【2025年版】世界の消費税事情完全ガイド

世界では、さまざまな形で「消費税」または「付加価値税(VAT)」が導入されています。
一口に消費税といっても、国によって課税対象、税率、免税規定、控除制度には大きな違いがあり、地域ごとの経済政策や社会保障制度を反映しています。
また近年では、インフレ対策、国家財政の立て直し、さらには急速に拡大するデジタル経済への対応を背景に、消費税制度の見直しや改革が世界各国で加速しています。

本記事では、2025年時点での世界各国の消費税事情について、ランキング・最新動向・ビジネス対応ポイントを詳しく解説します。特にビジネスで海外市場をターゲットにする方は、必ず押さえておきたい知識をまとめています。

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世界で広がる消費税の仕組みと基本ルール

世界各国で導入されている消費税制度は、基本的な考え方は共通していますが、国によって細かい運用ルールには大きな違いがあります。

まずは、消費税が世界でどのような仕組みで機能しているのか、基本を押さえておきましょう。

消費税とは?世界共通の基本的な考え方

消費税とは、最終的な消費者が負担する間接税です。
企業は商品やサービスを販売する際に消費税を上乗せして価格に反映し、消費者から預かった税金を、まとめて政府に納付します。

特徴的なのは、

売上に対して税を課しながらも、企業は「仕入れ時に支払った消費税」を控除できること

・これにより、実質的な税負担は最終消費者に限定される構造になっていることです。

この仕組みは、日本でも欧州でも共通しており、「付加価値に対して課税する」という意味から付加価値税(VAT)とも呼ばれています。

項目 説明
納税義務者 企業・事業者(販売者)
実質的な負担者 最終消費者
税の仕組み 売上税額−仕入税額=納付税額

日本の消費税と世界の付加価値税(VAT)の違い

日本では「消費税」という名称が使われていますが、世界の大半の国では「付加価値税(VAT)」が採用されています。
両者は基本的な仕組みは似ているものの、運用面でいくつか違いが見られます。

比較項目 日本の消費税 世界のVAT(例:EU諸国)
名称 消費税(Consumption Tax) 付加価値税(Value Added Tax)
納付方法 申告・納付方式 申告・控除方式(インボイス制度必須)
軽減税率 食品等に軽減税率あり(8%) 各国で広く導入(5%〜10%など)
インボイス制度 2023年から本格導入開始 以前から標準的に導入済み

特に近年、日本でもインボイス制度(適格請求書保存方式)が導入され、EU型VATに近づいています。
このインボイス制度について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

国際取引を行う企業にとっては、この違いを正確に理解しておくことが必要です。

世界での課税対象と免税対象の違い

消費税やVATは「最終消費」に課されることが原則ですが、国や地域によって、何に課税し、何を免除するかの線引きが異なります。

【課税対象】

・商品の販売

・サービスの提供

・輸入取引(関税とは別途課税)

・一部のデジタルサービス(例:SaaS、配信サービス)

【免税対象】

・教育サービス(多くの国で非課税)

・医療・福祉サービス

・一部の金融取引

・郵便事業(国による)

※免税(exempt)とゼロ税率(zero-rated)も本来は区別されます(ゼロ税率は仕入税額控除が可能、免税は不可)。

用語 意味 仕入税額控除の可否
免税(exempt) 税自体がかからない取引 不可
ゼロ税率(zero-rated) 税率0%だが取引対象 可能

たとえば、イギリスでは書籍販売はゼロ税率ですが、アメリカでは州によって課税対象だったりするなど、国際的に細かな違いがある点に注意が必要です。

世界各国の消費税率ランキング【2025年版】

2025年現在、世界各国で導入されている消費税(付加価値税、VAT)の税率は、国の経済状況や政策目的により大きく異なります。特に欧州諸国では高い税率が一般的であり、社会保障や財政健全化のための重要な財源となっています。

一方で、税率の引き上げや制度改革が進む国もあり、最新の動向を把握することが重要です。

世界の消費税率トップ10(2025年)

順位 国名 消費税率(VAT) 特徴・背景
1位 ハンガリー 27% 世界最高税率。
社会保障費の財源確保が目的。
2位 クロアチア 25% EU加盟後、財政再建の一環として
高税率を維持。
3位 デンマーク 25% 高福祉国家。
広範な課税対象で税収を確保。
4位 スウェーデン 25% 福祉国家モデル。
軽減税率制度も導入。
5位 ノルウェー 25% 医療・教育は免税対象。
高水準の公共サービスを維持。
6位 フィンランド 25.5% 2024年に24%から引き上げ。
財政赤字対策。
7位 アイスランド 24% 観光業にも広く課税。
8位 ギリシャ 24% 債務危機後の
財政再建策として増税。
9位 ポルトガル 23% 経済再建とEU基準への対応。
10位 アイルランド 23% EU内でも高めの税率を維持。

※フィンランドは2024年9月に標準税率を24%から25.5%に引き上げました。

地域別の消費税率の特徴

欧州

欧州連合(EU)加盟国では、消費税率が比較的高く設定されており、平均で約21.8%となっています。

これは、福祉国家モデルを支えるための財源として消費税が重要な役割を果たしているためです。また、EUでは最低標準税率が15%と定められており、加盟国はこれを下回ることができません。

アジア

アジア諸国では、消費税率が比較的低めに設定されている傾向があります。例えば、日本は10%、韓国は10%、中国は13%(一部品目は9%や6%)となっています。

ただし、インドネシアは2025年1月から一部の高級品に対してVATを11%から12%に引き上げる方針を示しています。

アフリカ

アフリカ諸国では、消費税率は国によって大きく異なります。例えば、南アフリカは15%で、2025年に0.5%の引き上げが計画されていましたが、政治的な反発により撤回されました。 

最新の税率変更動向(2025年)

2025年には、いくつかの国で消費税率の変更が予定または実施されています。

・スロバキア:​2025年1月に標準税率を20%から23%に引き上げました。

・エストニア:​2025年7月に標準税率を22%から24%に引き上げる予定です。

・イスラエル:​2025年1月に標準税率を17%から18%に引き上げました。

・インドネシア:​2025年1月から一部の高級品に対してVATを11%から12%に引き上げる方針です。

これらの動きは、財政健全化や社会保障の充実、インフレ対策など、各国の経済状況や政策目的に応じたものです。

2025年に動く世界の消費税改革・最新ニュース

2025年、世界各国では消費税(VAT)制度に関する大きな改革や動きが進行中です。
インフレ対応、デジタル経済への課税強化、財政赤字対策など、それぞれの国が抱える課題に応じた対応が行われています。
ここでは、特に注目すべき各国・地域の消費税改革を詳しく紹介します。

インドネシア:高級品に限定したVAT引き上げ

インドネシアでは、2025年1月1日より、一部の奢侈品(高級車、高級住宅、飛行機、ヘリコプター、ヨットなど)に対して適用するVATを、従来の11%から12%に引き上げました。

当初、政府は全体的な消費税引き上げを計画していましたが、国民負担の増加への懸念や経済活動の鈍化リスクが指摘されたため、対象を高額商品に限定する方針へと軌道修正されました。

背景には、インドネシア国内での購買力維持と、コロナ後の景気回復を優先したいという意図があります。
ただし、今回の措置によって一部のラグジュアリー市場への影響は避けられず、高級品消費の低下や富裕層による国外購入の増加が懸念されています。

将来的には、経済情勢を見ながら全体的な税率引き上げを再検討する可能性も残されています。

欧州連合(EU):デジタル時代のVAT改革(ViDA)を正式承認

EUでは、2024年11月に「デジタル時代のVAT(ViDA)」パッケージが承認され、これにより大規模な税制改革が始動しました。
ViDAは、欧州域内のVAT制度をデジタル時代に適応させるための抜本的な見直しを目的としています。

改革の柱は以下の3点です。

1.デジタル報告義務(Digital Reporting Requirements, DRR)と電子インボイスの義務化
→ 2030年7月1日から、EU域内取引におけるB2B取引でリアルタイム電子インボイスが標準となります。紙のインボイスは事実上廃止され、デジタル管理が義務づけられます。

2.プラットフォーム事業者への課税義務強化
→ 2028年7月1日以降、Uber、Airbnbなどのプラットフォーム事業者は、個人事業者に代わってVATを徴収・納付する義務が発生します。これにより「影の経済」対策が強化されます。

3.VAT登録手続きの簡素化
→ 2028年7月1日から、複数国でのVAT登録を不要にし、ワンストップ登録制度(OSS)の範囲拡大が図られます。

これにより、EU加盟国間の取引におけるコンプライアンスコストが削減され、脱税防止効果も期待されています
企業にとっては、これまで以上にリアルタイムなデータ管理体制の整備が急務となります。

ブラジル:消費税制度の抜本改革へ

ブラジルでは、2025年1月に消費税制度の改正法が成立し、2026年から段階的に新しい税体系への移行が始まります。
長年、複雑かつ非効率と言われてきたブラジルの間接税制度を抜本的に改革する試みです。

新制度では、以下の3つの税が導入されます。

物品・サービス税(IBS):州・地方政府レベルでの付加価値課税

物品・サービス負担金(CBS):連邦政府レベルでの付加価値課税

選択税(IS):特定商品の選択課税(例:タバコ、アルコールなど)

また、納税プロセスも大幅にシンプル化され、売上に対して分割納税するシステムが採用されます。これにより、税務透明性が向上し、事業者側の負担も軽減される見通しです。

一方で、複数年にわたる移行期間中は旧制度と新制度が並行して適用されるため、企業には高度な税務管理体制が求められます

カナダ:大麻製品への課税見直し議論

カナダでは、合法化以降急速に市場が拡大している大麻製品に対する物品税(Excise Tax)の制度見直しが議論されています。

現行制度では、各州ごとに異なる印紙(スタンプ)が必要となり、流通・管理コストが高騰しています。さらに、過剰な課税が違法市場を助長しているという指摘もあり、政府は次のような改革を検討しています。

・全国統一の物品税印紙の導入

・税率の引き下げまたは再構成

・小規模事業者への負担軽減措置の導入

2025年中に法改正がなされる可能性が高く、合法市場の活性化と違法市場の抑制を狙った施策として注目されています。

アメリカ:グローバル税制合意からの離脱表明

2025年1月、アメリカのトランプ大統領は、OECDが主導する「グローバル税制合意」(通称:二本の柱)からの離脱を正式に表明しました。

この合意は、多国籍企業による税逃れを防ぐため、

・世界共通の最低法人税率設定(柱2)

・大手デジタル企業への課税ルール変更(柱1)
を目的としたものです。

米国の離脱により、世界的な税制協調の枠組みが大きく揺らぎ、各国が個別にデジタル課税や最低税率政策を推進するリスクが高まりました。

さらにトランプ政権は、外国による米国企業への「差別的課税」に対して報復関税や制裁税を科す可能性も示唆しており、今後の国際ビジネス環境に不透明感が広がっています

越境ビジネスに欠かせない世界の消費税対策

グローバル化が進む中、越境ECや海外取引を行う企業にとって、各国の消費税(VAT)対応は避けて通れないテーマとなっています。
特に近年は、電子商取引やデジタルサービスへの課税強化が進んでおり、対応を怠ると想定外のコスト増や法的リスクに直結するリスクが高まっています

このセクションでは、越境ビジネスに取り組む企業が押さえるべき世界の消費税対策について、実務視点で詳しく解説します。

世界のVAT登録義務

海外市場向けに商品やサービスを販売する際、多くの国では現地でのVAT登録が義務付けられています。
この登録義務は、単なる「現地法人がある場合」に限らず、オンライン販売のみの場合でも発生する点が重要です。

特にEU圏では、売上高にかかわらずBtoC販売を行う企業に対して、OSS(One-Stop Shop)制度によるVAT登録が義務化されています。
アメリカのようなSales Tax中心の国とは異なり、EUでは「販売拠点の有無に関係なく、購入国ごとに納税義務が発生する」のが特徴です。

以下は、主要地域における2025年時点のVAT登録要件のまとめです。

国・地域 登録要件(2025年版)
EU各国 OSS制度による一括登録。売上に応じた国別VAT申告・納付。
イギリス(UK) BtoC売上が一定額(10,000ポンド超)を超えた場合、英国VAT登録が必要。
オーストラリア・ニュージーランド 海外事業者でも売上が一定額(7万5千豪ドル超など)を超えた場合、GST登録が必要。
日本 越境ECの場合、現地VAT登録不要。ただしインボイス制度対応が必要。

これらのルールに違反すると、重い罰則金や販売停止措置が課される場合があり、十分な注意が必要です。

また、登録後も定期的なVAT申告、納付、帳簿保存義務などが発生します。国によって細かな要件が異なるため、事前の情報収集と管理体制の構築が不可欠です。

電子インボイス対応の加速

近年、世界各国では電子インボイス(e-Invoice)制度の義務化が急速に進んでいます。
特に欧州や中南米諸国では、紙の請求書ではなく、標準化された電子フォーマットで取引情報を税務当局にリアルタイム送信することが求められています。

電子インボイス化が進む背景には、不正防止(脱税・二重課税リスクの軽減)、納税プロセスの効率化、国際取引の透明性向上といった政策目的があります。

例えば、イタリアでは2020年からB2B取引に電子インボイスが義務付けられており、今後はEU全体にも拡大される見通しです(ViDA改革)。

越境ビジネスに取り組む企業は、電子インボイス対応のシステム整備、フォーマット(XMLなど)への対応、税務当局とのデータ連携体制の構築が必須となります。

未対応の場合、罰則や取引停止リスクが発生するため、早めの準備が求められます。

デジタルサービス課税への対応

越境ビジネスの中でも特に注意が必要なのが、デジタルサービスへの消費税課税です。
従来、モノの輸出入にのみ課税されていた仕組みが、今ではSaaS提供、アプリ販売、ストリーミング配信、電子書籍販売などにも拡大適用されています。

具体的には、

・現地消費者(個人)に対してデジタルサービスを提供した場合、その国のVAT登録・納税義務が発生する

・たとえ現地法人がなくても「リモート納税義務」が課せられるケースが多い

・特にEU、オーストラリア、韓国、日本などで制度化が進んでいる

例えば、フランスにいる個人に対して日本企業がSaaSサービスを提供する場合、売上額にかかわらずフランスVATを納付しなければならない場合があります。

この対応を怠ると、多額の追徴課税、過去遡及による重加算税、サービス停止や利用者への影響 といった大きなリスクが生じます。

そのため、事業開始前に対象国ごとの消費税規定を正確に把握し、必要な登録・申告対応を整えておくことが必須です。

まとめ

2025年現在、世界の消費税制度は従来以上に複雑化・多様化しています。
税率の高い国・低い国、デジタル課税、電子インボイス化といった新しい流れを正しく把握することは、個人も企業も今後必須となります

特に海外展開を視野に入れるビジネスでは、「知らなかった」では済まされない税制リスクに直面する場面が増えています。

もし具体的な対応方法に不安がある場合や、国別対応に悩んだ場合は、専門家に相談するのも一つの有効な選択肢です。

早めに正しい知識と支援を得ることで、リスクを最小限に、ビジネスチャンスを最大限に広げましょう。

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