自動車の関税が上がるとどうなる?消費者と企業に迫る現実

目次

    自動車を取り巻く環境は今、大きな転換点を迎えています。特に2025年に入ってからは、米国を中心に関税政策が強化され、日本を含む各国の自動車市場に大きな波紋を広げています。「自動車の関税が上がるとどうなるのか」という問いは、もはや業界関係者だけでなく、一般の消費者にとっても切実な関心事となりました。

    本記事では、最新の国際動向をもとに、自動車関税の引き上げが価格、家庭の負担、販売現場にどのような影響を及ぼしているのかをわかりやすく解説します。

    また、関税や国際貿易に関する最新ニュースは、速報性が重要です。海外ビジネスに役立つ情報を日々発信中ですので、気になる方はX(旧Twitter)で@bouekidotcom をフォローしてチェックしてみてください。

    自動車と関税の最新動向

    2025年の夏、自動車関税を巡る国際情勢はこれまでにないほど揺れ動いています。特に米国が主導する関税政策の変更は、日本を含む世界中の自動車市場に大きな衝撃を与えています。これに呼応する形で、カナダ欧州連合(EU)、さらには中国も対抗措置を講じ、国際的な関税の応酬が激化しています。

    こうした動きは、単なる数字の問題にとどまらず、消費者の購買行動から自動車メーカーの生産戦略まで、幅広い分野に波及しています。

    米国の関税引き上げの現状

    米国は2025年3月26日の大統領令を受け、4月3日から輸入乗用車やライトトラック(軽トラックを含む)および関連部品に25%追加関税を課しました。これにより、従来の税率に上乗せされ、乗用車は合計27.5%、ライトトラックについては合計50%に達する場合があります。こうした高関税は、事実上の輸入障壁となっており、特に日本や欧州からの車両に大きな影響を与えています。

    対象 旧税率 新税率(合計)
    輸入乗用車 2.5% 27.5%
    ライトトラック 25% 50%

    この大幅な引き上げは、表向きには国家安全保障と国内製造業の強化を理由としています。具体的には「外国依存を減らし、米国内の雇用と産業基盤を守る」という主張ですが、実際には輸入車価格の高騰を引き起こし、消費者負担を増大させています。

    特に日本やドイツから輸入される中型セダンやSUVは影響を大きく受けており、価格競争力が一気に低下しました。

    また、関税の急激な変更はメーカーの在庫戦略や販売計画に大きな修正を迫っています。輸入済みの在庫は旧税率で通関されているため、価格を据え置いて販売するケースもありますが、それも一時的な対応にすぎません。

    米国の関税率や主要品目についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

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    他国の対応と報復関税

    米国の関税政策は当然ながら各国の反発を招いています。2025年4月9日より、非CUSMA(USMCA)準拠の米国製乗用車に対し、25 %の報復関税を発動。CUSMA準拠車についても、米国起源以外のコンテンツ部分に対して25 %課税されます。さらに、2025年8月1日以降には、米国製のうち非CUSMA準拠の品目に対して35%に引き上げる措置も確認されました。

    米国とカナダは互いに自動車産業が深く結びついているため、この報復関税は米国内メーカーにも打撃を与えています。

    EUは中国製EVに対し、2024年7月から暫定的な反補助金関税を適用しました。欧州委員会の調査では、中国メーカーによる政府支援が低価格を支えており、EU製造業に不公正な圧力をかけていると判断されました。

    暫定税率はメーカーごとに17.4%〜37.6%で、最も高いSAICでは37.6%に達しています。

    さらに、2024年11月から発効した正式な関税は最大35.3%(SAIC)が設定され、BYDは約17%、Geelyは約19.9%、Tesla(中国製車両)は約7.8%です。これらの関税措置は2029年10月末までの5年間適用され、必要に応じて延長される可能性もあります。

    こうした国際的な関税の応酬は、市場の予測可能性を大きく損ない、各国メーカーが中長期的な経営戦略を描くうえで深刻な不確実性要因となっています。特に、どの国で生産し、どの市場に供給するのかというサプライチェーン設計は、従来のコスト効率重視から「関税リスク分散型」へとシフトしつつあります

    自動車価格と関税上昇:新車・中古車・EVそれぞれの変化

    自動車関税の引き上げは、消費者にとって最も実感しやすい「価格」に直結する問題です。特に輸入車電気自動車(EV)は影響を強く受けており、2025年夏の市場では新車価格の高騰が中古車市場やEV市場にまで波及しています。ここでは、新車・中古車・EVのそれぞれで起きている変化を詳しく見ていきます。

    新車市場での価格上昇

    米国で導入された25%の追加関税により、日本や欧州から輸入される乗用車の価格は軒並み上昇しました。

    特にSUVやEVのように関税率が50%に達する大型モデルや、部品コストの比率が高い車種は、家計に深刻な負担を与えています。

    車種区分 平均値上げ幅 備考
    セダン 約80万円 輸入車中心
    SUV 約120万円 大型車は関税50%に
    EV 約100万円 部品コスト増が影響

    たとえば、従来400万円で販売されていた欧州製SUVが、関税適用後には520万円を超えるケースも報告されています。このような急激な価格上昇は、消費者の購買意欲を大きく削ぎ、購入を見送る動きや、より安価な国産車へのシフトを促しています。

    販売現場では、値引きキャンペーンや低金利ローンの提供など、購買意欲を引き留める試みが行われていますが、根本的な解決には至っていません。

    中古車市場への影響

    新車価格の高騰は、中古車市場に直接的な需要増をもたらしました。特に、輸入モデルの中古車は「新車は手が届かないが品質の良い輸入車が欲しい」という層に支持され、価格が押し上げられています。

    2025年夏時点で中古車価格は前年比15%上昇しました。中でも、EVやSUVといった人気車種の値上がり幅はさらに大きく、需要が供給を上回る状況が続いています。これにより、中古車販売業者は在庫確保に苦労しており、オークション価格の高騰や仕入れコストの増加という課題にも直面しています。

    ただし、需要増で好調に見える中古車市場も、消費者にとっては「割高感」が強く、長期的に需要が維持できるかどうかは不透明です。

    EV市場の特徴

    EV市場は、自動車関税の影響を最も強く受ける分野の一つです。EVは電池や半導体などの高額部品に大きく依存しており、それらの部品が関税や輸入規制の対象となったことで、価格がさらに上昇しています。

    特に、中国や韓国から輸入されるリチウムイオン電池や制御ユニットが制約を受けており、米国市場におけるEV価格は従来より100万円近く上がったケースも報告されています。

    一方で、テスラや一部の日本メーカーのように現地生産を強化している企業は、追加関税の影響を抑えることに成功しています。そのため、消費者の間では「どこで生産されたEVか」が重要な購入判断基準となりつつあります。

    さらに、政府補助金や税制優遇が適用されるかどうかも消費者の決断に直結します。米国のインフレ抑制法(IRA)による補助金制度では、北米で生産されたEVのみが対象となるため、輸入EVは補助金の恩恵を受けられず、価格面でさらに不利な状況に立たされています。

    自動車関税が家庭に与える影響:ローン・保険・維持費の増加

    自動車の関税引き上げは、購入時の価格上昇だけにとどまらず、家庭の家計に長期的な影響を及ぼしています。特にローン、保険料、維持費や税金といった「毎月・毎年の出費」に波及するため、家計全体を圧迫する要因となっています。

    2025年夏の段階で、多くの家庭がこれまで以上に自動車にかかるコスト負担を実感しています。

    自動車ローンの負担増

    新車の平均価格が関税の影響で大幅に上昇した結果、自動車ローン総額も増えています。2024年には350万円程度だった新車ローンの平均額が、2025年には420万円前後に達しました。返済総額の増加に対応するため、多くの家庭が返済期間を延ばす選択を余儀なくされています。

    項目 2024年平均 2025年平均
    新車ローン総額 約350万円 約420万円
    平均返済期間 5年 7年

    返済期間が2年延びることで、毎月の支払いはやや軽減されるものの、利息負担は結果的に増加します。金融機関によっては、延長期間分の金利が上乗せされるため、総支払額は数十万円単位で膨らむケースもあります。

    特に若年層や低所得層にとっては、新車購入が「背伸びのいる決断」となり、購買意欲が低下する大きな要因となっています。

    また、ローンの返済負担が長期化することで、教育費や住宅ローンなど他の支出にしわ寄せが及ぶ点も懸念されています。

    保険料の上昇

    自動車保険料は車両価格を基準に算定されるため、関税による価格上昇が保険料の増加を招いています。特にEVは車両価格が高く、修理に必要な部品コストや専門人員の確保が難しいことから、保険料の上昇幅が大きくなっています。

    2025年には、EVの保険料が従来比で20%前後上昇したというデータもあります。これは単に車両価格の上昇によるものだけでなく、EV特有の修理費用(電池交換やソフトウェア診断など)が高額化していることも要因です。結果として、従来はガソリン車からEVへの移行を検討していた消費者が「保険料まで考えると割高」と判断し、購入を見送るケースが増えています。

    また、輸入車全般においても修理用部品の調達コストが上昇しているため、保険会社は修理費の増加を織り込み、保険料を引き上げざるを得ない状況にあります。

    維持費と税金への影響

    自動車関税の影響は、維持費や税金といった「購入後に毎年発生する負担」にも及んでいます。車両価格に応じて課される登録税や取得税は、価格上昇と連動して増加しています。

    たとえば、従来400万円の車両に対して支払っていた税金が、関税後の500万円の車両では100万円分多く課税されるため、登録税や取得税も比例して高くなります。

    さらに、車両価格が高まることで、自動車重量税自動車税といった固定的な税金も見直される動きが一部地域で進んでおり、長期的に維持費が増える傾向が見られます。

    結果として、購入した後も「維持にかかるコスト」がかさむため、家計全体で自動車関連支出の割合が増えています。この状況は、消費者が新車購入を控えたり、カーシェアやリースといった代替手段に移行する要因となっています。

    関税引き上げが日常生活にどのような影響を与えるかについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。

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    自動車販売と関税の関係:ディーラー・修理工場の現場から

    自動車関税の引き上げは、販売現場に直結する影響を与えています。メーカーの戦略が変わるだけでなく、ディーラーや修理工場といった消費者との接点にある事業者が経営環境の変化に直面しています。

    販売台数の減少、部品価格の高騰、消費者の購入行動の変化といった要素が重なり、従来型のビジネスモデルの継続が難しくなりつつあります。

    ディーラーの販売戦略の変化

    関税による価格高騰は新車販売に直撃しています。2025年夏の段階で、多くのディーラーが新車の成約率低下に頭を悩ませています。特に輸入車を主力とするディーラーでは、販売台数が前年比で20%以上減少したという報告もあります。

    取り扱い 変化の傾向 備考
    新車販売 減少 高価格で成約率低下
    中古車販売 増加 高需要により利益率改善
    リース契約 増加 長期契約で収益安定

    こうした状況に対応するため、ディーラーは販売戦略を多角化しています。新車販売に代わり、需要が拡大しているのが中古車市場とリース契約です。中古車は価格の手頃さから需要が高まり、利益率改善につながっています。

    さらに注目されているのが、リースやサブスクリプション型サービスです。消費者は「所有」よりも「利用」を選び、数年単位の契約で最新の車に乗り続けることを望む傾向が強まっています。特にEVは関税の影響で購入価格が高額になっているため、リース契約を通じて導入するケースが増えています。

    ディーラー側も、リース契約は長期的な収益安定につながるため、積極的に提案を強化しています。今後は、販売から利用サービス提供へのシフトが一層進むと見られます。

    修理工場の課題

    修理工場もまた、関税の影響から逃れることはできません。輸入部品の価格が上昇したことで、修理費用が高くなり、消費者が修理を先送りする傾向が見られます。

    例えば、従来20万円程度だった輸入車のバンパー交換費用が、部品価格の高騰で25万円を超えるケースが増えています。こうした修理費の上昇は、保険を使わない軽度の修理や定期的なメンテナンスを控える消費者を増やし、修理工場の収益を不安定化させています。

    また、EVの普及も修理現場に新たな課題をもたらしています。EV特有の電池や電子制御システムは修理コストが高く、専門知識を持つ技術者も限られているため、対応可能な工場が少ないのが現状です。これにより、一部の工場は新たな研修や設備投資を余儀なくされており、経営負担はさらに増しています。

    従来の「修理依存型モデル」では収益を維持できない状況が見えてきており、定期点検やアフターサービスをパッケージ化した長期契約型サービスへの移行など、新たな収益モデルの模索が進んでいます。

    まとめ

    2025年夏、自動車関税を巡る国際的な動向は依然として不透明であり、消費者と企業の双方に大きな影響を与え続けています。米国を中心とした関税の引き上げが維持あるいはさらに強化されれば、輸入車価格は一段と上昇し、家計負担はこれまで以上に重くなるでしょう。その場合、現地生産車EVが有力な選択肢となり、需要が集中する可能性があります。

    一方で、日米や米欧間の交渉が進展し、一部関税が引き下げられるようなシナリオでは、短期的に輸入車価格が下がり、中古車市場やディーラー戦略にも変化が生じることが予想されます。

    ただし、このような緩和措置は政治情勢や国際関係に大きく左右されるため、持続的に実現するかどうかは不透明です。

    こうした不確実性を踏まえると、消費者に求められるのは、購入や買い替えのタイミングを慎重に見極める姿勢です。中古車やリース、サブスクリプションといった代替手段を検討する動きも広がり、従来の「所有」を前提とした価値観が変化しつつあります。

    ローン総額や保険料の上昇、維持費や税金の負担増を考慮すると、これまで以上に長期的な計画性が重要です。不安があれば、自動車ローンや税制に詳しい専門家に相談することで、無理のない判断が可能になるでしょう。

    2025年の自動車関税引き上げは、単に価格を押し上げるだけでなく、家庭の負担増や販売現場の戦略転換、修理工場の経営課題など、多方面に影響を与えています。

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