衆国が
IEEPA関税を発動、カナダが対抗措置 |
2025年3月7日 | USMCA適合品への
IEEPA関税を一部免除 |
2025年3月12日 | セクション232に
基づく鉄鋼・アルミ関税発動 |
2025年4月2日 | 相互主義関税政策を
発表(カナダ・メキシコ免除) |
2025年4月9日 | カナダが自動車関税を発動 |
2025年に入ってから、米加間の関税紛争は急速に激化しています。2月にはトランプ大統領が関税強化方針を表明し、3月4日にはアメリカ合衆国がIEEPA関税を発動、これに対抗してカナダも関税を課しました。
3月7日には、USMCA適合品に対するIEEPA関税が一部免除されましたが、続く3月12日にはセクション232に基づく鉄鋼・アルミ関税が発動。4月2日には相互主義関税政策が発表され、4月9日にはカナダが自動車関税で応戦しました。WTO提訴やUSMCA再交渉の動きもあり、紛争は長期化が懸念されています。
主要セクターへの影響
セクター | 影響内容 |
---|---|
エネルギー製品 | 大半はUSMCA適合で免除されるも、一部10%関税対象 |
自動車・部品 | 両国で25%関税が応酬。サプライチェーンの分断リスクあり |
鉄鋼・アルミニウム | セクション232関税で大幅コスト増加 |
木材製品 | 継続的な軟材木材紛争が影響 |
農産品 | 乳製品・牛肉を中心に関税対象となり輸出コスト上昇 |
現在、米加間の関税措置により主要セクターに大きな影響が出ています。エネルギー製品は、USMCA適合品が免除される一方で一部に10%の関税が課され、自動車・部品は両国で25%の関税が応酬し、サプライチェーン分断リスクが高まっています。
鉄鋼・アルミニウムはセクション232関税によりコストが大幅に上昇。木材製品も軟材木材紛争の影響を受け続け、農産品では乳製品・牛肉を中心に輸出コストが上昇しています。こうした状況下で、両国企業はサプライチェーンの多角化と国内調達の拡大を進めています。
企業向け実務ポイント
カナダとの取引を円滑に進めるため、企業が押さえておきたい実務上のポイントをまとめます。
項目 | 内容 |
---|---|
通関手続き | HSコードによる正確な品目分類、正確な原価申告 |
FTA活用 | 原産地証明書提出による関税免除申請 |
非関税規制対応 | 食品検疫、製品安全基準、知的財産権保護への対応 |
貿易救済措置への注意 | ダンピング・補助金調査対象の品目に注意、引当金準備 |
顧客対応・契約条件 | 関税負担を契約書に明示、価格見直し体制の整備 |
カナダとの取引を円滑に進めるため、企業は実務上の重要ポイントを押さえておく必要があります。まず通関手続きでは、HSコードによる正確な品目分類と原価申告が不可欠です。FTAを活用する場合は、原産地証明書を提出し関税免除を申請します。さらに、食品検疫や製品安全基準、知的財産権保護といった非関税規制への対応も求められます。
貿易救済措置として、ダンピング・補助金調査対象となる品目への注意と、関税引当金の準備も重要です。顧客との契約では、関税負担を明確にし、価格見直し体制を整えることが求められます。加えて、輸入貨物には原産国表示義務(Country of Origin Marking)があり、違反するとペナルティが科されるため、確実な対応が必要です。
まとめ
2025年4月現在、カナダとアメリカ合衆国の間では関税問題が深刻化しており、両国経済に大きな不確実性をもたらしています。短期的には自動車、鉄鋼、農産物など特定分野に大きな打撃が出ていますが、長期的にはサプライチェーンの再編や新たな市場開拓が進む可能性もあります。
米加間の貿易関係を取り巻く環境は依然流動的であり、企業は関税政策の変化を常にモニタリングし、柔軟な対応策を講じることが求められます。実際の取引にあたっては、専門家に一度相談してみることをおすすめします。
カテゴリ:北アメリカ