2025年9月7日、自民党総裁であり内閣総理大臣を務めていた石破茂氏が、辞任を表明しました。このニュースは国内外に大きな波紋を広げ、政局は一気に不透明さを増しています。背景には、直前に行われた参議院選挙での与党の歴史的敗北、党内での求心力の低下、そして支持率の急落がありました。
また、石破氏が政権の柱として掲げていた通商政策、とりわけ日米間の関税交渉や貿易交渉の行方にも注目が集まっています。本記事では、辞任に至る経緯とその背景を詳しく解説するとともに、石破政権が取り組んだ貿易政策の影響、さらに次期政権が抱える課題について多角的に分析します。
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石破茂氏の辞任を決断させた選挙結果の影響

2025年7月20日の参議院選挙は、石破政権にとって致命的な打撃となりました。自民党は39議席、公明党は8議席を獲得し、与党改選合計は47議席にとどまりました。当初目標とされた50議席を下回り、非改選を含めても参議院(定数248、過半数は125)で過半数を維持できずで過半数を維持できず、与党は少数与党に転落しました。
この結果は政権基盤を大きく揺るがし、石破茂氏の辞任決断に直結したと見られます。
政党 | 改選獲得議席 | 備考 |
---|---|---|
自民党 | 39 | 大幅減で党勢後退 |
公明党 | 8 | 堅調ながら議席減 |
合計(自公) | 47 | 過半数割れ(参院125の過半数=63に届かず) |
結果として、連立与党は参議院での法案審議や予算成立において、野党や無所属議員の協力を仰がざるを得ない「実質的な少数政権」へと転落しました。これが石破氏の政治的リーダーシップに対する信頼喪失を加速させる一因となりました。
有権者が突き付けた「不信任」の民意
今回の参院選は単なる議席数の減少にとどまらず、有権者の明確な意思表示が含まれていました。
特に地方選挙区では、石破氏が掲げた「生活者重視」や「通商政策の見直し」といったメッセージが有権者に届かず、野党候補や無所属新人に競り負けるケースが相次ぎました。
石破政権の選挙戦略の誤算と敗因分析
石破氏の選挙戦略は、「改革継続」と「安定志向」のバランスを取ることを主眼に置いていました。通商政策における米国との協調や、物価高騰に対する生活支援策など、実務的な政策を前面に出して戦いましたが、以下のような要素が敗因として指摘されています。
分析視点 | 内容 |
---|---|
メッセージの不明確さ | 政策目標が広く分散し、「何を実現する政権なのか」が伝わりにくかった。 |
政策の実感不足 | 消費税減税や補助金政策の実施が遅く、国民の生活改善に直結しなかった。 |
候補者擁立の不備 | 野党側が統一候補を擁立した一方で、自民党は複数候補の調整に失敗した選挙区も。 |
これらの点から、「石破政権が国民とズレていた」との総括がなされるようになり、与党内での石破氏への支持も急速に低下していきました。
支持基盤の崩壊と党内の変質
今回の選挙結果は、自民党内の力学にも大きな変化をもたらしました。とりわけ、これまで石破氏を支えていた中堅・若手議員の間で、「このままでは次の選挙を戦えない」との危機感が広がり、党内の離反が加速しました。
- 石破派を含む議員グループの一部が「総裁選前倒し論」を提起
- 地方組織からも「リーダー交代」を求める動きが表面化
- 政策実行力の停滞に対する経済界からの懸念表明も増加
これにより、石破政権は「内部から崩れる」形で支持を失い、辞任への流れが不可避なものとなったのです。
石破茂氏の辞任をめぐる党内圧力と支持率低下

石破茂氏が辞任に追い込まれた背景には、選挙結果以上に深刻な党内の不満の蓄積と国民からの信任の喪失がありました。政権を支える足元の基盤が大きく揺らいでいたことが、政局の早期転換を決定づけたと言えます。
このセクションでは、石破氏の辞任を引き起こした二つの主要因—党内からの圧力と、世論調査における急激な支持率低下—について、より詳細に分析します。
支持率の推移と低下の要因
2025年6月〜8月にかけて、石破内閣の支持率は短期間で約15ポイント近く下落するという、政権発足以来最大の危機を迎えました。選挙の敗北が支持率を押し下げたのはもちろんですが、それ以前から進行していた「信頼の低下」こそが、本質的な問題でした。
最新の世論調査結果(2025年8月〜9月)
メディア | 支持率 | 不支持率 |
---|---|---|
NHK(8月25日) | 24.2% | 58.1% |
読売新聞(8月30日) | 21.7% | 60.4% |
毎日新聞(9月3日) | 20.8% | 55.3% |
特に注目すべきは、「評価できない理由」に関する設問で以下の傾向が見られたことです。
- 「政策に一貫性がない」:42%
- 「物価・生活対策が遅い」:36%
- 「党内からの信頼がない」:28%
このように、有権者は単に一つの失策ではなく、政権運営の構造的な問題を感じ取っていたことがうかがえます。
支持率低下を招いた主な政策要因
要因 | 内容 |
---|---|
生活支援策の遅れ | 物価高対策・エネルギー補助金が選挙後にずれ込み、生活実感の改善が見られなかった。 |
通商政策の成果不明確 | 日米関税交渉は「前進」と報じられたが、実感として評価されず。 |
メッセージ発信力の不足 | 「説明責任」が問われる場面で首相の発言が後手に回った。 |
消費税減税方針の後退 | 政権発足時は「検討」と言っていたが、選挙前には「慎重姿勢」に転じ、信頼を失った。 |
石破氏が掲げた「実務的な政治」や「現場主義」の姿勢は、逆にスピード感の欠如として捉えられ、変化を求める国民とのギャップが広がりました。
党内圧力の具体的な構造
石破氏にとってより厳しかったのは、選挙敗北後に急速に拡大した党内からの辞任要求でした。特に以下の3つの層からの圧力が顕著でした。
1. 派閥領袖・長老議員からの公然たる批判
選挙後、自民党内では複数の実力者が相次いで石破首相に対する批判を公にし、首相続投に否定的な見解を示しました。こうした発言は実質的に「退陣を求めるメッセージ」として受け止められ、党内外に大きな波紋を広げました。
2. 中堅・若手議員の「選挙恐怖」
次の衆議院選挙を見据える中堅・若手の議員たちからも、「このままでは次も落選しかねない」との危機感が広がっていました。
年代別に見ても、30〜40代の議員からは「選挙区で首相への失望が有権者から直接伝わってくる」との声が上がり、50代前後の議員からは「再選の見通しが立たず、他派閥への移動も検討せざるを得ない」といった意見が出ていました。
こうした「サバイバル本能」が石破氏退陣を促進する大きな要因となったのです。
3. 地方組織の不信と「突き上げ」
さらに深刻だったのは、自民党の地方組織からの不信感でした。複数の都道府県連が党本部に「執行部刷新」を求める意見書を提出し、一部では党員投票による総裁選の前倒しを求める声も上がりました。
北海道連では「地方の声を聞かない政権には限界がある」との意見が提示され、福岡県連からは「現執行部では戦えない」との危機感が表明されました。党内からの「突き上げ」が可視化されたことで、首相の求心力は完全に喪失しました。
石破氏の対応と辞任決断までの内部経緯
選挙翌週の閣議後会見で石破氏は、「責任を取るべきだとの声があることは承知している」と述べ、辞任を否定しながらも含みを持たせる姿勢を見せていました。
しかし、次のような動きが一気に辞任への流れを加速させました。
- 官邸内の参謀からも「退くべき」との進言
- 党三役(幹事長・政調会長・総務会長)との非公式協議
- 総裁選前倒し論をまとめた決議案の提示(党内有志による)
こうしたプロセスを経て、9月7日夕方に辞任を正式表明。
このように、石破氏を取り巻く「党内の逆風」と「国民の信任喪失」は同時並行的に進行し、首相の政治的立場を急速に不安定化させました。
それは単なる一政権の終わりではなく、自民党が構造的に抱えるリーダー選出のあり方や政権運営の根本的課題を浮かび上がらせるものであったとも言えます。
石破茂氏の辞任と貿易政策の行方

石破茂氏が政権の重点課題として掲げていたのが「戦略的通商政策」の推進です。首相就任以来、日米通商関係の再構築や多国間経済連携への復帰に注力してきた石破氏の辞任は、日本の通商政策の今後に重大な不確実性をもたらしています。
特に、日米関税交渉、自由貿易協定(FTA/EPA)の方向性、経済安全保障政策との整合性など、多くの懸案が次期政権に引き継がれる形となっており、産業界からも注視されています。
日米関税交渉における成果と限界
石破政権下で最も注目されたのが、アメリカとの間で再交渉された日米関税協定です。2025年6月には、両国間で以下のような関税調整が発表されました。
2025年9月時点で、自動車の関税引下げは大統領令により確定した一方、医薬品・半導体など一部分野は命令未発出で最終確定前と報じられています。
分野 | 合意内容 | 評価 |
---|---|---|
自動車 | 米国の日本車関税は25%から15%に引き下げ (9月5日署名・公表の大統領令) | トランプ政権下での関税戦争回避に貢献 |
農産品 | コメ・牛肉等で日本は譲歩せず | 国内農業保護の観点から高評価 |
工業製品 | 半導体部品は段階的に無税化 | 日系製造業に追い風 |
この合意は、2023年から続いていた通商交渉の「一区切り」として国内外から一定の評価を受けましたが、その一方で、次のような限界も指摘されました。
- 自動車以外の分野では「包括的FTA」には至らなかった
- 米国からの農産品輸入枠拡大要請を棚上げ
- 為替条項など経済政策の主権に関わる議題は未合意
石破氏の姿勢は「現実主義的な譲歩戦略」とも、「対米追随」とも評価が分かれましたが、少なくとも国内産業の利害を慎重に調整する交渉スタイルは明確でした。
多国間通商体制への対応と戦略転換の兆し
石破政権は、日米協議に加えて多国間の経済連携協定(EPA/FTA)への再コミットも図っていました。特に注目されたのが、以下の二つです。
協定名 | 石破政権の対応 | 現状 |
---|---|---|
RCEP(地域的な包括的経済連携) | 中国主導色の中でASEANとの橋渡しを模索 | 日本が調整役として主導権を確保中 |
CPTPP(包括的・先進的TPP) | 米国復帰を見越し、加盟国間の関税整備を推進 | 台湾・英国の加盟申請に対応継続中 |
とくにRCEPについては、中国の経済的影響力とのバランスをとりながら、東南アジア諸国との連携強化を図るなど、「経済安全保障」との整合性を重視した立場が特徴的でした。
CPTPPに関しては、米国の再加盟の可能性や台湾の参加申請への対応も含め、高度な外交調整能力が求められる局面となっており、石破氏の辞任後はこの戦略の継続性が大きな焦点となります。
辞任によって生じる通商政策の不確実性
石破氏の退陣により、日本の通商政策には以下のような3つの不確実性が生じています。
分野 | 不確実性の内容 | 影響 |
---|---|---|
対米通商関係 | 自動車関税などの再交渉が必要となる可能性 | 日系自動車産業・物流に影響 |
多国間交渉 | CPTPPやRCEPでの日本の主導力が弱まる懸念 | 外交的プレゼンスの低下 |
経済安全保障 | 半導体・重要鉱物のサプライチェーン確保政策が停滞するリスク | 製造業・ハイテク産業に不安感 |
石破政権の通商路線は、「自由貿易の現実的維持」と「経済安全保障の両立」を軸としていました。これが引き継がれない場合、日本の通商戦略は方向性を見失う可能性があります。
国内産業界の懸念と新政権への期待
石破氏辞任直後、経団連や日本商工会議所などの経済団体は、相次いで**「政策の継続性」**を新政権に要望する声明を発表しています。
主な業界の懸念は次の通りです。
業界 | 懸念 | 要望 |
---|---|---|
自動車産業 | 関税合意の履行が不透明 | 対米交渉の継続・安定を求める |
農業団体 | 農産物市場開放への圧力再燃 | 国内保護政策の堅持 |
製造業・IT | サプライチェーン再構築の支援停滞 | 半導体支援・人材育成の予算維持 |
これらの要望は、次の政権がどのような外交・通商路線をとるのかを大きく左右する材料になると同時に、政権の正統性を測るバロメーターにもなっています。
次期政権が直面する通商政策上の課題
新たな政権は、石破政権から引き継ぐ通商政策の課題にどう向き合うかが問われます。特に以下の3点は、避けて通れない争点となるでしょう。
1. 米国との経済協定の実務的履行
石破政権が合意した関税調整や輸出入枠に関する協定は、まだ履行段階に達していない項目も多く、米国との外交ルートの再構築が急務となります。
また、米国大統領選挙後の政権交代によって、通商政策が再び転換する可能性もあり、日本側には「柔軟かつ持続的な戦略対応」が求められます。
2. 自由貿易か保護主義かという選択
石破政権は基本的に「自由貿易主義」でしたが、物価高や国内産業保護を背景に、今後は一部の業界・世論から**保護主義的措置(例:関税引き上げ、補助金拡充)**への転換を求める声も強まると見られます。
そのため、次期政権には経済全体の競争力を損なわずに、社会的弱者や地方経済を保護する政策バランスが求められることになります。
3. 経済安全保障と通商政策の両立
地政学的リスクが高まる中で、重要鉱物、半導体、データインフラなどの分野において、経済安全保障と貿易自由化の調和が強く問われます。
特に、中国との関係や、米国との技術連携枠組み(IPEFなど)におけるポジションを再定義することは、新政権の通商・外交戦略の根幹に関わる重大課題となるでしょう。
このように、石破茂氏の辞任は単なる人事の変化にとどまらず、日本の貿易政策における理念・戦略・実務の全てに影響を及ぼす政治的転換点となっています。
次期政権がその「路線を維持するか」「方針を転換するか」によって、日本の対外経済関係は大きく揺れることになります。
石破茂氏の辞任が国内外政策に与えるインパクト

貿易政策にとどまらず、国内政策や外交、安全保障にも影響が及びます。
国内政策への影響
- 物価・減税対策:生活コスト上昇に対し、より迅速で効果的な対策が新政権に求められる。
- 政治改革:党内の意思決定プロセスの透明化と改革が焦点。
- 立法の難化:議会での多数喪失により、政策実行に時間と労力が必要。
外交・安全保障政策への影響
- 米国との関係:日米同盟・通商協議の安定維持が焦点。
- 地域外交:中国、北朝鮮、韓国との外交方針の微調整が必要に。
- 経済安全保障:資源・データ・技術などの国際的枠組みへの参加姿勢が問われる。
次の政権は、多方面で柔軟かつ戦略的な対応が必要となるでしょう。
石破茂氏の辞任を総括し、次期政権の課題を考える

石破茂氏の辞任から、次の政権が直面するであろう課題を整理します。
総括:石破辞任の意味と遺したもの
- 通商交渉や対米政策では一定の成果が見られたものの、国内政策への対応遅れが支持率を押し下げました。
- 選挙結果と党内の求心力の低下が辞任の引き金となりました。
- 石破政権の経験は、今後の政権が何を重視すべきかを示唆しています。
次期政権が抱える主要課題
課題 | 内容 | 影響 |
---|---|---|
政策の一貫性 | 有権者の信頼回復に不可欠 | 支持率の下支え |
通商戦略の明確化 | 自由貿易推進か保護主義かの判断 | 輸出入企業への影響 |
物価対策 | 実効性ある生活支援政策 | 社会安定性の確保 |
党内統治 | 派閥間調整と意思決定体制の再構築 | 政策実行力の向上 |
外交姿勢 | 米中間・地域外交の再定義 | 国際的な信頼維持 |
野党連携 | 議会運営上の協調が必要 | 法案成立に不可欠 |
最新情報(2025年9月時点)と今後の見通し
2025年9月7日、石破茂氏は正式に辞任を表明しました。これにより、自民党は直ちに後継を選ぶための総裁選挙の準備に入り、10月上旬には新たな首相が決定する見通しです。総裁選には複数の有力候補が名乗りを上げており、派閥間の駆け引きや地方組織の動向が結果を大きく左右すると見られています。
特に注目されるのは、次期政権が石破政権から引き継ぐ通商政策と物価対策の方向性です。日米関税交渉では一部で合意が得られたものの、自動車以外の分野は未確定の課題が残っており、産業界は政策の継続性に強い関心を示しています。
また、国内では物価上昇が依然として国民生活に重くのしかかっており、新政権がどのような経済対策を打ち出すかが政権運営の成否を大きく左右するでしょう。
こうした状況から、石破氏の辞任は単なる人事交代にとどまらず、日本の外交・経済政策全般に新たな局面をもたらす転換点となっています。
まとめ
石破茂氏の辞任は、選挙敗北、党内支持の喪失、そして有権者の信頼の低下によって導かれたものであり、国内政治と経済、外交のいずれにも大きな影響を与える出来事でした。特に貿易政策については、一定の交渉成果があったものの、それが広く評価されるには至らず、国内政策とのバランスの取り方に課題が残りました。
次期政権に求められるのは、政策の明確さと実行力、そして政治の信頼回復です。貿易政策をはじめとした多くの分野で、新たなリーダーシップが問われる局面にあります。