【最新版】THCとは?貿易初心者でも失敗しないための費用管理ガイド

貿易関連の書類や見積もりの中で「THC」という言葉を目にしたことがある方も多いかもしれません。
THCは、港でのコンテナ取扱いに関する費用であり、国際物流において避けては通れない重要なコスト項目です。しかし、その詳細や計算方法、支払いのタイミングなどを正しく理解している方は多くありません。

この記事では、THCの基本から実務上の注意点まで、初心者の方でも理解しやすいよう丁寧に解説していきます。

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THC(ターミナル・ハンドリング・チャージ)の基礎知識

THCとは何かを正しく理解することは、貿易実務の基本です。まずはその定義や役割、費用が発生する具体的な場面について見ていきましょう。

THCの定義と役割

THC(Terminal Handling Charge)とは、港においてコンテナ貨物を取り扱う際に発生する費用のことです。船からの陸揚げ、ヤードへの移動、保管・仕分け・積み込みといった一連の作業にかかるコストを指します。

具体的には次のような作業が含まれます。

  • コンテナの船上・陸上への積み下ろし
  • ターミナル内での一時保管
  • トレーラーや鉄道への積み替え
  • 港湾設備や人員の使用料

この費用は、港湾運営会社やターミナルオペレーターによって設定され、フォワーダーや船会社を通じて荷主に請求されるのが一般的です。THCは、海上輸送と陸上輸送をつなぐ「重要な橋渡し役」として、国際物流において不可欠な要素といえます。

発生する場面(輸出時・輸入時)

THCは、輸出・輸入のどちらの取引においても発生します。
輸出の場合は、以下のような流れで費用が発生します。

  • コンテナを荷主の施設で積載
  • 港へ搬入し、ターミナルで受け入れ
  • クレーンで本船へ積み込み(ここまでがTHC対象)

輸入の場合は、以下の流れです。

  • 本船から港へコンテナを陸揚げ
  • ヤードへ移動・一時保管
  • 輸入者へ引き渡し(トレーラー等に積み替え)

いずれの場合も、「港湾ターミナルで行われる一連の作業」に対して課金されます。貨物の種類や混載・FCL(フルコンテナ)によって料金体系が異なる点にも注意が必要です。

海上輸送との関係性

THCは、海上運賃とは別建てで請求されることが多い費用です。ただし、契約内容によっては「THC込みの運賃(All-in Rate)」として提示されることもあります。
この扱いはインコタームズに大きく左右され、たとえば以下のような違いがあります。

  • FOB(Free On Board):輸出側が出港地でのTHCを負担
  • CIF(Cost, Insurance and Freight):輸出者がTHCを含めた費用で契約
  • DDP(Delivered Duty Paid):輸出者が輸入地のTHCまで負担

運送業者やフォワーダーによっては、THCが「含まれている前提」で見積もられていたり、別途「Local Charges」として加算されたりするケースもあります。そのため、契約時や見積確認時には、THCの有無や請求形態を必ず明確にしておくことが大切です。

THCは港でのコンテナ取扱いに必ず発生する費用で、輸送コストに直結する重要項目です。一方で契約条件や請求方法によって負担者が変わるため、事前確認が欠かせません。

THCがカバーする具体的な作業

「THCに含まれる作業」といっても、その範囲は意外と広く複雑です。実際にどのような業務や設備使用が費用に反映されるのかを具体的に確認しておきましょう。

コンテナの積み下ろし作業

THCに含まれる代表的な作業は、船舶への積み込み(ローディング)および荷下ろし(アンローディング)です。大型クレーンやスプレッダー(吊具)を使ってコンテナを正確に移動させる必要があり、安全かつ効率的に作業を行うためには高度な技術が求められます。
作業が遅延すると船のスケジュールに影響するため、港湾では24時間体制で運用されることもあります。

港内での移動・保管・仕分け作業

コンテナは、ターミナル到着後すぐに引き取られるわけではなく、一定期間ヤード内に保管されます。引き取り先のトラックや鉄道の到着時間に合わせて順次移動・仕分けされるため、港内での運搬や並び替えが頻繁に行われます。
特に混雑する大規模港ではこの工程が複雑になり、保管スペース確保や人員配置にも影響します。

設備使用にかかる料金

THCには、コンテナハンドリングに必要な港湾設備の使用料も含まれます。主な設備としては、ガントリークレーン、トランステナー、トップリフター、リーチスタッカーなどがあり、これらは港湾ごとに種類・性能が異なります。
使用頻度や設備の老朽化状況によって、ターミナルが設定する料金にも差が出ます。また、冷蔵コンテナ(リーファー)の場合、電源供給設備の利用料金が加算されることもあります。

積替えや複合輸送に伴う作業

国際輸送では、貨物が一度別の港に立ち寄って積み替えられる「トランシップ(積替え)」が行われることがあります。この場合、積み下ろしだけでなく「一時保管」「再積み込み」といった作業が追加で発生し、これらもTHCに含まれることがあります。
また、船から鉄道や内陸輸送トラックに積み替える「複合輸送(マルチモーダル)」の場合も、ターミナル側の作業としてTHCが課金される対象になります。

THCの請求と支払いの流れ

THCは誰が、いつ、どのように支払うのか。実務では、インコタームズや契約書の内容によって扱いが変わるため、請求の流れを理解することが重要です。

誰がTHCを支払うのか(荷主・フォワーダーなど)

THCの支払い者は取引条件や契約内容によって異なりますが、実務上はフォワーダー(貨物利用運送事業者)がいったんターミナルに支払い、その後、荷主に請求するケースが主流です。
特に海上輸送を含む複雑な物流では、荷主が直接ターミナルとやり取りすることは少なく、多くの場合、請求書はフォワーダーから発行されます。

一方で、荷主が独自に運送契約を結び、THCを直接負担する場合もあります。たとえば、DDUやDDP条件での輸入契約では、輸出者側が輸入地でのTHCまで負担することもあり、誰が支払うかを明確にしておかないと、トラブルの原因になります。

インコタームズ(FOB/CIFなど)との関連性

インコタームズ(貿易取引条件)におけるTHCの負担範囲は契約条件によって異なります。

インコタームズ条件THCの扱い(一般的な実務)補足
FOB
(Free On Board)
輸出者が出港地でのTHCを負担本船積み込みまでの費用は売り手負担
CIF / CFR
(Cost, Insurance and Freight / Cost and Freight)
輸出者が運賃まで負担するが、
到着港のDTHCは買い手負担
到着地のローカルチャージは原則買い手
DAP / DDP
(Delivered at Place / Delivered Duty Paid)
輸出者が仕向地までの費用を負担
(DTHCも含むことが多い)
荷卸し費用は買い手負担が通例

最終的な費用負担は契約書や見積条件(Incoterms 2020 A9/B9の費用配分)で明確化しておくことが重要です。

なお、THCの負担者はインコタームズ(FOBやCIFなど)に強く依存します。まだインコタームズに不安がある方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

B/L(船荷証券)との関係

B/L(船荷証券)は貨物の所有権や輸送契約を証明する重要書類で、通常はFreight Prepaid / Freight Collect(運賃の前払/着払)の別が記載されます。一方、THCなど到着地ローカル費用はB/Lには明記されず、別途インボイスで請求されるのが一般的です。

したがって、誰がどのローカル費用を負担するのかは、見積書や契約書面であらかじめ明確にしておくことが不可欠です。

請求タイミングと実務上の注意点

THCは、輸出ではコンテナの搬入時点、輸入では貨物引き取り前に発生し、請求されるのが一般的です。フォワーダーを通じて支払いが行われる場合、請求書は通関・船積み・陸送手配などと一括で発行されることも多く、内訳の確認が欠かせません。

特に注意したいのは、「見積書にTHCが含まれていなかった」または「運賃込みと思っていたら別請求だった」といったケースです。見積段階で「THCがAll-inか、別建て(Local Charges)か」を明確にし、通関業者やフォワーダーとの連携を密にしておくことがトラブル回避につながります。

関連費用との違いと混同しやすい項目

THCと似た費用名が多く、初心者には混同しやすいポイントです。ここでは代表的な関連費用との違いを整理し、見積書・請求書のチェックポイントも紹介します。

DOCやCFSチャージなどとの違い

THCと混同されがちな費用として、ドキュメント・チャージ(DOC)やCFSチャージがあります。いずれも港や物流の現場で発生する費用ですが、対象となる作業内容や課金主体が異なります。
以下の表に、それぞれの違いを整理しました。

費用項目内容主な発生場所
THCコンテナの積み下ろし、ヤード内移動、保管港(ターミナル)
DOCB/L発行や通関書類作成などの事務手数料フォワーダー・船会社
CFSチャージLCL貨物の仕分け、梱包、積み合わせ作業CFS倉庫(混載業者)

THCは、あくまで「物理的な貨物の取扱い」に関する費用であり、コンテナ単位で発生します。一方、DOCは「書類」に関連する事務手数料で、CFSチャージは「コンテナ未満貨物(LCL)」を対象とする特有の費用です。

実務では、これらの費用が一括で請求書に記載されている場合もあり、内訳を確認しないと混同しやすくなります。特に初心者がTHCとCFSチャージを混同してしまうケースが多く、「輸送費に含まれていると思っていた」「どちらの負担か決まっていなかった」というトラブルにつながることもあります。

また、THCとCFSチャージは「両方請求される」場合もあるため、費用構造を理解しておくことが重要です。例えば、LCL貨物でCFS倉庫に搬入し、そこからコンテナで出荷される場合、CFSチャージとTHCの両方が発生します。
費用の二重請求を避けるためにも、見積時点で各費用の定義と範囲を確認しておくことが求められます。

見積書・請求書での確認ポイント

THCやDOC、CFSチャージといった費用は、見積書や請求書では「ローカルチャージ」や「サーチャージ」などの名目でまとめて記載されることがあり、内容が不透明になりがちです。
こうした表記では、各費用の内訳が明記されていないケースも多く、見積時の確認が不十分だと、想定外の請求につながる可能性があります。

特にTHCが「運賃に含まれる(All-in)」のか、「別建て(Local Charge)」で請求されるのかは、総コストに大きく影響します。契約時のインコタームズ(例:FOB、CIFなど)に応じて、どの費用を誰が負担するかが変わるため、フォワーダーや取引先との事前のすり合わせが不可欠です。

THCが高騰するケースとリスク

一見固定費に見えるTHCですが、実はさまざまな要因で変動します。予想外のコスト増を避けるために、高騰リスクの背景と対策を押さえておきましょう。

港湾混雑・ストライキの影響

世界的に貿易量が増加する中、特にアジアや欧州の主要港では慢性的な混雑が発生しています。荷役作業やコンテナ引き取りに遅れが出ると、THCの対象となる作業回数や保管日数が増えるため、費用が膨らむ原因となります。

また、港湾労働者のストライキや設備トラブルが起きた場合には、作業が完全にストップし、ヤードでの滞留時間が長期化します。これにより、追加の保管料や人件費などがTHCに上乗せされるリスクが高まります。

為替変動や燃料費の影響

THCの一部は、国際市況に連動する燃料費や電力料金、クレーン設備の維持管理費などで構成されています。こうした費用が上昇すると、港湾会社はTHCの料金体系を見直すことがあります。
特にドル建てで請求されるケースでは、円安が進行すると輸入者側の負担が増大します。

港湾によっては年に1回以上、THC料金が改定される例もあるため、為替リスクと合わせた費用予測が重要になります。

想定外コストが発生する具体例

たとえば、輸入通関に必要な書類が不備だった場合、貨物の引き取りが遅れ、コンテナが港に留まる日数が増えます。この間にかかる保管料や再手配料は、最終的にTHCとして請求されることがあります。
その他、検疫・X線検査などが必要になった場合も同様に、当初の見積もりを大きく上回るリスクがあります。特に輸入側が関与しない「CIF」や「DDP」条件では、THCが不明確になりやすく、注意が必要です。

リスクを回避するためのポイント

THCの高騰リスクを抑えるには、契約条件(インコタームズ)でTHCの負担者を明確にしておくことが基本です。また、港湾の混雑状況やストライキ情報などを事前に把握し、スケジュールに余裕を持たせることで、急な遅延による追加費用を避けやすくなります。

さらに、THCを定額で合意しておく「オールイン見積もり」も有効な手段です。実務上は、フォワーダーや船会社との密な連携が不可欠です。

THCだけでなく、関税の負担者についても契約内容によって異なります。これらの費用が曖昧なままだと、想定外のコストを被るリスクが高まります。まだ関税の基礎知識に不安がある方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

まとめ

THC(ターミナル・ハンドリング・チャージ)は、港でのコンテナ取扱いにかかる基本的な費用であり、輸出入取引に欠かせないコストです。積み下ろしや保管、設備の使用料などが含まれ、契約条件によって費用の負担者が異なります。

THCは、見積もりや請求明細に大きく影響するため、内容を正確に理解しておくことが重要です。関連費用との違いやリスク要因も把握しておけば、実務上のトラブルを防ぐ助けになります。

不明点がある場合は、貿易の専門家に一度相談してみることをおすすめします。事前の確認が、不要なコストや誤解を避けるための確実な手段となります。

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