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海外との取引において、国ごとに異なる「関税制度」を理解することは、コスト管理や価格戦略を考える上での出発点です。
とくに2025年現在、各国でFTA(自由貿易協定)や保護主義の動きが入り混じり、関税政策が戦略的な外交・経済手段として使われるようになってきました。
この記事では、貿易実務者にとって関心の高いアメリカ、日本、中国、カナダ、メキシコ、ロシア、ベトナムの関税制度を紹介し、それぞれの特徴・リスク・活用のヒントを簡潔かつわかりやすく整理します。
さらに、各国の詳細解説ページにもリンクしていますので、気になる国の深掘りにもご活用ください。
アメリカの関税制度
アメリカでは、製品の種類や輸入元によって適用される関税が大きく異なります。とくに中国や一部の発展途上国製品に対しては、通商法に基づく特別関税が課されるケースが多くあります。
また、FTAの対象外となる国・品目については、通常の関税がかかります。
主な関税制度と特徴
制度名称 |
概要 |
主な対象 |
通常関税 |
一般的な関税率 |
FTA対象外の製品 |
301条関税 |
不公正貿易国に対する |
主に中国製品 |
232条関税 |
国家安全保障に基づく |
鉄鋼、アルミなど |
201条関税 |
国内産業保護目的の |
洗濯機 |
実務で注意すべき点
・米国では品目ごとに詳細な「HSコード」が割り当てられており、誤った分類は過少・過大申告として罰金対象になります。
・CBP(米国税関・国境取締局)への事前確認(Binding Ruling)制度を利用することで、輸入時の税番や税率を事前確定できます。
・関税率は米国国際貿易委員会(USITC)の「Harmonized Tariff Schedule(HTS)」で確認可能。
アメリカ向け輸出入における戦略的対応
・関税対策には、原産地証明の取得・FTA利用・製品仕様の調整などが有効。
・特に中国や他の貿易制裁対象国との取引では、最終組立地を第三国に変更するなどの「原産地戦略」が必要になるケースもあります。
より詳しい制度内容や、主要品目別の関税率の最新動向については、以下の記事で徹底解説しています。
日本の関税制度
日本はWTO加盟国であると同時に、複数のFTA・EPAを通じて各国との関税削減を進めてきました。
CPTPPや日EU・日英EPAの発効により、多くの品目で段階的な関税撤廃が行われています。
一方で、日本独自の制度も多く、輸入申告・評価方法・税番分類など、実務的な対応力が求められます。
関税の構造と計算方法
税種 |
内容 |
主な対象 |
従価税 |
課税価格に対する割合で課税 |
一般工業製品など |
従量税 |
単位数量・重量あたりの固定税額 |
農産物や鉱物資源など |
混合税 |
従価税と従量税の併用 |
特定の農水産品など |
課税価格の算出には「CIF価格(Cost, Insurance, and Freight)」が用いられ、輸入品の実質コスト評価が求められます。
実務者が気を付けたいポイント
・HSコードの正確な分類が、税率の判定だけでなくFTA適用可否にも直結します。
・特恵関税制度(GSP)を活用する場合、原産地証明書の取得や特定書類の保管義務に注意。
・税関事前教示制度により、課税価格や品目分類に関する照会が可能です。
日本企業がとるべき戦略的アプローチ
・EPAやFTAの適用条件を整理し、自社輸入品のどこに活用できるかを洗い出す。
・輸入時の実質原価を見積もる際に、関税+消費税+通関手数料を合算したTCO(総保有コスト)で判断することが重要です。
・デジタル化されたNACCS(通関情報処理システム)の活用も業務効率化に有効。
制度全体の構造や計算事例、最新の税率動向については、以下の記事でより詳しく解説しています。
中国の関税制度
中国はWTOに2001年に加盟して以降、外資企業の参入を進めつつ、段階的に輸入関税の引き下げを実施してきました。2025年現在でも一般品目については関税水準が安定しており、アジアの貿易ハブとしての地位を確立しています。
一方で、輸出促進や経済圏形成のための特殊制度(保税区や還付制度)が複雑に絡み合う点は他国にはない特徴です。
基本的な関税体系
区分 |
内容 |
適用対象 |
一般関税率 |
WTO協定税率 |
多くの標準品目 |
最恵国税率 |
WTO加盟国に適用 |
日本、EU、ASEAN加盟国など |
協定税率 |
FTAに基づく特別税率 |
RCEP、ASEAN-中国FTAなど |
暫定税率 |
特定期間中の優遇税率 |
一部原材料、環境製品など |
還付・保税制度の活用
中国の最大の特徴は、税を還付・免除するメカニズムが整備されている点にあります。
以下のような制度を適切に活用することで、実質的なコスト削減が可能となります。
制度 |
概要 |
主な用途 |
輸出税還付制度 |
輸出時に支払ったVATや |
加工貿易、 |
保税区(FTZ)制度 |
一時的な関税免除 |
再輸出、 |
一般保税制度 |
課税保留中に |
組立拠点の税効率化 |
実務での注意点と課題
・税関審査は厳密であり、書類や原産地証明の不備は申告差戻しや遅延につながる。
・HSコードによる税率区分が非常に細かく、地域ごとの税関でも判断が異なる場合がある。
・越境EC(跨境電商)においては特別税率や通関ルールが適用されるため、通常のB2B取引とは異なる運用を理解する必要あり。
中国貿易における戦略的観点
・関税コストの削減は還付制度の理解と実務フローの整備にかかっている。
・輸入地(港湾・保税区)の選定によっても通関効率やコストに差が出るため、物流戦略との連動が重要。
・日中間にはRCEPや日中韓FTA交渉が影響する可能性があり、制度動向に継続的な注視が必要です。
品目別の関税率一覧や、還付制度の具体的な運用事例など、実務で使える詳細情報については下記の記事でさらに詳しく解説しています。
カナダの関税制度
カナダは自由貿易政策に積極的で、CPTPP(包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定)やUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)など、複数の貿易協定を通じて多くの品目の関税を撤廃しています。
これにより、加盟国間での貿易は極めて低コストで行えるようになっています。
関税制度の概要
種類 |
概要 |
適用先 |
一般関税率(MFN) |
WTO基準の税率 |
非FTA加盟国との取引 |
協定税率(FTA) |
協定に基づく優遇税率 |
CPTPP、USMCA、EU-Canadaなど |
無税 |
大半の工業製品に適用 |
多くの先進国からの輸入品 |
税関制度と通関プロセス
カナダでは、輸入者が事前に関税分類・税率を確認できるよう「Advance Rulings(事前裁定制度)」が設けられています。
また、新たに導入されたCARM(CBSA Assessment and Revenue Management)制度によって、輸入者はオンライン上で税務申告と納付を行うことが求められます。
制度名 |
内容 |
実務への影響 |
Advance Ruling |
品目分類・原産地 |
税率や手続きの予測性向上 |
CARM |
電子通関プラットフォーム |
登録義務あり |
カナダ特有の動き
カナダでは環境政策との連動によって、今後「炭素税」や「CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism)」のような制度が輸入品に対して導入される可能性があります。
これにより、高炭素排出の製品に対する追加課税が行われることが懸念されています。
日本企業がとるべき対応策
・関税削減対象製品を洗い出し、CPTPPやEPAの活用可能性を精査する。
・CARM登録を事前に済ませ、社内の通関体制を電子化・効率化する。
・課税制度への対応として、サプライチェーンの再設計や環境証明書の整備を検討する。
主要品目ごとの関税率やCPTPPの適用条件など、実務で押さえておくべき情報は以下の記事で詳しく解説しています。
メキシコの関税制度
メキシコはアメリカ・カナダとの間で結ばれたUSMCA(旧NAFTA)により、北米域内の関税がほぼ撤廃されています。
これにより、メキシコは製造拠点・輸出拠点として非常に高い戦略的価値を持つ国となっており、日本企業の進出も活発化しています。
USMCAにおける原産地規則(ROO)の影響
USMCAでは単に「メキシコで製造された」だけでは関税優遇を受けられず、詳細な原産地規則(ROO:Rules of Origin)を満たす必要があります。
特に自動車産業では規定が厳格で、複雑な要件をクリアする必要があります。
要件項目 |
内容 |
留意点 |
原産割合 |
自動車部品の75%以上が |
比率未満なら |
労働賃金条件 |
一定割合の生産工程を |
カナダ・米国製造への |
鉄鋼と |
北米産の使用比率が |
購買・供給管理体制が |
メキシコの関税制度の一般的な特徴
区分 |
内容 |
備考 |
MFN税率 |
5~35%前後 |
WTO加盟国に適用 |
協定税率 |
FTA対象国との関税撤廃 |
日本とは日メキシコEPAあり |
特別税制度 |
一部農産品などに追加課税あり |
輸入割当制度と連動 |
実務で求められる対応力
・原産地証明書(USMCA Form)を正確に作成・提出できる体制が不可欠。
・通関での遅延・トラブルを防ぐため、スペイン語対応の輸出書類と現地物流業者との連携が重要です。
・電子通関(VUCEM)の普及により、情報の事前登録・自動化が求められます。
メキシコを活用する際の戦略視点
・USMCAの制度的メリットを活かしてアメリカ向けの事実上無関税ルートを確保する。
・輸出入時の非関税障壁(例:ラベリング・成分規制)にも注意を払う必要がある。
・自動車・電機分野では現地組立や調達比率に応じた「適格品目化」がカギとなります。
USMCAの具体的なルールや、日メキシコEPAとの比較、実務で役立つ申告書類の運用例などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
ロシアの関税制度
ロシアはWTO加盟国であり、関税率の上限は国際基準で一定の制限を受けていますが、ウクライナ侵攻以降の経済制裁や対抗措置により、実際の通関運用には不確実性が高まっています。
特に欧米諸国や日本からの輸入に対しては、政治的背景を持つ制限措置が課されている場合があります。
主な関税体系と特徴
区分 |
内容 |
留意点 |
一般税率 |
5~20%程度 |
WTO協定税率に準拠 |
優遇税率 |
EAEU加盟国間で適用 |
カザフスタン、ベラルーシ等 |
禁輸・特別関税 |
政治的措置に基づく制限 |
対日・対EU製品などが対象 |
ロシアは関税制度の運用主体として、ユーラシア経済連合(EAEU)の関税同盟に属しています。
このため、ロシア単独の判断ではなく、域内政策に基づいた関税決定が行われるケースも多くあります。
通関手続きと輸入時の制限
・通関はロシア連邦税関局が所管し、電子申告システム(FTS)が導入されています。
・戦略物資や技術品目の輸入には追加許可(ライセンス)が必要な場合があります。
・ロシア語による書類提出や、現地通貨建ての決済要件が求められることもあり、事前調査とローカル対応力が重要です。
政治・経済的リスクと今後の見通し
・対露制裁の影響により、貿易相手国や経由地に制限がかかることがあるため、第三国経由の取引(いわゆる迂回貿易)も視野に入れる必要があります。
・スウィフト(SWIFT)排除に伴う国際決済の遅延・停止リスクが高く、輸出入契約には支払保証や前払い条件を検討する企業が増加中です。
・今後、インド・中国とのブロック経済化が進むことで、関税政策にも選別的傾向が強まる可能性があります。
通関書類の実例、禁止品目リスト、経済制裁と貿易実務への影響など、現場で役立つ情報は下記の記事にて詳しくまとめています。
ベトナムの関税制度
ベトナムは急速に経済発展を遂げる東南アジア諸国の一角として、貿易自由化政策を積極的に展開しています。CPTPP、RCEP、EVFTAなどの多国間自由貿易協定に加盟しており、対象国との取引においては段階的な関税撤廃が進行中です。
一方、現地税関の運用や原産地証明の管理体制は厳しく、制度を「使いこなす」力が企業には求められます。
主なFTAとその効果
協定名 |
主な締結国 |
特徴 |
CPTPP |
日本、カナダ、豪州など |
高水準の関税撤廃(95%以上) |
EVFTA |
EU加盟国 |
関税の段階的撤廃(最長10年) |
RCEP |
ASEAN+日中韓豪NZ |
広域的で柔軟な原産地ルール |
FTAの適用を受けるには、「原産地証明書(Form D、EUR.1等)」の取得・提示が必須です。また、ベトナム国内法と協定上の規則の両方に準拠する必要があります。
輸入関税制度と通関実務
区分 |
内容 |
備考 |
MFN税率 |
WTO加盟国に適用される基本税率 |
品目ごとに5~35%程度 |
優遇税率 |
FTA対象国に適用 |
品目と協定により0~10% |
特別消費税 |
一部贅沢品・環境負荷製品に課税 |
自動車、酒類、化粧品など |
・通関には「e-Customs」システムの活用が進められており、企業は電子データ提出が求められます。
・HSコードの分類は非常に厳格であり、税関による監視と事後審査が常態化しています。
・英文インボイスとパッキングリストの整備、数量・単価の整合性確保が必須です。
実務上の課題と対応策
・税関の現場対応や審査に差異があり、実務上は通関ブローカーや現地物流企業との連携が鍵になります。
・原産地証明書の記載ミスや遅延は、関税優遇の無効化につながるため、日系企業では現地法人での二重チェック体制が増加傾向。
・輸入管理品目(例:医療機器、食品)には別途ライセンスが必要となる場合があり、規制官庁の事前確認が必須です。
具体的な通関手続きの流れや、FTA申請書類のポイント、実務で起こりやすいトラブル事例などについては、以下の記事で詳細に解説しています。
まとめ
国ごとに異なる関税制度は、単なる税負担の問題ではなく、企業戦略全体に大きな影響を与える重要な要素です。
アメリカやロシアのように政治的影響を受けやすい制度もあれば、日本やカナダのように多国間協定を活用して関税負担を軽減できるケースもあります。また、中国やベトナムに代表されるような新興市場では、還付制度やFTAの活用によってコスト競争力を高める余地があります。
本記事で紹介した7カ国の関税制度には、それぞれ独自の特徴とリスク、そしてチャンスがあります。
今後も各国の制度は、経済安全保障、環境政策、国際関係などを背景に変化する可能性があります。
ぜひ本記事を入り口として、各国の詳細な関税情報にアクセスし、自社の戦略に役立ててください。
カテゴリ:海外ビジネス全般