高市早苗氏の政策一覧|通商・経済・外交はどう変わる?

2025年10月、高市早苗氏が自民党総裁に選出されました。党史上初の女性総裁として注目を集める一方、その掲げる政策は単なる象徴を超え、国家の根幹に関わる包括的な戦略として注視されています。

スローガンは「日本列島を、強く豊かに。」。経済、安全保障、社会制度を一体で捉える「総合的な国力の再構築」が中心に据えられています。積極財政、技術立国、統治改革、保守的社会政策など多岐にわたる内容は、日本の進路に大きな影響を与える可能性を秘めています。

本記事では、高市早苗氏の政策を5つの視点から整理し、その実効性と課題を読み解きます

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高市早苗氏の政策全体像と国力再建のビジョン

高市氏の政策は、積極財政による経済再生と安全保障・経済安全保障の強化を柱としています。これは、経済、安全保障、社会制度、統治体制のすべてを連動させ、日本の持続的な強さと豊かさを取り戻すというものです。

2025年の総裁選で示されたスローガン「日本列島を、強く豊かに。」にも、それが凝縮されています。

政策は経済、安全保障、社会制度、地方活性化など複数分野で構成され、相互に関連しながら現代の課題に対応する設計です。

  • 危機管理投資と成長投資による経済の立て直し
    インフラや医療、エネルギーといった国家基盤には迅速かつ集中的に予算を投入し、同時に半導体やAI、量子などの戦略分野に対しても積極的な成長投資を行います。これにより、産業競争力の回復と経済安全保障を同時に進めることを目指しています。
  • 地方の暮らしと安全を支える地域再生戦略
    医療・交通・教育などの地域インフラを再整備し、地域ごとの強みを活かした産業クラスターの形成を促進。中央依存の分配から脱却し、地域経済の自立を進めると同時に、郵便局ネットワークの活用などで生活の利便性も高めていきます。
  • 多国間連携と新領域を見据えた防衛・外交政策
    防衛費の増額に加え、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな防衛領域に対応する能力強化を図ります。安全保障では、日米同盟に加えて英国・豪州・イタリアなどの同志国と連携し、装備開発や運用面でも多国間の枠組みを強化していく構想です。
  • 次世代への責任としての社会制度改革
    少子化対策、介護支援、教育制度の再構築など、将来世代の基盤づくりに重点を置いています。家政士制度やベビーシッター支援の税制優遇など、市場を活用した子育て支援を展開する一方、保守的な家族観に基づいた制度維持(例:夫婦別姓の非容認)も打ち出しています。
  • 党と統治機構の信頼回復を目指す制度改革
    政治資金の透明化や行政手続きの見直しを通じて、自民党そのものの信頼性を回復し、統治機構全体の機能を強化する姿勢が示されています。また、国家情報局の設置やスパイ防止法の制定により、情報セキュリティ体制を国家戦略の一部として再構築しようとしています。

これらの政策は、分野ごとの単発施策ではなく、「安全保障」という一貫した視点のもとに設計されているのが最大の特徴です。経済施策であっても、それは国家の脆弱性を補う手段として正当化され、社会政策であっても、将来的な国力の基盤をつくる構成要素として組み込まれています。

高市氏の政策パッケージは、現代の日本が直面する複合的リスク――地政学的競争、技術流出、人口減少、財政硬直――に対し、「国家総力」を前提とした対応を目指すものであり、単なる選挙公約ではなく、戦略文書としての性格を強く持っています。

高市早苗氏の安全保障政策と統治機構改革

高市氏の安全保障政策は、単なる防衛力強化にとどまらず、日本の統治体制全体を見直す壮大な構想が含まれています。地政学リスクが高まる現代において、サイバー・宇宙・情報戦など多層的な脅威に対応するため、従来の専守防衛を超えた「総力戦体制」への転換を志向しています。

さらに、情報機関の統合や法制度の抜本改革により、平時から有事に備えた国家機能の再設計が急がれます。

防衛政策の転換:新領域への対応と多国間連携

現代の防衛では陸・海・空に加え、宇宙・サイバー・電磁領域への対応力強化が重視されています。高市氏もこうした「新領域」への装備・人材・法制度の整備を訴え、同志国との連携・共同開発の深化を掲げています。高市氏はこれらへの装備・人材・法制度の整備を強化するとし、無人機や極超音速兵器の導入など先進技術への対応も打ち出しています。

外交面では、日米同盟を基軸に英国・イタリア・豪州などとの安全保障協力を拡大し、装備品の共同開発などを通じた連携強化を進める構想です。

施策領域重点方針目的
新領域の防衛宇宙・サイバー・無人機などの強化抑止力と即応性の向上
多国間連携英・豪との共同開発・訓練の拡大戦略的信頼の深化
人材強化自衛隊の処遇改善・専門職採用拡充高度任務への対応力の確保

統治機構の改革:国家情報局とスパイ防止法

高市氏は、情報戦時代に対応するため、国家レベルの情報機能の強化(国家情報機関の創設)を公約として掲げています。これは内閣情報調査室や公安調査庁、防衛省などに分散していた情報機能を一元化し、迅速な分析と政策提言が可能な司令塔機関を目指すものです。

加えて、「スパイ防止法」の制定にも言及しています。戦後日本では未整備だったスパイ活動への対応法整備は、他国に比べても大きな遅れを取っている分野であり、今後の立法過程では表現の自由とのバランスが焦点となります。

改革項目具体施策期待される効果
国家情報局の設置省庁横断の情報集約と分析指令機能情報戦対応力の向上
スパイ防止法経済・技術・政治スパイ行為の規制国家機密の保護と抑止
法整備の課題国民の知る権利・報道の自由との調整社会的合意の形成

国民保護とインフラ防衛の強化

安全保障のもう一つの柱が「国民の命と暮らしを守る」施策です。高市氏は、国民保護や重要インフラの防護など、危機管理体制の強化を重視する方針を示しています。

海底ケーブルや通信衛星など、情報通信インフラの防護を強化しにも注力し、国家の情報・経済活動を支える基盤の防護を図ります。

保護分野対応策狙い
国民保護地下シェルター設置法の制定有事・災害時の安全確保
インフラ防衛海底ケーブル・通信衛星の保護情報通信の継続と抑止力の維持
災害対応防災機能と国防機能の統合体制平時からの備えと迅速な対応力

このように、高市早苗氏の安全保障政策は、「防衛」「情報」「国民保護」という三層構造で国家の安全を再定義しようとするものです。

高市早苗氏の産業・技術政策と経済安全保障

高市氏の経済政策の中核には、「経済成長」と「安全保障」を両立させる産業・技術戦略が位置付けられています。AI、半導体、エネルギー、量子、バイオといった重要分野に対して官民連携を基軸とした戦略的投資と技術保全の体制構築を進め、日本の産業競争力と技術主権を確保することが狙いです。

これにより、日本経済の自律性を高め、外部依存度を減らす安全保障的な意義も持たせています。

戦略的産業分野への集中的な国家投資

高市氏は、次世代半導体やAIなどの戦略分野に対し、官民連携と税制優遇を活用した成長投資を進める方針を示しています。経済政策の中心を「選択と集中」に据え、民間任せでは難しい分野へ国家が主導的に介入する姿勢を鮮明にしています。

投資対象産業政策内容狙い
半導体・AI税制優遇、官民ファンド支援、研究開発費助成技術優位性の確保と産業基盤強化
核融合・次世代電池公的研究支援と市場投入促進脱炭素・エネルギー自立
創薬・医療分野ラボから市場までの実用化支援、スタートアップ減税医療技術の商業化・国際競争力強化

経済安全保障の中核:対日外国投資の審査と知財保護

経済安全保障の観点から、高市氏は外国資本の買収・出資を監視する「対日外国投資委員会」の創設を掲げています。これは、国家機密や基幹技術の流出リスクを防ぐため、外国企業による買収・出資などを厳格に審査する体制を整えるものです。

また、知的財産の海外流出を防ぐための法整備も今後の焦点になります。

経済安全保障施策主な内容目的
外資規制の強化対日外国投資委員会の設置、外為法強化技術・情報の流出防止
知財保護の強化機密技術の保護、研究者の海外流出対策産業競争力と国家安全の維持
産業政策の再活用技術戦略に基づく官民連携・資源集中成長分野の国際競争力の確保

エネルギーと食料の供給体制再構築

高市氏は、経済安全保障の柱として「エネルギー」と「食料」の自給体制確保にも重点を置いています。原子力の再稼働や次世代革新炉の活用、送配電網整備を通じてエネルギーの安定供給を図る一方、農業構造改革やスマート農業推進により、食料供給の安定性を高める方針です。

分野主な施策内容政策目標
エネルギー核融合炉・革新炉の推進、送配電網整備、国産資源開発自給率向上と脱炭素の両立
食料農業転換集中期間の設定、スマート農業支援農地活用と国内生産力の強化
食品安全植物工場・陸上養殖の展開気候変動リスクへの耐性確保

このように、高市早苗氏の産業・経済政策は、単なる成長戦略ではなく、国家の生存戦略として位置付けられています。

高市早苗氏の戦略的通商政策とグローバル・エンゲージメント

高市氏の通商政策は、従来の「自由貿易による効率性追求」から、「国家主権と安全保障を優先する戦略的通商管理」へと大きく転換しています。経済安全保障担当大臣としての経験を踏まえ、貿易・投資・技術・人材の流れを厳格に管理し、日本の技術的主権と産業レジリエンスを確保することを目的としています。

戦略的通商の三本柱

高市氏の通商政策は、経済安全保障を軸に三つの柱に整理できます。

第一に「技術的主権の確立」です。半導体やAI、量子技術、エネルギーといった分野において、官民が連携して投資を行い、補助金や税制優遇を活用して国内産業の再興を図ります。これにより、国外への過度な依存を減らし、重要分野の供給網を自立的に維持する狙いがあります。

第二の柱は「責任ある拡張的財政」です。防衛や技術開発に関わる分野には積極的に財政出動を行う一方で、現代金融理論(MMT)を明確に否定し、国際市場からの信頼を維持する姿勢を示しています。無制限な財政拡大ではなく、戦略分野への限定的支出を重視する点が特徴です。

第三の柱は「慎重な国際化」です。移民や外国人労働者の受け入れについては、社会的安定を重視しながら、段階的かつ選別的に進める方針を掲げています。急激な人口変化や社会的摩擦を防ぎ、国内の調和を守ることが狙いです。

これらの三本柱は、自由市場の拡大よりも、国家としての選択的な関与を重視する「管理された通商」への移行を象徴しています。

外資・投資の管理強化

高市氏は、外国資本による買収やM&Aについて、外為法(外国為替及び外国貿易法)を通じて厳格に審査する方針を示しています。特にAI、半導体、エネルギー、通信などの重要インフラ分野では、外資による影響力の拡大を抑え、国家の経済主権を守る体制を構築することが狙いです。

AIや半導体分野では、外国企業による買収の際に事前審査を義務付け、技術流出を防止します。エネルギーや通信分野では、外国投資の比率を制限し、承認制を導入することで供給網の安全を確保します。

さらに、防衛関連やバイオ分野においては、機微情報や知的財産の流出を防ぐための管理を強化しています。これらの措置は単なる保護主義ではなく、国家防衛と経済戦略を一体化させる「投資安全保障」の一環といえます。


外為法は、外国資本の投資や技術移転を管理する日本の主要な法律です。高市氏の「経済安全保障政策」を理解する上で、基礎知識として押さえておきたい内容です。

新しい通商外交:安全保障と価値観外交の融合

国際的な通商協定の分野では、高市氏は従来の関税引き下げを中心とした多国間協定よりも、安全保障や技術基準、サプライチェーン協調を重視した「ミニラテラル(小多国間)」枠組みを重視する傾向があります。


安全保障貿易管理は、軍事転用可能な技術や製品の輸出を制限する仕組みです。高市政権の通商戦略を理解する上で欠かせない概念です。

たとえば、日米豪印(QUAD)を通じて半導体、海洋安全保障、データ通信などで連携を強化し、インド太平洋地域の安定を図ることを想定しています。また、日米欧の連携では、AIの倫理基準やエネルギー供給、サプライチェーン強化といった分野で価値観を共有し、経済と防衛を統合した「価値観外交」を展開する見通しです。

一方で、RCEPやCPTPPといった既存の多国間枠組みについても、日本の市場アクセスを維持しつつ、安全保障上の配慮を組み込む形で関与を続けると考えられます。このように、高市氏の外交姿勢は、通商を単なる経済活動ではなく、国家安全保障戦略の延長として位置づけている点に特徴があります。

高市氏の通商政策は「自由貿易」から「戦略的通商管理」への転換を明確に示しています。日本企業にとっては、外資規制やサプライチェーン基準など新たな安全保障要件に対応する必要が生じる一方で、同盟国との協調によって新たな経済連携や国内産業再構築の機会も広がると見られます。

自由化の時代を経た日本が、いま再び国家主導の通商戦略を描き始めているといえるでしょう。

高市早苗氏の社会政策と地方活性化

高市早苗氏の社会政策は、個人の生活保障と地域の再生を同時に実現する「地域密着型・家族重視」の政策体系が特徴です。育児・介護、教育、医療といった基礎的社会サービスを強化する一方で、地方が自立的に成長できるよう産業クラスターやDX化を後押しする施策が並びます。

同時に、家族制度や戸籍制度に対する保守的な姿勢も貫かれており、国民の安心と社会の持続可能性を支えるための政策といえます。

健康・子育て・教育を支える生活支援政策

高市氏は、少子高齢化社会に対応するため、育児・介護を「離職リスク」とせず、個人が生涯にわたり活躍できる社会の構築を目指しています。医療・予防政策、保育・学童・教育支援に至るまで、横断的に家計と生活を支える制度が設計されています。

育児・介護・教育の支援強化を重視しつつ、家族や社会制度の在り方については保守的な立場をとるとされています(例:同性婚の法制化には慎重)。

政策分野主な施策内容目的
医療安全保障ワクチン・医薬品の国内自給化、攻めの予防医療推進健康寿命の延伸と医療費抑制
子育て支援家政士の国家資格化・ベビーシッター等の税控除、企業主導型保育の促進離職防止・労働参加率の維持
教育政策少人数学級・教員の処遇改善、地域参画型教育システム教育の質向上と社会全体での子育て

地方の経済再生とインフラ・治安の強化

高市氏は「地方には伸び代がある」と明言し、中央集権ではなく地域主体で成長を導く政策を提唱しています。地域に応じた産業育成、インフラ維持、外国人問題への対応など、包括的な地方支援策が打ち出されています。

地方政策分野主な施策内容狙い
地方産業支援産業クラスター形成、郵便ネットワーク活用、地域DX化地方の経済自立と雇用創出
インフラ維持地域公共交通の維持支援、医療・福祉施設への補助生活インフラの持続性確保
外国人関連施策外国人土地取得の実態調査と規制、不法滞在対策の強化治安・安全保障の強化

このように、高市早苗氏の社会政策は、家族制度を尊重しつつも、経済的現実と地域の多様性に対応する柔軟性を持ち合わせています。

高市早苗氏の政策まとめ

高市早苗氏の政策は、積極財政と安全保障・経済安保の強化を両輪とする国家戦略です。詳細はこれから具体化される段階であり、外資審査や情報機能強化などが注目点です。一方で、財政運営や制度改革のハードルも高く、実現には国民的合意が欠かせません。

経済・外交・社会制度を一体で捉え、「総合的な国力」の再構築を目指す姿勢は、現代日本が抱える構造的課題に対する包括的な処方箋といえます。一方で、財政運営や制度改革には多くの障壁があり、実現には国民理解と政治的合意が不可欠です。まずは生活支援や経済安全保障といった実行性の高い分野から成果を積み重ね、長期的な改革につなげることが求められます。

政策の影響については、専門家に一度相談してみることをおすすめします。

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